滅亡まで、あと29日 前編

―――眩しい光が顔を照らす。

目を開けると、木々の隙間から日光が差していた。

葉のこすれる音。

一見平和な世界で、森の中の枯れ葉の上に俺と少女が、横たわっていた。


ハッとして目が覚める。

「…もう朝か。」

伸びをして大きな欠伸をする。

不意に目を横に逸らすと、チトセが寝息をたててスヤスヤと眠っている。

彼女の鼻の上に赤いてんとう虫が乗っていた

「カメラがあればなぁ…」

コンテストに応募すれば確実に何かしら賞を貰えそうな場面だ。


彼女を起こそうとして腕を伸ばす。

―――その瞬間。

枯れ葉を踏み鳴らす音がした。


音のする方向に目を向けると、1人の男性が近づいてきた。

見覚えのある風貌だ。昨日、一緒にここへ来た仲間の1人。

その証として、腕に赤い布が巻かれている。

助けに来たのだろうか。

もしそうならテスは無事なのだろうか。

「おーい。助けに来てくれたのか。テスは無事か?」

声を掛けるが、どうやら様子がおかしい。

「あぁ、そうさ。助けに来た。」

そう言いながら、肩にかけていた小銃の銃口をこちらの顔に向けてきた。

流石に動揺を隠すことが出来なかった。

「おい…、一体なんのつもりだ…」

と、問いかける。

その言葉にその男はニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。

そして、ケラケラと甲高い声で笑った。

「何のつもりも、お前達二人を殺しに来たのさぁ」

「一体なんのつもりで…」

「お前みたいなアホたちには気づかなかっただろうが、俺はカテドラルの工作員さ」


まさか、こんな身近に工作員がいたなんて。

いや、今はそれどころじゃない。

打開策を見つけなければ…

その為にも、時間を稼ぐ!

「どうやって軍に入ったんだ?」

「いやぁ、実に簡単だった!テスに一言声をかけたら簡単に入れたぜ!あのテスという男も実に馬鹿だなぁ!あんなんでよく指揮官が務まるなぁ?お前もそう思うだろう?」


べらべら喋ってくれたおかげで、バックにあるナイフを握ることが出来た。

どうやら、やつも気付いてないらしい。

それにしても、チトセはまだ起きていない。

「それで?一体どうして俺たち二人を殺すんだ?一番下っ端だぞ?」

「お前やテスは知らんと思うだろうがお前ら二人はこの戦争に関わってならない存在なんだよ。」

関わってはならない存在?何のことだ。

「おしゃべりが過ぎたようだ。お前らとはこれでおさらばだ。」

と、引き金に指をかける。


しまった!今のうちに襲っていればッ!!!

もう終わりだ…

目を閉じた瞬間。

一発の銃声が森中を響かせた。

目を開けると、何故か横たわった男の頭から血が大量に溢れていた。

俺はその場で、凍りついたように動くことが出来なかった。

恐る恐る目線を上に向けると、そこにはライフル銃を片手に持っているテスの姿があった。



――――――――――――――――――――



「すまんなアヤト。面倒なことに巻き込んでしまって…。こいつの正体が見破られなかったのは俺の責任だ。すまん!」

と、大きく頭を下げる。

「いや、別にいいんだ。現に俺たちはちゃんと生きてるんだし…」

それより、チトセがまだ眠っているそうが衝撃だった。一体どこまで深い眠りについてるのだろうか。

今度こそ起こそうと腕を伸ばすと、驚くことに、チトセが何事も無かったかのようにむくりと起きてきたのだった。


「え?!、もしかして最初っから…」

「起きてたわよ、緊迫した状態で起きてきたら流石に撃たれるかもしれなかったから。

それにしても……」

「どうした?」

「いや。何でもないわ。ただの勘違いよ…」

一体なんのことを言ってるのか分からなかったが、そんなことは置いといて。

「テス。一体何が起きてるんだ…。昨日の砲弾といい何が何だかさっぱりわからん。」

問にテスはひと呼吸おいて話し出した。


「いいか、一度しか言わない。よく聞け。

この森にはファニンが潜んでる。」

「ファニン?どっかで聞いたような。」

「例の大統領さ。」

流石に驚愕してしまった。もし、やつを仕留めれば戦争が終わるかもしれない…

「もし、やつを仕留めればこの戦争も終わる。そもそも奴は俺たちの目標であるケネディに潜んでたらしい。俺たち以外の数万という兵士はケネディで戦闘状態だ。それで

この森に逃げてきた。その一報を聞いてそれで俺たちはこの森に来た訳だが、さっきの工作員のせいで情報が漏れ返り討ちにされたってわけさ。しかし、ファニンは何故か逃げない。理由は知らんが今がチャンスだ。」


まさかのチャンス到来に胸の高鳴りを押されることが出来なかった。

今ここで仕留めれば戦争が終わる。

いや、本当に終わるのだろうか。

「テス。本当に仕留めれば終わるのか。」

「当たり前だろ?戦争の根源は奴の独裁政治なんだぞ?」

その時だった。一人の男が焦ったように走ってきた。

「テスさん。ファニンの居場所がわかりました!!北に500メートルほど進んだあたりに!!」

そんな近くにいたなんて…

「今日歴史が変わる。アヤト、行くぞ!!」

「ああ…」

チトセを呼ぼうと視線を向けると、彼女は何故かボーッとなにか考え事をしているようだった。

「チトセ。どうかしたか?」

「いいや、何でもないわ。早く行きましょ」



――――――――――――――――――――



あれから十分ほど経っただろうか。

だんだん山を下っていると、大きな街が見えてきた。昨日いた街の数倍ほど大きな街。

それと同時に今まさに戦闘状態である証のように銃声と爆発音が絶え間なく響いていた。

本当にこの場所にいるのだろうか。

森と街の境の茂みから除きながら思う。


「テス。もう500メートル以上歩いたぞ。」

「おかしい、一体どこに行った…」

「もう逃げたんじゃないかしら。流石に大統領が戦場に留まるわけないわ。」

久しぶりにチトセが口を開く。

その後数秒もしないうちに茂みの奥から声が聞こえてきた。

緊張感が漂う。

テスが音を立てるなよと、小声で言った。

耳を傾ける。


「ファニン大統領!!早く戦場から離脱しましょう。ここはそう長く持ちません!!」

「うるさい!!我が軍が負けるはずはない!!全総力を挙げてこの街を死守するのだ!!」

「しかし大統領。この兵の数では流石に…」

「黙れ!!」


きっとあの声の主がファニンだろう。

相当頭が固いらしい。まるで頑固親父と言うべき性格だな。

「アヤト。今がチャンスだ。この銃で撃て」

テスが小声で喋りながらライフル銃を手渡してきた。

この銃の引き金を引くだけでこの戦争が終わるのだろうか。そして、この世界、元の世界、すべての人が救われる。

この銃で…

「わかった。ファニンの特徴はあるか?」

「口全体を覆うほどのヒゲがあるはずだ。それにあの態度を見れば一瞬でわかるはずだ。…頼んだぞ。」

テスの言葉を最後に茂みからライフルを抱えたまま飛び出した。

ライフルの引き金に指をかけたまま。

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