第6話
その電話は、俺がちょうど片付けに入ろうとした時に掛かってきた。
「はい、もしもし」
『慧君、もの凄く唐突ですまないんだけど、明日からさ、慧君店長ね』
なにを言っているのだろうか。この人は、俺が店長。そんなわけがね。
『ああ、やっぱり動揺するよね。まあ、詳細は、どうしよかな?慧君、今から店に来ることとかできる?』
「だ、大丈夫だと思いますけど、でも」
『あ、そう。じゃあ店で待ってるから』
俺が最後まで言う前に、電話を切られてしまった。
俺が少し挙動不審になったことに気づいた妹が
「兄さん、誰からの電話だったの?なんか、今の兄さんの動き変だったよ?」
「あ、えー、なんでもないよ。唯、今から店に行くことになっただけだからな」
俺がそう言ったのを聞いてから、未来がなにか分かったように、手でポン!という音を立てた。
「私、分かりましたよ。慧先輩が、【アストレア】2号店の店長になるんですね」
「な、なんでその話を知ってるんだ?」
「え?慧先輩知らないんですか?もう、店の中では噂になってますよ。誰が2号店の店長になるかって」
そんな話俺は聞いてないんだけど。
これってやっぱり、高校時代と変わってないのかな?
そういえばそうだった。高校時代も、俺の知らないところで勝手に、演劇の主役になってたしな…………はは、やっぱり今も昔も俺って触れてはいけない存在なのかな?
「っていうか、慧先輩。さっきの電話ってそれだったんですか?」
「えーと、言わないと駄目?」
「駄目です」「駄目だね」
「そうだよな。たぶん、そうだと思うよ。まだ分かんないけどな。店長が詳細は、店でと言ってたしな」
「慧先輩、すごいですね!」
「兄さん、凄いね」
「ありがとう。まあ、そんなわけだから、今から俺は家を出るから」
「わかったよ」
その後、片付けをして、俺は家を後にした。
*
俺は店に入ってすぐに
「で、なんで俺が、店長になるんですか?」
と聞いていた。
「まあ、そんな急がなくてもいいじゃないか」
「それはそうですけど…………俺早く寝たいんですよね」
「そういう理由か。まあ、わかったよ。じゃあ、何故君が明日から、店長になるのかって話をね」
「お願いします」
「まず始めに慧、君はうちの店が2号店を開くことは知っているね」
「はい」
さっき知ったばかりだから詳しくは知らないけど。
「そうか。それは、よかった。君って皆から避けられている気がしてたからね」
俺は驚くのだった。
店長が、俺が避けられていたことを知っていたことに。
「知ってたんですね」
「まあね、一応は私店長ですから」
「そうですね」
「で、話を戻すけどね。なんで君を2号店の店長にしたのか。その理由は、端的に言うならば、君が避けられないためかな」
「それはどういう…………」
「だから、君ってもっと物分かりのいい子だと思っていたんだけどね。さっきも言っただろ。君は皆から避けられているとね。だから、えーと、こう言えば分かってくれるかな?君を店長に選んだのは。君が孤立しないようにするため」
それからも、いろいろと何故俺が店長になるのかの話は続いた。
帰り道。
俺は店長が言ったことがどういう意味なのか考えながら、帰っていた。
店長は、俺に言った孤立しないようにと。
…………店長も意外と過保護なのかもな。
でも、そんな店長の気づかいが嬉しかったりするよな。
店長は俺にこう言った。
孤立しないようにと。
店長になれば、孤立はしない。何故なら店長だから。頼られる存在だから。
「でも、俺に店長なんて出来るのか…………」
俺は不安を抱かずにはいられなかった。
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