配役は『サラリーマンD』……あれ?
2017年1月24日。午前三時。名古屋市某所。
俺は眼を覚ますと体中に神経の糸を張り巡らせ、指先から喉の奥、
本当は0.1にしたかったのだが、突っ込みどころか『ヘイ! カマン!』と嘆願される恐れがある為、あえて控えめに表現しておいた。
「体調はオールグリーン……ってとこか。神とやらは俺に最高の肉体を準備してくれたみたいだな……」
この時間での起床なんぞ、どうってことない。
先に述べたイベントやア○サマ、アニ○ックス、リス○ニ等で慣れているからな。
一度コミケなるモノにも参加してみたいと思ってはいるが、あそこにたどり着けるモノは肉体も魂も人外の領域へとたどり着かねばと聞く。名古屋住まいの俺様にとっては、夢は夢のままでいた方がよいか……。
あらかじめ準備しておいた着物一式を
だが最低気温0度近いのに、パンツとシャツの上から|長襦袢を羽織るほど俺の体は萌、燃えてはいないぜ。
オッケー。俺はあくまでクレーバーさ。
そして、ふんどし姿の俺様を楽しみにしていたマイソウルシスターには、ここで謝っておくぜ。
与太はこの辺で。
俺はフリースを着、その上からポケット付きの厚手のベストを着る。
なぜポケットをわざわざ書き記したのか?
そう、このポケットに使い捨てカイロを入れるからだ。
そしてこのポケットが、後に俺の魂の火が消えるのを防いでくれることになる。
『ハイ! NGその一:フリース』
もっとも、この時の俺はそんな未来からの声を受信するほど暇じゃない。
長襦袢に
仕方なく悪戦苦闘しながら角帯を巻く。
帯の巻き方は貝結びだ。
それでもネットで調べながら毎度毎度、悪戦苦闘するはめになる。
なぜなら腰紐がない為、着物がはだけるのもそうだが、俺の腹の出具合だと帯を二周巻くと余りすぎるし、かといって三回巻くとギリギリだからだ。
まったく、帯に三巻き短し、二巻き長しだ。
羽織を纏い、羽織紐は……自分で巻くほど通じゃないので、プラスチック製の石が連なった羽織紐をフックで穴に引っかける。
『ハイ! NGその二:羽織紐』
こんなことをわざわざほざいているのは、後の展開における重要なキーワードだからだ。
今回のように、下手に一昔前のロケだと、こういったNGが下手したら己の寿命を縮める羽目になる。
平日な為、午前四時までにインターの料金所を通過しないとETC割引が効かないからだ。
近所の料金所を通過した俺の車は、一路浜松西インター、そして浜松オートレース場へとアクセルを踏む。
午前五時半頃到着したが入り口がわからず、ほぼ一周する羽目になった。
係員さんの赤く輝く警棒に導かれ、オートレース場の駐車場に車を止める。
どうやら南駐車場みたいだ。
すでに三十台ほどの車が止まっており、若い人から年配の夫婦までぞくぞくと受付へと足を運んでいた。
スニーカーからプラスチック製の雪駄に履き替え、”ペッタンペッタン”と音を響かせながら南門にもうけられた受付へと歩む。
メールをプリントした紙を見せ、名前を述べた俺に返ってきた言葉。
「宇枝さんはDチームのサラリーマンですね」
なるほど、チームごとに分かれて、それぞれ『○○』、『××』って配役があるんだな。生まれて初めてのトリビアだぜ。
しか~し、ベイベェ。俺様のこのクールな着物スタイルが眼に入らないっていうのかい?
「え……えっと、一応着物を着てきたんですけど……」
「あ~そうですか……では衣装の方で指示を仰いで下さい」
”とぼとぼ”と建物に向かう俺。
無情にも北風と言うより暴風となった風が俺の体、特にむき出しになった手に突き刺さる。
(こんな事もあろうかと……)
俺はカバンから新品の軍手を手にはめる。
『ハイ! NGその三:新品の軍手』
トラックを1/3周ほど歩き、ガラス張りの閲覧席のある建物へと入る。
どうやら『グリーンスタンド』と呼ばれる建物だ。
最上階に着くと左側はガラス張りの閲覧席。
しかしまだ夜明け前のため何か写るわけではなく、巨大な鏡となっている。
フロアの真ん中には第8発売所と呼ばれる車券売り場があり、その後ろが衣装や小道具、更衣室となっている。
そしてフロアの奥、特大モニターの下に青のシートが敷かれており、そこがエキストラ参加者用の荷物置き場となっていた。
すでに数十人の人が集まり賑わっていた。
荷物を置き、車券売り場の後ろにある衣装さんの元へ行く。
「あの~サラリーマンって言われたんですけど、せっかくだから着物を着てきたんですけど……」
おどおどと衣装のお姉さんに話しかける俺様。
「あ~そうですか。ちょっとお待ちください」
お姉さんは誰かに聞きにいったがすぐ戻ってきて
「べつにそのままでいいですよ」
とおっしゃってくれた。
しかしお姉さんの目は俺様の体に釘付けになる。
ヲイヲイ! この浜松でもっとも輝いているのは俺様ってか!
「ん~この羽織紐、ちょっと高級そうに見えますね。こちらにして下さい」
意外である。
俺様の魅力の虜にならなかったのではない。
こんなプラスチックの石ですら、当時から見れば高級品に見えてしまうのか。
お姉さんはプラスティックの石の付いた羽織紐を外し、普通の羽織紐を結う。
女性にネクタイを縛ってもらうのは独身男の夢だが、羽織紐を結ってもらうのもなかなか乙なモノだ。
さらに鮮やかな縛り方だ。
現状、帯ですら四苦八苦している俺様である。
いつしか自分で羽織紐を縛りたいものだ。
「手ぶらは何ですので、小道具さんの方で何か借りて下さい」
衣装エリアの奥にある小道具エリアへゆく。
そこには男性女性様々な帽子やカバン、皮靴から下駄まで取りそろえてあった。
本当はもっといろいろとあったのだが、ここへ来たのは一瞬の為、なかなか思い出せれない。
そこで小道具係の男性から中華料理の
中身は当然、丸めた新聞紙だ。
だが丸めた新聞紙をただ詰めただけで、何か入っているように見せるのは
この風呂敷包みに貴重品であるスマホや財布を隠しておこう。
メイクもするみたいだが、この俺様の美貌にメイクさんは不要と思ったのだろう。何事もなくスルーした。
べ、別に悔しくなんかないんだからね!
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