第5話 マグロ

「やっっと終わった………!!」


お腹から絞り出すような声を漏らすが、元凶である鷲は何も気にしていない様子でマグロとこちらを交互に見てくる。


「何をしておる、早く出さんか!きちんと働いただろうが」


その言葉に対し、誰のせいでこんな事になったんだ、と言い返したくなる。しかしそれも頭の中でだった。もはや言い返せる気力もなく、無言で立ち上がればマグロを持ってキッチンへ行き、個別に皿に移し替える。

手作りのお味噌汁はインスタント、ご飯は朝の残りをレンジでチンしたもの、おかずも昨日の残り物。それが今日の晩御飯であった。


いつもの手作りセットはどこへ…?と思われるかもしれない。まあ、それほどやる気がないということを理解した上で問いかけ直していただきたいが。

それはさておき、鷲のご飯は多めのマグロに少量の鰹節だ。図体はでかいくせに、割と少食らしい。


…私とは正反対だな。


テーブルを壊されては堪らないので、近くの床にお皿を置いてやれば目を輝かせ、勢いよく食べ始める。それはそれは美味しそうに食べるので、先程までの出来事を忘れそうに…はならないが、例えるならばそれぐらいだ。


「…いただきます」


両手を合わせて誰に言うでもない人間の伝統を繰り返せばもそもそ、と私も食べ始める。なんでだかは分からないが、会話がなくても、傍に誰かがいるということ。それだけで、ご飯の美味しさも変わるようだった。

「ご馳走様でした」


箸を起き、食器を台所に運ぶ。鷲は食器を持つことは出来るのか…?と思っていると、足の爪で掴もうとしたので慌てて止めた。そんな事をされて、落として割れたらとんでもない!今度からプラスチック製のものにするべきだろうか…?そんなことで悩んでいると、後ろから声がした。


「中々に美味かったぞ!」

次はどんな物を食べさせてくれるんだ?と言われる。


「そうですね、次があるといいですね」


あるにはある。住まわせてもいいと言った以上、買わなくてはならないのは当たり前だ。餓死をさせるなんてことはできない。

…なんだかんだで楽しいし。


「なんだと!?貴様、ワシに食い物を寄越さぬと言うのか!薄情者と言うのだぞ!!」


やはり単純と言うべきか、すっかり信じ込んだ上で話を進めるから、そんなところも可愛いなどと思ったり。

くすり、と小さな笑いを零せば洗い物を終わらせ、勘違いを正すこともせずお風呂の用意をし始める。後ろで煩い鷲は無視。流石に風呂には入ってこないだろう…入ってこないよね?

かなりの不安を抱えつつも、一応釘は指しておく。

「ここには入ってこないでくださいね!」


…返事が聞こえなかったが、きっと大丈夫……!

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