第23話
翌朝。すっかりなれた、3人での朝ご飯を終えた。
リージュの家に行こうとしたら、エグナーに呼びとめられた。
「一緒してもいい?」
人のいる場所に行くから、今までなら断っていた。今日からは違う。
小さい島だ。あの場所にいなかった人も、ウワサで知っちゃってるよね。住民のほとんどが聞いたと考えていい。
エグナーの存在を隠す必要はない。
エグナーも『様々な場所に、多くの人に会うほうが記憶が戻るかも』と話していた。同行したがるのは、それが理由だよね。
エグナーを突き出す事態になるのをとめられなかった。せめて、エグナーの目的が達成できるように励みたい。
「いいけど、きのうみたいに言われるかもよ?」
「オレは平気。ラヤは大丈夫?」
正直、エグナーが悪く言われるのはつらい。よそ者というだけで冷たくされる光景は見たくない。
でもそれ以上に、エグナーの目的のために協力したい気持ちが強かった。
今断って、エグナーが目的を思い出せないまま島を離れてしまったら。うちは後悔しかしない。
「平気だよ。行こうか」
2人で島を歩く日は、来ないほうがよかったのかもな。でもこれがきっかけでエグナーの目的がわかったら、無意味にはならなかったと思える。
そうなることを願って、歩みを進めた。
目的地に近づくにつれ、すれ違う人が出てきた。
驚いた表情を見せたり、別の道を歩かれたり、反応は様々。きのうみたいな声はなかったけど、誰もが好意的な感情をのぞかせていない。
わざわざ声をかけようって気にはならないのかな。よそ者を助けたくないのと同時に、関係も持ちたくないのかも。
「ここだけど、エグナーは来る?」
リージュの家を前に、振り返って問う。面識のない人のお見舞いはしにくいよね。リージュもいきなりのよそ者はとまどわせちゃうかな。結局きのう、リージュの家を出たきりだったし。心配をかけさせちゃったかな。
「周囲、ぶらついてる」
1人にするのは不安でもあったけど。さっきすれ違った人を見る限り、案外平気かな。『徴収時に突き出す』って話も聞いているだろうし、刺激しないほうがいいと思っているのかも。
エグナーと別れて、リージュの家の扉を開けた。家の人はいない。仕事に出ているのかな?
家の中を歩いて、リージュの部屋に入った。
「大丈夫!?」
早々、リージュの心配の声が飛んだ。ベッドで上半身を起こして、うちをまっすぐ見つめている。
「平気だよ」
リージュもきのうの件は知っているよね。窓から始終を見ていたりしたのかも。声も聞こえちゃってたかな。
「本当? よそ者になにもされてない?」
うちの頭頂部から爪先までをなめ回すように見て、異変がないか探ったリージュ。本当に心配させちゃったんだな。
「優しい人だよ。きのうはいきなり出ちゃって、ごめんね」
「そんなのいいよ! ラヤがよそ者に絡まれたのが問題だよ!」
「絡まれてはいないよ。うちから助けただけ」
ウワサがねじれて伝わったのかな。ただの言葉のアヤ?
「どうしてそんなことするの! よそ者を助けても、いいことないよ!」
優しいリージュですら、根づいているこの考え。島で育ったリージュも、このひずみにのまれている。
「助けなかったら、後悔っていう悪いことがあるよ」
救わなかったせいで、あの人はどうにかなってしまったのではないか。その思いにさいなまれ続けることになる。
「だからって……」
「本当に悪い人ではないから、安心して」
よそ者だからというだけで拒絶するのは間違っている。リージュにも、この思いが届けばいいな。
「ラヤが無事なら、それでいいけど」
不満げな様子をのぞかせながら、リージュは小さく発した。
「体調はどう?」
「すこぶる気分が悪い」
唇をとがらせての言葉は、きっと精神的な意味だろうな。顔色は悪くないし。
兄さんにリージュの容態、伝え忘れた。きのうはあれこれあったし。
「ごめんね。機嫌、直して」
精神が体に与える影響は大きい。体は元気そうだからって油断はできないよ。
「ラヤがいけないんじゃん。よそ者を相手にしたりするから」
本当に悪い人ではないのに。長年ベッドの上のリージュは、他の人以上によそ者への懸念が強いのかな。
「ずっと無事でいるよ。安心して」
子供をあやすように、リージュの頭頂部を優しくなでる。ふわふわした髪がこそばゆくて心地いい。
「本当?」
「リージュにウソをつくなんて、しないよ」
じんわりと伝えたら、ようやくリージュに笑みが戻った。いつもの輝く笑顔と比べると小さいけど、心が癒される力があることには変わりない。
「おわびに、料理もあげるよ」
「いつも持ってきてくれるくせにー」
ぼやきつつも、笑ったままもらってくれた。心配させちゃったのは事実だし、今度本当におわびのお菓子でも作ろうかな。
「本当に気をつけてね。ラヤになにかあったら、嫌だよ」
料理を手に、リージュはぽつりと漏らした。
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