第一章 異世界だよ魔王様
第2話 魔王様、雀のジョニーを配下にする
ゲートに飛び込んで以降、魔王スキムミルクは真っ暗な中を彷徨い歩いていた。かれこれ数日は歩き通しのようにも思えるが、実際にはほぼ一瞬の出来事だったのかもしれない。
時空魔法により創られたゲートの中では時間の概念があやふやになる――らしい――ので、日頃の感覚は当てにならなくなるのである。
そして終わりは唐突に訪れた。気が付くと魔王は真っ白な世界に包まれていたのだった。
魔王様のご近所征服大作戦 [完]
……………………。
さて、目が慣れてくると色々なものが見えてきた。
緑の木々に小さな獣に鳥、このあたりは元の世界とそう変わりがない。どうやら山か森の中にいるようだ。
何はともあれ情報収集から始めなくてはいけない。
興味深そうにこちらを見ている小鳥にとりあえず話しかけてみることにした。鳥だけに。
『おい、そこの……鳥!少し話が聞きたい。こんがり美味しい焼き鳥にされたくなければ素直に答えろ』
元の世界の鳥語で話しかけてみる。
『オレっすか!?オレのことっすか!?あんたスゲーパワーを持ってるみたいっすね。焼き鳥は嫌なんで答えるっす。何でも聞くがいいっすよ!』
呼びかけられたのが自分だと気づいて小鳥が返事をする。
こちらでも鳥語は問題なく使えるようだ。そしてやはり鳥だったらしい。
微妙に慇懃無礼な小鳥の台詞にイラッとしつつも、ここが異世界であることを思い出して気を静める。
魔王の方も人にものを尋ねる態度とはとても言い難い上から目線と脅しであったのだが、長年魔王業をやっていたので体に染み付いてしまっているため本人は気付いていなかった。
『ここはどこだ?』
『……あんた大丈夫っすか?見た所人間みたいなんで病院に行くことをお勧めするっすよ。
あ、もしかして中二病とかいうやつっすか?それなら治らないかもしれないって他の人間が言っていたっす!
あれ?人間?……!どうして人間が俺たちの言葉を喋れるっすか!?あんた何者なんすか!?』
こちらの問いに小鳥は最初可哀想な者を見る目をしていたのだが、途中で重大なことに気が付いて驚きの声を上げる。
『今更だな!?まあ良い。俺は異世界の魔王だからな、鳥語くらい話せるのだ』
『……やっぱり中二病っすか。でも中二病をこじらせて鳥語を習得するなんて、あんたスゴイっすね!中二病の旦那と呼ばせてもらうっす!』
『ちょっと待て、お前信じていないだろう。しかもその呼び名、実は馬鹿にしているんじゃないのか?』
『ちっ、気付かれたっすか』
『……どうやら焼き鳥ではなく、消し炭になりたいようだな』
『冗談っすよ!ほんの冗談!小粋なバードジョークってやつっす!』
『余計な事を言わずに聞かれたことに答えろ』
『了解っす。ええと、ここはですねえ……』
小鳥、雀のジョニーの説明によると、ここはニポンという国の地方都市のそのまた外れにある小さな町らしい。
開発が遅れニポンの中でもかなりの田舎になるそうだ。
『渡り鳥の連中、ちょっとあちこち飛び回っているからって良い気になってやがるっす。自分たちが何かした訳でもないのに、やれトキョはでかいビルが建ちまくっているだとか、やれオサカはいつもたくさんの人間で賑わっているとか、自慢ばっかりしてくるっすよ!あげくにそんなこと思ってもいないくせに『ここは緑が沢山でいい所ね』なんて言ってくるんすよ!ムカつくっす!あいつらなんて飛行機のエンジンにバードストライクしてミンチになってしまうがいいっす!』
途中から、というよりほとんど愚痴だったのだが、魔王はその中で気になることを見つけた。
『おい、その飛行機というのは空を飛ぶ物なのか!?』
『え?そうっすよ。オレや旦那の何百倍もでっかい鉄の塊で、すげえ速さで飛んで行くっす』
