2ページ

「宇宙で何か特別なことが起きるとき、いつもそのホテルに旦那とお世話になっていたの。海辺だから遮るものが何もなくて、真っ暗だから星が良く見えてね」

「そんな素敵な所があるんですね」

「あの人が見つけて来たのよ。本当に天体オタクだったから」

 懐かしむように細められた眦には皺が寄るのに、どうしてこうもその表情は美しいのだろうか。

「最初はね本当に退屈で退屈で、せっかくのホテルなのに電気もテレビも消されて、ただお月様の浮かぶ海を眺めているだけで。望遠鏡だって一つしかないし、どうしてかそれを覗いてあの人はひとりはしゃいでいるし。望遠鏡を覗いているだけなのに何がそんなに楽しいのか、全然理解できなかったのだけど」

「だけど?」

 続きを催促するように返すと、一旦止めた言葉を美咲さんは続けてくれた。

「だめね、あの人が楽しそうにしているから、理解したくなっちゃって。わたし文系だから全然興味なかったのだけど」

「おや」

「ふふ、でも教えてもらってもやっぱり良く分からなくて。でも、あの人が好きなものはとても美しいものなのだってことは分かったの。だから分からなくても、好きになれた。今では星空がわたしとあの人を繋いでくれているから」

 ふふふ、と微笑む口元を押さえたのは、ゴールドのリングが輝く皺の刻まれた手。それは美しく生きた軌跡なのかもしれないと、ふと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る