第25話
それからもエグナーの行動は変わらなかった。うちと一緒に家を出て、リージュの家まで同行する。そこから別れて、次に会うのは自宅でだった。
その間になにをしているのかは、決まっていつも同じだった。
手伝いを見つけては励んでいる。近くを歩いて、草の捜索をしている。
島の人からは、あたたかい感情は向けられないままだけど。無視とかはほとんどされないから、本人は深くは気にしてないみたい。島の人たちはそれぞれ疑念は残るけど『次の徴収で突き出せるから』と流せているのかな。
手伝いの際に草の話を聞いて情報を得ようとはしているみたいだけど、発見につながる情報は得られていないみたい。
結局今まで、草の発見や記憶の想起につながることは得られていないとか。
ここまでしても見つけられないなんて、やっぱりこの島に草はないんじゃないかな。
よぎったけど、言えなかった。猶予の少ないエグナーを前に、希望を打ち砕くようなことをしたくなかったから。
うちも協力したいけど、どんな草かわからない以上できない。
草を見つけられなかったら、エグナーは目的を達成できないまま、島を離れることになるんだ。そうなったらきっと、心残りだろうな。
どうか草が見つかって、記憶が戻って、目的が達成できることを祈るしかない。うちにはそれしかできないんだ。
朝、リージュとの交流を終えて島を歩いていたら、リージュの家の人を見かけた。
「こんにちは」
「いつもありがとうね。お疲れ様」
うちからしたら、リージュの健康にいつも気をつかってくれる家の人のほうが『お疲れ様』だよ。本当に感謝しかない。
「……例の子から、嫌なことはされてない?」
一点、心配を瞳にのぞかせての声。『例の子』って、エグナーのことだよね。家の人もこんなことを思っているんだ。
「大丈夫ですよ。心配していただく必要は本当にありません」
「そう……みたいだね」
表情を曇らせての言葉。ちらりと揺らめいた瞳に様々な色が宿る。
「手伝いに励む姿を何度も見かけてね。私もさっき、仕事の手を借りたの」
そうだったんだ。
「不安ではあったけど、すぐに払拭できるほどの手際だった。楽しそうに励んでて、悪いことをしそうには見えなくて」
「しませんよ。今までずっと悪いことはしてこなかったので」
エグナーは平気。島に危害を加えることなんてしない。
「よそ者なのに……どうして」
そう簡単に消えてくれない色眼鏡。エグナーを見て、少しでも壊れてくれたらいいな。
「やっぱり裏切るつもりだったんだ!」
空気を壊す怒号が響いた。
「違う、これは……」
続いて届いたのは、エグナーの声。振り返ったら、島の人と対面するエグナーがいた。
あれから騒ぎはなかったのに、ついに発生してしまったの?
「どうしたの?」
エグナーに駆け寄ったら、困ったような視線が向けられた。
「これを見てくれ!」
島の人が指した先に視線を送る。エグナーの赤い上着の奥に、見覚えある印があった。
「徴収者の……」
あの徴収者にある印と同じ。
それがあるからには、エグナーは徴収者の仲間?
「それ……」
リージュの家の人もエグナーの印を見て、声を漏らした。
「オレは島に悪いことはしない! それは本当だ!」
「徴収者の言葉を信頼できるかっ!」
どうしよう、またこの事態におちいってしまった。
「なにが目的だ!?」
再度強く恐怖に傾いてしまった感情。
怪しい動きをしたら、拘束する。よぎる言葉。
「お前は知ってたのか!? 徴収者の仲間か!?」
視線がうちに移る。エグナーに向けられた瞳と変わらない、畏怖を感じられる視線。
「違う! ラヤは関係ない! 隠してたから――」
エグナーの主張に、その場にいた人の視線が集中した。うちも例外ではない。
だって、今の言葉は。
「徴収者なんだな!?」
『隠してた』なんて、認める言葉だ。エグナーは徴収者の仲間だった?
注がれる視線に黙ってたたずむエグナーは、思いつめた表情で口を開いた。
「……そうだよ」
身じろぎ、息をのむ、それぞれの反応が場を襲う。大きな反応を示さなかったのは、うちだけだったかもしれない。内心驚く思いはあったけど、その可能性も示唆されていたから。ある程度は覚悟できていたのかもしれない。
「黙っててごめん」
謝罪は、うちの目を見て言われた。
「いつ、思い出したの?」
「徴収者を見た際」
あの瞬間、エグナーは違和感を感じる反応を示していた。記憶が戻ったのが原因だったの?
「前々から、この印にちりつく頭はあった。見せたらいけないような気もして」
赤い上着を脱がなかったのは、印を見せたくなかったからだったんだ。
「徴収者の印を見た瞬間、つながった」
島の人にエグナーの存在がバレた際には、その記憶は戻ってたんだ。
「どうして言ってくれなかったの?」
「信頼してくれたのに、怖がらせるだけだ。目的のためにも、言わないほうがいいと思った」
今までの徴収でエグナーらしき姿を見た記憶はない。この島に来て、徴収はしたことはなかったのかな。
それでも島の人からしたら恐れる存在である事実には変わらない。漂う不穏な空気がその証明だ。
「皆も……黙ってたことはごめん。でも悪意はないのは本当だ」
「信頼できるかっ!」
エグナーの謝罪に耳を傾けようとする人はいなかった。『次の徴収で突き出す』という約束で拘束を免れたエグナー。徴収者の仲間なら、突き出す意味すら薄くなる。徴収者にとがめられるどころか、仲間のもとに帰るだけになるんだ。
「やっぱりよそ者だった。敵だった」
畏怖の瞳で発する、リージュの家の人。さっきまであんな話をしていたのに、今の話でくつがえってしまった意見。
「こんなヤツを野放しにできない!」
その声を号令のように動いた事態を前に、うちはなにもできなかった。
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