第26話

「え?今なんて?」


私は驚いて思わず前のめりになる。


「女性には興味はないって言ったんだよ。」


聖さんはメニューから顔を上げるとニコリと笑った。


「そ、そうだったんですね。私てっきり…。」


言いかけて慌てて口をつぐむ。


「てっきり何?」


聖さんが首を傾げて私をじっと見つめる。


「い、いえ、何も…。」


私は、水の入ったグラスに口をつけて何でもない顔をする。


「てっきり、俺がすみれちゃんのこと好きかと思った?」


いきなり核心を突かれ、口に含んだ水を思いっきり吐き出して出してしまった。


「す、すみません!」


私は慌ててテーブルをおしぼりで拭く。


「あはは。やっぱり誤解させちゃってた?すみれちゃんは可愛いと思うけどね。僕はどうも男性しか受け付けないんだ。それはそうと、ご飯何にする?適当に頼んでいいかな?」


「はい…。」


驚きすぎて冷静にメニューを決められそうになかった。聖さんはそんな私とは対照的に、落ち着いた表情で店員さんを呼びオーダーしていた。


「デザートも美味しいから後で食べようね。きっと葵さんも気にいると思うから、今度は葵さんも誘おうかな。」


聖さんは嬉しそうに言った。


「そ、そうなんですね…。それにしても、なんで急に私にカミングアウトを?」


「うん。そこだよね。すみれちゃんはさ、前にも聞いたけど、柊さんが好きなの?それとも葵さんが好きなの?」


「え?それは…。」


柊さんの穏やかな笑顔がふと頭に浮かび、大和さんの笑顔にかき消される。


「大和さんが帰ってきたからな…。ややこしくなってきたか…。」


聖さんがボソリと呟いた。


「え?もしかして、聖さんは柊さんのことを?」


「え?ちが…。」


「私も柊さんに惹かれてたんです…。でも、あんな完璧な彼女がいたなんて…。私完敗だなって…。」


同じ境遇の人がいるなんて嬉しくて、自然と自分の気持ちをさらけ出してしまった。


「すみれちゃん、僕は…。」


「分かりますよ。さすがにあんな綺麗な女性には、聖さんでも敵いませんよね。」


柊さんへの気持ちを誰かに話したくて口が止まらなかった。


「でもお2人お似合いですよね。私、柊さんはきっぱり諦めることにします。これからはお花に専念しようと思います!」


私は一息つくとドリンクを一気飲みした。


「お花に専念ね。やっぱり、すみれちゃんは、柊さんのことが好きだったんだ。葵さんはすみれちゃんが好きみたいだけどね?」


「ゲホッゲホッ」


また核心突いた聖さんの言葉に、今度は吐き出しはしなかったものの、咳き込んでしまった。


「葵さんから何か聞いたんですか?」


むせて涙目になりながら、聖さんを見つめる。


「いいや。前からそう思ってたけど、今日、葵さんとすみれちゃんのやりとり見て核心したのさ。好きな人のことなら、見てればわかるから。」


聖さんは私を見てクスリと笑った。


「好きな人?えっ?聖さんの好きな人って、柊さんじゃなくて、葵さんなんですか?」


思わず大きな声をだしてしまい、慌てて口を抑える。


「そうだよ。ケーキを差し入れたり、最近は店にもよく顔だしてるでしょ?」


「そう言われればそうですけど…。柊さんも聖さんは私に好意を持ってるって勘違いしてましたよ…。」


聖さんはガクッと肩を落とす。


「柊さんもか…。この感じだと葵さんも気がついてないだろうな。まぁ葵さんはすみれちゃんのことが好きみたいだけど、それでも僕はまだ諦めてないけどね。」


「えっと…。」


葵さんに好きだと言われたことを、聖さんに伝えるべきなのか迷っていると、聖さんはクスリと笑った。


「本当はね、大和さんが帰ってくる前に、すみれちゃんと柊さんをくっつけてしまおうと思ってたんだよね。そしたら、葵さんはすみれちゃんのこと諦めないといけないしさ。」


「え?」


今一瞬、ダークな一面の聖さんを見てしまったような気がして、葵さんに想いを伝えられたことを聖さんに伝えてはいけない気がしてしまった。


「さっき柊さんをきっぱり諦めるようなこと言ってたけど、もしかして、もう葵さんのこと好きになっちゃったとか?」


「えぇ?それは、まだないと思いますけど…。」


「そうだよね。」


聖さんはホッとした表情をする。


「葵さんはすみれちゃんのことが好きみたいだがら、葵さんが好きになる女性はどんな人なのか、知りたくて、今日はすみれちゃんを食事に誘ったってわけ。」


「そ、そうなんですね…。」


聖さんはいつものように爽やかに笑うが、どうしてもダークな聖さんのイメージを払拭することができなかった。


「まぁそんなに身構えないでよ。来月さ、クリスマスじゃん?みんなで、クリスマスパーティーしようよ。」


「クリスマスパーティー?」


「そうそう。僕も葵さんとクリスマスが過ごせたら嬉しいし、みんなで、クリスマスパーティーしたら楽しいかなと思って。」


「いいですね!さっそく明日、葵さんたちに聞いてみましょうか?」


「うん。よろしくね。スペシャルなクリスマスケーキを用意しておくからって、葵さんに伝えてほしいな。」


「わかりました!まかせてください!」


クリスマスは、1人で過ごすと思っていたせいか、パーティーと聞いて、なんだかワクワクしてきてしまった。


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