滅亡まで、あと30日 後編

名は「テス」と言うらしい。

小銃を肩にかけながら俺たち二人をどこかに案内している様子だ。

テスは空を見上げながら語り出した。


「残念ながらこの国に正式の軍なんてない

政府は失脚し、殆どが志願した民兵。残った俺たちは武器を取るしかなかったんだ。」


「でもこの争いを続ける意味なんて…」

俺の言葉はテスに火をつけてしまった。


「意味?意味なんてただ一つしかねぇだろうが!!」

「敵討ちだよ!!!!」


迫力のある声で少し身震いしてしまった。


「全てはアイツらのせいだ。カテドラル国とは元来とても仲が良かった。

しかし、カテドラルの大統領がファニンになってから全てが変わった。

ファニンの独裁政権が始まり、領土欲しさに侵略を始めたんだ。条約を無視した毒ガス攻撃、対人地雷、クラスター爆弾、女子供であろうと無差別に虐殺。

もう、残っているのはこの都市しかない。」


このあと、かなりの長い沈黙が続いた。

歩いていると誰かの話し声が耳に入ってきた


「テスも可哀想に。兄弟、両親、友人。

全てテスの目の前で無残にも殺されたそうじゃないか。憎しみを持つのはもはや必然的だな…」


テスも聞こえているはずの距離なのにずっと前を見て歩いてるままだった。

チトセもどこか悲しい目をしていた。


――――――――――――――――――――


「ここだ」

と言われて連れてこられたのはこれまたボロボロの一軒家だった。

話によるとここは数少ない拠点の一つらしい

中はホコリっぽくつい、ゲホゲホと、咳をしていまう。

中には数人か兵士と思しき人物がいた。

奥の部屋に誘導されるとそこには手足を縛られた青年が横たわっていた。

「捕虜だ。本来は人道的な待遇をせねばならんのだが、もはやこの戦争に秩序もクソもない。そこでお前には度胸を試して貰う。」


そう言ってテスは俺の手に一つのピストルを手渡した。

「お前の手で殺せ。」

一瞬、その場が凍りついた。

チトセはその瞬間、裾を目頭を抑えて部屋を出てしまった。

「俺がこの手で……」

目線を青年に向けると、彼は何故か喜んでいた。

「少年、ありがとう。やっと天国の妻に会える。」

「えっ?」

「ただし、ひとつ遺言を聞いてもらえぬだろうか。」

「アヤト、銃を向けろ。」

銃口を青年に向ける。

それでも彼はしゃべり続けた。

「母のアリアには、今までありがとうと言ってくれ。父のグレンには、こんな息子でごめんと。それと、娘のアリスには…」

「アヤト!!撃つんだ!!!」

引き金を引く。

パーンと乾いた音が響く。

返り血が顔に飛ぶ。

青年の顔は幸せそうに見えた。


部屋を出て、一つ深呼吸した。

「アヤト。お前が兵士になるのを望むことは、この事だ。それでもお前は…」

「…それでも、俺は兵士になる。戦争を終わらすんだ。」

部屋の外で待っていたチトセが泣きながら近づいてきた。

「ごめん、勝手に部屋を出てしまって…」

「いいさ。別に…」


テスが歩み寄ってくる。何か持っている。

「お前達、よく耐えたな。これで俺らの仲間入りだ。これは仲間の証しだ。これを体に巻き付けておくといい。」

そう言って手渡してきたのはテスの巻いているハチマキと同じ赤の布切れだった。

俺とチトセは即座に腕に巻き付けた。


「二人には急な話だが、今から戦場に行く」


現場に緊張が走る。すべての兵士がテスに視線を向ける。


「お前らも分かっているとうり、残っているのはこの都市ただ一つのみ!!

