第5話

私は、このままこの家から追い出されるのかな、そんな考えが浮かんできてしまった。

だって、慧先輩は、泊めさせてあげると言った。だから、私は安心したし、別に触れてはいけない存在とか全然そんなじゃないと思った。

でも、今慧先輩は、部屋が空いていないと言った。

それは、つまり私をこの家に泊めることができないと言われているととっても仕方がないことだと思う。

なんで、こんなことになったのかな。やっぱり、私が触れてはいけない人と言ったからかな。

それともさっき私の悪ふざけで彼女ですとか言ったからかな。

そんなことを考えている内に私の中には負の感情しか湧かなくなっていた。

でも、私は信じかった。

慧先輩は、そんなことで人を見捨てる人なんかじゃないと。

だって、慧先輩はあの時知り合いがなにかされることが、嫌なんだよ!って言ってくれた。

だから、私を1人にすることなんてないと信じたかった。

でも、それはどうやら私の思い違いだったみたいだ。

人間ってやっぱり、自己中心的で、自分第一に考える生物だなと痛感した。

私はもうこの場にいる理由なんてないから失礼しますと言おうとした時だった。

慧先輩がこう言ったには。

「ごめん、さっきのは嘘だ。空いてる部屋ならある」

と。

私はその言葉を聞いただけで心の底から安心した、そしてやっぱりこの人は触れてはいけない存在なんかじゃないと思った。

俺は、さっきのは嘘だと言った。

「兄さんは、黙って」

妹は、俺にそう言ってくる。

さっきまでの俺だったらなにも言わなかった。でも、今の俺は違う。

この子に嘘をつくのは嫌だった。

だから俺は黙らない。

「嫌だ。だって、瞳。この子は、今1人にすべきではないからな」

「兄さん、なんで?」

「だって、未来はさっき襲われたから、だから1人にしてはいけないんだよ」

「え?そうなの?」

妹は、俺の言葉を聞くとさっきまでの目付きとは駆け離れたほどに優しい目で未来のことを見ていた。

…………うん、やっぱり瞳は優しい奴だよな。誰が傷つくのが嫌いな優しい女の子だもんな。

「それって本当ですか?」

「本当です」

「そのー、さっきはあんなこと言ってすいませんでした。うち、まだ部屋余っているのでよかったら泊まっていてくださいね」

「うん、そうさせてもらう」

「よし!じゃあ、少しそこで待っていてくれ」

「兄さん、なんで?」

「俺の特性ミルクコーヒーを作るからだよ」

「兄さんの特性ミルクコーヒー?私今まで飲んだことないけど」

「当たり前だって、俺一回も作ったことないもん」

「ふーん、そっか。ま、わかったよ」

妹はふくれ顔だった。

「ふふ、2人は仲とってもいいんですね」

「?そうなのか?俺がよくわからんな」

「仲いいですよ。慧先輩。だって、妹さんの方は、お年頃な女の子ですよ。それは、恋愛だってしたいと思いますからね」

「そうかー。全然考えってなかったな。そういうわけなら瞳は青春してこいよ。……………俺の分まで…………はは」

「兄さん、別にいいの。私が兄さんと一緒にいたくて今もこうしているんだから。それと兄さん、最後の方いらない」

「ぅ!で、でもなんか、そのだって俺なんか変な呼び名で呼ばれてたし、だから青春できなかったんだよ!そう、だから喫茶店に青春……………なんでもない」

「兄さん、言おうとしたことは最後まで言ってくれないかな?」

「笑うなよ。俺は高校生活で青春出来なかったから、喫茶店でって思ってね」

「っく」「ふふ」

「笑ってるじゃないか。まあ、いいけどさ。じゃあ俺作りに行くから」

「うん、わかったよ」

そして俺はキッチンの方へと歩いていった。

私は兄さんがキッチンに行ったのを確認してから、未来さんにこう言った。

「私、兄さんのこと異性として好きなんだよね」

未来さんは対して驚くわけなく、平然とした感じで

「そうみたいだね。見ていれば分かるよ。まあ、とうの本人は気付いていないみたいだけどね」

「そうだね。まあ、兄さん鈍感だから」

「へぇー、そうなんだ。あの先輩がね」

そこで、私は兼ねてから聞きたかったことを聞くことにした。

「兄さんって、学生時代なんて呼ばれてたの?」

私が何回聞いても教えてくれなかったこと。

「慧先輩はね、って呼ばれていた」

「え?なんで?だって兄さん格好いいよ。それなら女の子たちにモテモテじゃなかったの?」

「影では、モテモテだった。でも、学校では話しただけで他の女の子たちから嫉妬される。だからさっき言ったでしょ、触れてはいけない存在だって」

私はひどく悲しくなった。

兄さんはいつも私の前では元気だった。

その話しをする時だって…………なんで私は気づかなかったんだろう。

「だから、さっき先輩は言ってたでしょ。青春がしたいから喫茶店で働いているって言ったんだよ」

それから数分間の沈黙が私と彼女の間に流れた。

「ん?どうしたんだ。そんなに黙って?さっきまで話してなかったか?」

「えーと、まあね。そんなことどうでもいいからさ、ミルクコーヒーは?」

「あ、はい。これ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

それから私たちはまったりとした時間を過ごした。

それで、兄さんが片付けに入るころだろうか、兄さんに電話がきたのは。

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