『何と!?この世界の人間たちは空を飛んで国同士の交易を行っているのか!』
元の世界では羽を持つ一部の魔族や、フライトの魔法を使えるこれまた一部の魔族にしか空を飛ぶ術はなかった。
数百年ほど前に人間たちの国で一度だけ飛空艇の試作機が作られたことがあるのだが、魔王なので乗せてもらえなかったという悲しい過去がある。ちなみにその飛空艇は試験飛行に失敗して海の藻屑となってしまった。
『ニポン国内にもたくさんの航空路線があるっすよ』
『何だと!?近くであっても空を飛んで行くのか!?』
『??近い距離の移動なら車や電車を使うに決まってるじゃないっすか。まあこの辺りは田舎なんで電車が通っていないっすけど……』
『車?電車?何だそれは?乗り物なのか?』
『????旦那、もしかして本当に別の世界から来た人なんですか?』
どうにも話が噛み合わないのでジョニーは恐るおそる魔王に尋ねてみた。
『だからさっきからそう言っているだろうが』
『う、うおーー!!すげえっす!!まさか本物の魔王に会えるとは思ってもいなかったっすよ!!サイン貰っても良いっすか!?』
『いや、サインってお前……』
とそこまで言った所で名案が浮かぶ。
『良いだろう。この世界に来て初めて会話した相手だ、一生消えないものをくれてやろう』
魔王は悪魔的な悪い笑みを浮かべていたのだが、ジョニーは興奮しているせいか気付いていない。
『ホントっすか!?ありがとっす!!』
喜ぶジョニーに向かって右手を差し出すと、その先に魔法陣が一瞬浮かんだ後、首の辺りに吸い込まれていく。
『終わったぞ。これでお前は俺の
『へ?僕?』
『そうだ。偉大なる魔王スキムミルク様のこの世界における初めての僕だ。存分に誇るといいぞ』
『あのー、それって旦那に逆らえなかったり、逃げたりできなくなるやつじゃないっすよね』
『そこまで酷いものではないぞ。どんな所にいても俺が呼べばすぐに駆けつけなくてはならんのと、後は俺の不利になるような行動ができなくなるくらいだ』
『それでも十分酷いっす!』
『まあ、落ち着け。僕になったことで念話が使えるようになっているから数キロほどは離れていても問題はない』
『……インコみたいに籠に入れたりしないっすか?』
『インコがどんなものかよく分からんが、籠に入れたりはしない。それに契約をしなくてもお前を焼き鳥にすることくらいはいつでもできたのだから、今までとさほど違いはない』
『そう言われるとそうっすね』
『更に付け加えると契約をしたことでお前にも魔法が使える、かもしれない』
『魔法!?魔法使いジョニー爆誕っすか!旦那、一生憑いて行くっす』
『お、おう。その代わりこの世界のことをいろいろ教えてもらうぞ』
ジョニーの言葉に不穏なものを感じて背筋が寒くなりつつ、魔王はこちらの要求を告げた。
『任せるっす。泥船に乗ったつもりで安心するといいっす』
『それは沈んでしまうのではないのか?』
『これまた小粋なバードジョークっすよ。大船どころかタイタニックな豪華客船に乗ったつもりでいてくれればいいっす!』
その例えも相当にダークなものだったのだが、異世界出身である為魔王は気付かず、ジョニーは一命を取り留めることに成功した。
『それではそろそろこの世界の人間たちのいる所に行くとするか。ジョニーよ、道案内を頼むぞ』
『了解っす!ところで旦那、今のままだとせっかくの契約の魔法陣が見えないんで、翼の方に移動させて欲しいっす』
『お前、結構大物だな……』
主人の肩に掴まり、あまつさえ堂々と欲求を口にするその姿に、魔王は半ば呆れながら山を下りていくのだった。
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