今、行動を起こさないと下手したら今日中に陥落も考えられる。今日をもって、北の都市ケネディ奪還作戦を決行する!!」


俺とチトセを除いたすべての人が、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

と、雄叫びをあげた。

その後、テスが近づいてきた。

「二人とも、悪いが今日が初陣となる事だろう。もちろん訓練なんてない。なれるより慣れろだ!!」

二人は同時に頷く。

「さぁ、車両に乗り込め!!」


――――――――――――――――――――



もうすっかり日は暮れていた。

俺たちはトラックの荷台に乗せられている。

ひとつのトラックに20人ほどそれが二十台ほど。400人という人数をどこから集めてきたのだろうか。

隣にいる兵士に聞いてみた。


「400人?アハハハハハ、ケネディに実際に行くのは3万人ほどだよ。」

「さ、3万人?!」

「そうさ。君知らないのか?テスは6万人を超える兵士を受け持つグラウス軍のトップの最高指揮官だよ、」

「さ、最高指揮官!?俺はてっきりただの兵士かと。」

「そう思うのも無理はない。テスは心が広すぎるからなぁ。」


まさかの発言だった。

「都市までは森を超えなければならない。

まずは野戦を強いられることになるだろう」

本当にだいじょぶなのだろうか。

しばらくして、北に五キロ進んだ辺りだろうか密林を手前にして車両は止まる。


テスは車両から降りて叫ぶ。

「他の舞台は無事にケネディに到着したようだ。しかし我らはこの森を進んでいく!!」

どんな意図があるのだろうか。

他の車両に乗っていたチトセも降りたようだ。


「険しい道のりになりそうね。」

「あぁ」

車両をおりた俺たちにカバンに入った物資が配られた。

小銃に予備の弾薬、笛、あとは僅かな食料。

団体は一斉に森の方に進んでいく。

おれはテスの方に駆け寄った。


「なぜ、わざわざ森の中を進む必要があったんだ?」

「すまん。いくらお前でも言うわけにはいかない。本当にすまない。」

「いや、いいんだ。」

隊列を乱さぬように元の位置へ戻る。

となりのチトセが話し出した。

「なぜ、この道を進む必要があったのかしら。なにかあるに違いないわ。」

そういった刹那。

一人の兵士が叫ぶ。

「砲弾だ!!!よけろ!!!」


何が起きたのか分からなかった。

ほんの数メートル真横に着弾する。

爆発音とともに爆風が体を飛ばす。

4メートルほど飛ばされただろうか。

その後、テスが叫ぶ。


「散開だ!!!ここからできるだけ遠くに散らばるぞ!!!」

その瞬間、俺はチトセの腕を引いて限りなく走った。

足がぬかるんで転びそうになるたびに姿勢を正し、ただただ走った。



――――――――――――――――――――



あれから3時間ほど経った頃。

俺はこうして枯葉が敷きしめられた森にチトセと野宿することになった。

仲間とははぐれてどこにいるのか検討もつかない。ただ、ケネディの方向は分かる。

「朝になったら北に向かおう。」

「そうね。食料もあるし、何とかなるわよね。幸運なことに、砲弾もさっきの1発だけだったし…」

そこでチトセは口ごもる。

「チトセ。どうした。」

「いや、どうして敵に位置がバレたのか不思議で。それと、テスがこの道を選んだ意味も…」

確かに、不自然だった。

その時、1匹の雑種犬が俺たちの所へ寄ってきた。

「なんだおまえ、腹減ってるのか?」

―――クゥゥン。クゥゥン。

「しょうがないな…」

バックの中を漁り、固形の携帯食を開ける。

「硬いけど我慢しろよ。」

手に取り、行くの口の近くに運ぶ。

その犬は一目散にかぶりついてきた。

「あなた、犬に好かれるのね…」

「たまたまさ、コイツは餌に釣られてきただけだよ。」

「そうかしら。」

彼女は微笑む。

「朝は早いんだ、もう寝なきゃ。」

目を閉じた瞬間、犬も同じように横になり目を閉じた。

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