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「宇宙で何か特別なことが起きるとき、いつもそのホテルに旦那とお世話になっていたの。海辺だから遮るものが何もなくて、真っ暗だから星が良く見えてね」
「そんな素敵な所があるんですね」
「あの人が見つけて来たのよ。本当に天体オタクだったから」
懐かしむように細められた眦には皺が寄るのに、どうしてこうもその表情は美しいのだろうか。
「最初はね本当に退屈で退屈で、せっかくのホテルなのに電気もテレビも消されて、ただお月様の浮かぶ海を眺めているだけで。望遠鏡だって一つしかないし、どうしてかそれを覗いてあの人はひとりはしゃいでいるし。望遠鏡を覗いているだけなのに何がそんなに楽しいのか、全然理解できなかったのだけど」
「だけど?」
続きを催促するように返すと、一旦止めた言葉を美咲さんは続けてくれた。
「だめね、あの人が楽しそうにしているから、理解したくなっちゃって。わたし文系だから全然興味なかったのだけど」
「おや」
「ふふ、でも教えてもらってもやっぱり良く分からなくて。でも、あの人が好きなものはとても美しいものなのだってことは分かったの。だから分からなくても、好きになれた。今では星空がわたしとあの人を繋いでくれているから」
ふふふ、と微笑む口元を押さえたのは、ゴールドのリングが輝く皺の刻まれた手。それは美しく生きた軌跡なのかもしれないと、ふと思った。
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