第4話 負の予感
「た、ただいまー……?」
それは昨日までとは明らかに違う、『相手 』に対して発した言葉だった。
恐る恐る玄関のドアを開けて中を確認する。一人暮らしの為そのような事をするのは初めての事だった。
勿論、鷲が家に不法侵入した事も初めてである。
自分の家だというのに、何故ここまでこそこそと警戒しなければならないのかと、雫は深く溜息をつく。
雫としては昨日の出来事は夢、またそうでなくてもとっくに出て行ってくれたとなれば、何も言うことなく安心出来る。
音を立てないよう慎重にリビングに足を踏み入れるが、物が荒らされていたりと悲惨な事になっている訳でもなく、朝に家を出た時と変わらない状態が雫の目に入る。
「……………はぁ」
思わず出た安堵の溜息。
それも束の間、雫はある異変に気づく。
「ん………なんか味噌の匂いが……っ!」
雫はいつの間にか匂いのする方へ駆け出していた。嫌な予感がするとはまさにこの様な事だろうか。
案の定、キッチンに佇んでいた鷲の足元には、破かれた袋と中身の鯖の味噌煮本体がぐったりと倒れていた。
あの鷲に至って、都合よく事が終わるとは思えない。結果として雫の予想斜め上ではあるが、どうせ何かあるだろうという予想は的中していた。
「あーー!!??」
「……なっ!帰宅したならそう言わんか!」
いきなり後ろから声をかけられて驚いた鷲に、「ちゃんとただいまと言いました!」と言い返しもせず、雫は咄嗟に辺りを見渡しティッシュの行方を探した。
だが、いや雑巾の方がいいかと慌ててしゃがみ急いでキッチンの戸棚を開けていく。
それを不思議そうな顔で見つめ一向に動かない鷲に、雫は堪えながら微かに引きつった笑顔で問いかけた。
「……ど、どうしてこんな状態になったんですか?」
まだ質問をしてあげるだけ雫は心の広い人間だった。だが返答次第では今度こそ容赦しないと心に決める。
「……そこから魚の匂いがしたのでな」
鷲は何食わぬ顔で冷蔵庫を指さす。
もう我慢ならない。
……雫は肩にかけていた鞄を床に叩きつけ、開けっ放しの冷蔵庫を思い切り閉めた。
「どこに勝手に人の家の冷蔵庫開けて魚食べる人がいますか!!」
「わ、儂は人間などではないぞ!!」
「そうでしたねぇ!!」
正論が頭にきて、雫は思わず嫌味のように吐き捨てた。
握りしめた拳でテーブルを叩くと、食器がガチャン!と音を立てる。同時に鷲が肩を震わせ目を伏せた。
「どこまで凶暴な奴なのだ……」
先程までの威勢もどこへやら、鷲は雫に背を向けて体を丸める。
その姿がまるで怒られた子供の様で雫は拍子抜けした。
(でかいのは身体と態度だけ、か……)
一発お見舞いしようとも考えたが、落ち込んでいる鷲を見ると怒るに怒れなくなってしまった。
けれど、ここでまた甘やかすと今度こそ雫の家は崩壊するだろう。
雫は悩みに悩んだ。
そして1つの結論を出す。
「掃除、手伝ってください。それとここに住むなら最低限の家事はやって頂きますからね」
雫は、初めて自分を馬鹿だと認識した。
「綺麗に掃除できたら今買ってきたマグロあげてもいいですよ」
「マグロ」という言葉に反応し勢いよく振り向いた鷲の瞳が、だんだんと輝いていく。
「それぐらいできるわ!!」と嬉しそうに羽をバサバサと動かし、バックから顔を出すマグロを横目に雫の元へと近づいていった。
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どうも、師綺です!
ついに2週目に入りました!
まさか続くとは思いませんでしたが、ここまで来たら完結まで頑張らないとですね!
読んで頂きありがとうございました!
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