第28話

「よし。じゃあ、今日はクリスマスリースをプリザーブドフラワーで作ってみるか。来月はクリスマスだし、そろそろクリスマスの商品を作らないとな。」


「クリスマスリースいいですね!」


葵さんが机の上に並べた赤や緑のクリスマスカラーのプリザーブドフラワーや、リボンを見ていると、すでに気分はクリスマスだった。


「じゃあ、まず好きな色のローズやアジサイを選んで見ろ。」


「プリザーブドフラワーのクリスマスリースなんて、考えるだけでワクワクします!」


私はさっそく濃い緑や、深みのある赤のアジサイ、ローズを手に取った。


「クリスマスの雰囲気が出てていいな。じゃあ、このリースに装飾していくぞ。」


葵さんはつるで編んであるリースを机の上に置いた。


「わぁ。こんなリースがあるんですね!」


「リースは自分達で作ってもいいが、こうやってあらかじめベース用に作られた物も売ってるんだ。じゃあ、ローズのワイヤリングだな。今回はワイヤーでリースにローズを固定するから、インソーションとテーピングはなしだ。」


私はさっそく緑のローズのワイヤリングを始めた。葵さんをチラリと見ると、葵さんもリースを作るようだった。葵さんは白や緑のローズやアジサイを使って作るようだった。


「今回はアジサイが多めのリースを作るから、アジサイはワイヤリングはせず、グルーで着けていく。」


葵さんはピストルの形をした器具を棚から取り出した。


「グルーってなんですか?」


「グルーというのは、樹皮製の接着剤のことだ。グルーがこの長いスティック状に固めてあるから、このグルーガンに差し込んで、温めて使うんだ。」


葵さんはグルーガンと呼んだピストルの後ろに白いスティックを差し込むと、コードをコンセントに差した。


「5分くらい温め、引き金をひくと液体の接着剤が出てくるんだ。高温だから、直接グルーを触るなよ。火傷するからな。」


「わ、わかりました。」


葵さんはグルーガンを温めている間に、ワイヤリングしたローズをリースに着け始めた。


「テーピングしてないワイヤーを軽く開いて、リースに2.3回巻きつけて固定するんだ。もちろん、花の顔の向きに気をつけろよ。」


私も、ワイヤリングが終わったローズを、見よう見まねでリースに固定した。


「アジサイはいつも、茎から切り離して分割してから使ってるが、今回は茎のまま使うぞ。」


葵さんはアジサイの茎にグルーガンを近づけると、引き金を引いた。すると、透明の液体が出てきて、茎に水滴のようにポタンと着いた。


「グルーはすぐ固まってしまうから、固まる前にリースのつるの隙間に差し込むんだ。」


葵さんは手早くつるの隙間にアジサイを差し込んで、しばらくそのまま、アジサイを手で固定していた。


「すみれもやってみろ。」


私は恐る恐るグルーガンを受け取ると、アジサイの茎にグルーガンを近づけ、引き金を引いた。思っていたより、多くの量が茎に着いてしまい、今にも液体が机の上に垂れてしまいそうだった。ティッシュで受け取ろうかとまごついているうちに、グルーがリースにつける前に固まってしまったようだった。


「何やってるんだ。すばやく、隙間に差込めっていったろ?」


「す、すみません。これもう使えないですか?」


私は失敗してしまったアジサイを葵さん渡す。


「完全に固まる前なら、ゴムのように柔らかい状態だから取り外すこともできるぞ。でも、茎が折れないように優しくな。」


葵さんは丁寧な手つきで、アジサイの茎に着いたグルーを取り除いてくれた。


「ありがとうございます。」


今度は、軽めに引き金を引いてグルーが大量に出ないように心がける。茎にグルーが着くと、すばやくつるの隙間に差し込んだ。しばらく手で固定して様子を見ていると、ちゃんとリースに固定できたようだった。


「よし。そういう感じで、どんどんアジサイをつけていきたいところだが、もう開店時間になってしまったから、下に行くか。」


時計を見ると、すでに10時5分前だった。


「俺はグルーガンを片付けたりしてから行くから、先に行っててくれ。」


「わかりました。」


私は、早足で階段を降りて行く。すると、店内から柊さんと大和さんが大声で話しているのが聞こえてきた。


「もう決めたことだから。」


「勝手にそんなこと決めるなよ。」


内容はよくわからなかったが、2人は大声で言い合いをしているようだった。よくないと分かりつつも聞き耳を立ててしまう。


「だって、柊はこの店を離れることなんてできないでしょ?」


「そ、それは…。大和のことは大事に思ってるけど、この店も親父の形見で、同じくらい大切なんだ。だから…。」


「ほら、やっぱりそうじゃない!私がこの店を初めて離れる時も、柊はそう言ってたもの。だから、私はまた1人でパリへ行くから。」


「今度はいつ帰ってくるんだよ。」


「わからないわ。ずっとあちらを拠点にするかも…。」


「じゃあ、俺たちはこれで終わりだな。」


ドサッ


私は驚いて足を滑らし、豪快な音を立てて尻餅をついてしまった。


「すみれちゃん!」


柊さんと大和さんは、物音を聞きつけて、階段に視線を向けた。私が階段に座り込んでいるのを見つけると、2人はハッと目を見開いた。大和さんの頬には涙が伝っていた。


「す、すみません。私…。聞くつもりじゃなかったんです。」


私は慌てて、2階へ駆け上がって行った。

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