第24話
名残惜しさを感じつつ別れを告げて、リージュの家を出た。周囲を見回すけど、エグナーの姿は見えない。遠くに出ちゃったのかな?
見回しつつ次の目的地に行こうとしたら、軽快な音が耳に届いた。
視線を向けた先にいたのは、島の人とエグナー。エグナーの手には建材があって、家の修理をしているみたいだった。島の人は、警戒の抜けない瞳でエグナーを見つめている。
意外な光景を見つめていたら、エグナーと視線が重なった。
「ごめん。先に出てていいよ」
「……お手伝い?」
この光景は、きっとそうだと思う。でも確認せずにはいられなかった。
「運ぶのに出くわして。手伝うついでに、修理も任せてもらった」
「少しでも壊したら、すぐに拘束する」
「平気平気。不器用じゃないし」
裏打ちするように、エグナーは安心して見ていられる手さばきだった。島の人は信用しきれないのか、エグナーから視線を外そうとしなかったけど。
通りすぎる人もエグナーの作業が気になるのか、ちらりと視線を向けている。
エグナーはミスをしそうにないし、島の人も悪いようにはしなさそう。うちがいなくても平気かな。
「行くね。先に家に戻ってていいよ」
それだけ伝えて、自分の目的地に急いだ。
用事を終えて家に帰っても、エグナーの姿はなかった。戻ってきたのは、うちがご飯を作っていた頃だった。
予想以上に遅い帰りだな。今までずっとお手伝いをしていたのかな。帰りにあの家に寄ったけど、エグナーはいなかったし。記憶を戻せないか、様々な場所を散歩してただけ?
考えつつ料理を終えて、3人で食事の時間。こうして3人で食べるのは、もう何回目になるかな。
「お手伝いは無事に終わった?」
「ばっちり!」
「なにかしていたのかい?」
兄さんは事情を知らなかった。うちと一緒に家を出たのは気づいていたかなと思うけど。許してくれたなんて、最初に『2人きりで会うのは禁止』と言ってた頃と比べて、警戒は薄れているのかな。そうだったらいいな。
エグナーに事情の説明をされた兄さんは、納得したように小さく数回点頭した。
「思ったより、やわらかい反応だね」
兄さんは兄さんで、エグナーが島の人に冷たい態度をされるんじゃないかって心配してくれていたのかな。
「きのうのラヤの説得が効いたんじゃないかな」
「励んだんだね」
向けられた兄さんの笑顔が、少しこそばゆい。ほめられたのはうれしいけど、もっとちゃんとできなかったのかなとも思える。
うちの思いが、エグナーの誠意が伝わって、よそ者に理解を示してくれたらいいな。
「リージュ、前より元気になったかもって言ってた」
伝え忘れた言葉を兄さんに伝える。
「本当かい? 効いたのかな」
「『プラシーボ効果でなければいい』とも話していたけど」
本当にそうでなかったらいいな。新薬が本当に効いて、リージュが元気に進んでくれたらいい。
「それって?」
エグナーにはまだ伝えていなかったっけ。
「お友達。体が弱くて、お家で休んでいるの。朝に来たのも、リージュの家だよ」
「あの家か」
それだけで理解できたのか、エグナーは笑顔で納得した。
「心配だよな。早く元気になれたらいいな」
本当にそうなってくれたらいい。明るくて優しいリージュがベッドの上でしか生活できないなんて、あんまりだよ。
「小さい頃は外でも遊べていたんだ。あんな日々が戻ったらいいな」
「長いつきあいなの?」
「この島、同年代の子が少ないんだ。欠かすことのできない存在だよ」
島の人も大切だけど、比べものにできないほどの無二の存在。うちにとっては、兄さんと同じくらい大切。
「幼い頃からずっと、互いにべったりだったよね。見ていて、ほほ笑ましかったよ」
客観的にもそう見えていたんだ。てれくさいような、うれしいような感覚。
「昔のあの素材は治療に使えないの?」
エグナーもうちと同じ考えがよぎったんだ。
「冒険者と症状とは異なるから、効かないよ」
兄さんの返答に、エグナーは眉を垂らした。ここまで心配してくれるなんて。
「元気になるといいな」
一転、明るい笑顔で話してくれた。
本当に元気になってほしい。少しでも完治に近づいてくれたらいい。
素材を採取して、兄さんが様々な新薬の開発にいそしんで。ようやくつかめた今回のリージュの言葉。
過去のあの素材は本当に使えないか、密かに洞窟近くを歩いたこともあったけど。こんな日が訪れてよかった。少しでもリージュが前向きになれるようになってよかった。
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