滅亡まで、あと28日 前編

―――快晴の朝。

起きて、顔を洗って、歯を磨く。

いつもどうりの朝…

そんなはずなのだが、

「大きなことを任されてしまったな…」

テスからの資料、それに全てが書かれてあった。

「ふぁぁ~、眠い。」

身支度を整え、ひとつ欠伸をしてみんなが待つホールへ向かう。

ホールからは賑やかな声。

どうやらもう集まっているらしい。

ギシギシと音をたてながら階段を降りた先に見えた光景に目を疑う。


「おーい!、アヤト!心配かけたな。」


昨日の一件が嘘だったように我らがリーダーのテスはそこに仁王立ちして待っていた。


「おい。お前の体はどうなってんだ…?本当に人間なのか、流石に疑わざるを得ないぞ」

「そんな事俺が一番驚いてるさ!!」

と、ガハハハハハと、爆笑している。


こいつの場合死んでも生き返るんじゃないのか?


「アヤト…」

先程の笑顔は一変し、真剣な表情でこちらを凝視する。

「昨日の資料は呼んだか…?」

「ああ…」

「引き受けてくれるか…?」

「もちろん。断る理由なんてない。」


昨日渡された資料の題名。

『ファニン暗殺計画』


どうやら、かなり前から入念に計画していたらしい。

その計画を遂行する役職に選ばれたのだ。


テスはうなだれながら語る。

「この計画はオレ達のみならずこの国すべての未来がかかっている…。まだ来たばっかりなお前に重役を押し付ける形になっちまった…。でも…」


「分かってるって。そんなに暗いとやる気が失せちまう。お前らしくないぞ…」

喜色満面に笑ってみせる。


テスは何かに気づいたように、

「そうだよな…。そうだよな!!リーダの俺がくよくよしてたら話にならんよな!!」

と、また笑ってみせる。


まったく…。感情の変化が激しいやつだな…


明るさを吹き返したホールに不思議そうな顔をしたチトセがやってくる。


「どうしたの…?急に笑い出して…」


チトセを見てあることを思いだした。

「テス。チトセはどうするんだ?」

「どうするも何も、お前ら二人で行くんだぞ?チトセもアヤトのこと好きすぎるからな…」


その言葉にチトセは急に反応し。

「そんな事ないわよ!!」

と、顔を赤くし頬を膨らませる。


「俺は別に二人でも構わないけど…。実際1人だけだと寂しいし…」

「まぁ、そう言うことなら…。しょうがないわね…」

顔の風船はしぼんだらしい。


「というか、今までなんの話をしてたの?」


どうやら事情を知らないチトセに今回の計画について話したら、

―――そう。そういうことなら…

と、すんなり承諾してくれた。




計画の内容はこうだ。

まず、俺たち二人をファニンにいる首都の目の前の都市レイクス付近まで裏ルートで送ってもらう。

次の日、首都に行き計画を実行。

簡潔に言うとこういうことになる。


この計画のタイムリミットは明日までである。急な話だが、明後日にこちらへ攻撃しようとしていることが分かったらしい。

どうやら、その前に敵の大将を叩くという寸法らしい。



早急に支度をし、テスに別れを告げる。

「生きて帰ってこいよ」

その言葉を最後にレイクス行きの馬車に乗る。どうやら車だとエンジン音が命取りになるらしい。


「アヤトさん。チトセさん。レイクスまでは、4時間ほどかかります。気長に待つことになるでしょう…」

と、御者が言ってた。


ホコリひとつない馬車。

長椅子にチトセと隣り合わせで座った。

次第に、馬車が動き、振動が響き渡る。

窓越からは移り変わる景色。


「なあ、昨日のこと覚えてるか?」

「昨日のこと?…お酒に酔ったせいかしら…、なんにも覚えてないわ…」

「夜中、酔ったチトセが『チューしよう』なんて言ってたんだけどほんとに覚えてないの?」


「…え?!、私そんなこと…。恥ずかし…」

と、両手で顔を抑える。

その隙間から真っ赤な顔も窺える。

「…も、もしかして誰かに言った?」

「どうだったかなー、酔ってたからわかんないわ。」

意地悪っぽく言ってみる。


「アヤト!誰にも言わないでね!!」

チトセが肩を揺らす。

「分かったよ。誰にも言わない…。それにしても酔ったチトセはまぁまぁ可愛かったな」

「もう!変な事言わない!!!」



その会話で緊張が解けたのか、その後知らずに寝落ちしていた。


――――――――――――――――――――





何故か寝心地が良い。

馬車の中なのに何故だろうか。

しかも、横たわって寝ていたようだ。

ゆったりと目を開ける。


目を開けて最初の光景はチトセの顔。

しかも寝顔である。

今きずいたが、どうやら自分の頭はチトセの膝の上。

要するに、膝枕の状態だった。


―――おいおい、さすが急展開すぎないか?

チトセは昨日の酔いがさめていないのだろうか…?


すぐさま起きようとすると、チトセも同時に起きてしまった。

チトセは目を擦り、欠伸をする。

「アヤト?なんだ、先に起きてたのね…」

「まぁ、それより。なんで膝枕…」

その問にチトセは笑顔で答える。


「夜中、迷惑かけてしまったお詫びよ…。寝心地悪かった?」

「いや、最高だった。また今度してもらいたいね。」

「今度は私を満足にさせてくれたらやってあげてもいいわよ。」

と、偉そうに言う。


「そうだな、レイクスに着いたら、少し観光でもしないか?時間もあるし。敵国を知るのも大事な仕事だし…」

「ええ!!いいの?!やった!着いたらどこか行きましょ!私、景色のいい所に行きたいわ!!」

まるで、子供のようにはしゃぐ。


まぁ、たまには息抜きもいいよね。


そろそろ夕方に差し掛かろうとする時。

御者が言う。

「お二人さん。そろそろ着きますよ。下車の準備を…」


その言葉にチトセはせっせと準備を進める。

銀髪をゆらゆらと揺らし、到着を楽しみにしている姿はまるで子供そのもの。


「アヤト!!見て!!」

窓を指さす。

指を指した方向にはとても賑やかな商店街にたくさんの店が構えてある。

人が沢山行き交っている。


この都市で一番高い建物であろう建造物が目に映る。

「チトセ。あの建物に行かないか。きっと展望台だと思う。いい景色が見れそうだ。」


チトセは笑顔で頷き、都市の入口付近についた馬車から降りるのであった。

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