滅亡まで、あと29日 後編
先程まで快晴だった天気は一変し、
雨雲は太陽を隠し、雨を降らせる。
雨が体中を濡らし、雨音が足音をかき消す。
テスの元から離れ、引き金に指をかけ、走りながら茂みから抜け出す。
―――ここで仕留めなければ。もうチャンスは二度と……
銃を構えてあたりを見渡すが
そこには誰もいなかった。
「死ねッ!!!!!」
左から叫び声か聞こえる。
すかさず視線を向けると、木箱の奥から身を乗り出し、ピストルをこちらに向けた軍服の一人の男性の姿が。
しまった!殺される!
とっさ身を屈める。
それと同時に一発の銃声が響きわたった。
幸いなことに、被弾はしなかった。
―――撃たなきゃ、撃たれる。
銃口を男性に向け引き金を引く。
銃声と共に反動で体が飛ばされ、雨で濡れた地面に尻餅をついた。
同時に、その男は倒れた。腹部から血を流している。
男の元へ駆け寄った。
「おい、お前がファニンか!」
その言葉に男性はニヤリと笑い
「元々大統領はここにはいないさ。お前達を誘き出す芝居に過ぎん…しかし、お前を仕留めることが出来なかったのは失態……」
それじゃぁ…どうやって…俺たちをここに。
「もしかして…」
俺たちをここに呼んだ原因。
テスにここにファニンがいる情報を提供した人間……
―――まだ工作員がいたなんて。二人の身が危ない!!
必死に来た道を戻る。
しかし、もう遅かった。
茂みを掻き分けて見えた光景。
あの兵士がチトセを庇ったテスの腹部にナイフを刺し、チトセが悲鳴を上げていた。
テスの腹部からは血が溢れ出ていた。
「くそったれ!!!!」
銃を構え引き金を引く。
先程の反動はなく、その兵士は頭をぶち抜かれ即死だった。
しかし、その顔には死人とは思えない不気味な笑顔が…
「テス!!」
必死に駆け寄る。
「アヤト、遅せぇよ。おかげでこのザマだ」
「待ってろ!!今、助けを…チトセ、この場を頼む!!!」
「分かったわ。」
――――――――――――――――――――
その後のことはあまり覚えてない。
とっさに仲間を呼んで、テスは仲間によって運ばれていった。
その後数時間後…
戦闘は終わり、カテドラル軍の撤退で、俺たちの勝利で終えた。
街の奪還に成功した。カテドラルに大きな大打撃を与えることも出来た。
…しかし、今はまだ喜べない。
ファニンの暗殺には至らなかった。
それと、テスの具合がまだ…
今は、奪還した街の宿場町を新たな拠点としている。
もうとっくに日は暮れ空には満天の星空が広がっていた。
こうして路上で空を眺めていると、チトセが駆け寄ってきた。
「峠は越えたらしいわ、あとは安静にしとくのが先決よ。」
「そうか…」
「それより、今夜は祝賀会よ。今まで昨日今日で苦労しっぱなしだったから、やっと羽を伸ばせるわ。それと…みんな感謝してたわ、もちろん私も…」
チトセの顔には複雑な気持ちが溢れていた。
気を使わせてしまったらしい。
「分かった。行こうか…」
と、例の祝賀会に向かうことにした。
チトセは久しぶりに笑顔を見せてくれた。
――――――――――――――――――――
始まってから数分もしないうちに祝賀会は大盛り上がり。
旧宿場町の一角の宿で行っている訳だが、もう既に酒の匂いが部屋中を漂わせている。
50人ほどいるだろうか。
話によれば複数の宿に分かれて執り行われているらしい。
「アヤト!今日は酒をたらふく飲め!!」
隣のヤツが語りかけてくる。
「いや、俺、酒はあんまり…」
「いいから飲めって!!ほら!」
と、ジョッキいっぱいに入ったビール。
「お?アヤト、一気飲みか?」
と、また別のヤツがおちょくる。
その言葉が原因なのか会場全体が盛り上がり
「おーー!」「一気か?!」
「いいぞ、いいぞ!!」
と、声が飛び交ってくる。
―――仕方ない。
ジョッキの取っ手を掴み立ちながらその場でゴクゴクと音をたてながら飲んでやった。
苦味が口いっぱいに広がる。
会場は大歓声に包まれた。
大歓声の中でただ一人泣いている奴が1人。
話しかけたら涙声で語り始めてきた。
「アヤトくん!ありがとうぅ…君がいなければ…この勝利は無かったよぅ…」
「俺が何したっていうんだ?」
「テスをたすけてくれただろぅ?君がいなければテスはもう死んでたさ……この街はカテドラルの数少ない大都市の一つ。この勝利は歴史的だよ…。おかげで飢餓も解消されるだろう…」
「そうか、それは良かった…」
初めて勝利というものを肌で感じることが出来た。
――――――――――――――――――――
もう既に日が昇りそうな時間。
気づけば床で寝ていた。
どうやら酔いつぶれてしまったらしい。
しかしそれは自分に限られたことではなかった。
会場にいる殆どの人間が同じ状態だった。
その中の一人、チトセも同じ。
顔を赤く染めてテーブルで寝ていた。
「チトセ。部屋で寝ろ。」
俺が言う言葉でないのは重々承知である。
「風邪ひくぞ。」
「ぅぅ。ねむたい…」
てこでも動かない様子だったので、強制的に腕を引っ張り連れていくことにした。
「アヤトくんぅ。やめてぇ。ううぅぅ…」
「ほら行くぞ。」
「チューしないでぇ…」
「してねぇよ」
「じゃあ、チューしようぅ…」
「お前はさっきまでジョッキとしてたろ…」
酒の力は恐ろしい。
しょうがないのでおぶって連れて行くことにした。
背中に載せると案外軽いもので部屋の中まで容易く運ぶことが出来た。
その間にも人の背中で何やら寝言を言っていた。
「ほら、黙って寝てろ。」
彼女の銀髪を揺らしながらベットの上に寝かせる。
部屋を出てすぐ、一人の兵士が駆け寄ってくる。
「おい!アヤト!テスの意識が戻ったらしい。」
「ホントか!!」
「ああ!それでテスがお前に渡してくれって頼まれた手紙だ。」
と、丁寧に便箋に入った手紙が渡された。
部屋に戻り、手紙を恐る恐る開ける。と、
また便箋が出てくる。
「そこまで重要なものなのか?」
また便箋を開けるそこには表紙に「マル秘」と書かれた資料が書いてあった。
慎重にページをめくる。
「こ、これはッ!まさか、テスはこんなことを考えていたのか?」
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