第14話

「えっと誕生日は、実は今日なんです。」


「え?そうなの?」


柊さんは驚いてカレンダーを見る。


「お誕生日おめでとう!早く言ってくれればいいのに!そういえば、すみれちゃん何歳になるの?」


「ありがとうございます。今日で25歳になりました。柊さんはおいくつなんですか?」


「25歳かぁ。若いなぁ。俺は34歳でちなみに葵は32歳だよ。」


ずっと気になっていた2人の年齢をやっと聞くことができた。葵さんの言った通り、私の年上だった。


「ただいま。」


裏口から帰ってきた葵さんが顔を覗かせる。


「配達おつかれさま。今日はお客さんまだ1人だし、こちらは順調だよ。あのね、今日すみれちゃんの誕生日なんだって!」


「そうなのか…。」


葵さんはちらりと私の方を見る。


「上で作業してるから、混んで来たら声かけてくれ。」


葵さんはそう言うと2階へ上がって行ってしまった。


「葵、恥ずかしくておめでとうって言えないんだよ。ごめんね。」


柊さんはクスクス笑いながら言った。店のベルがカランカランと音を立て、男性が顔を覗かせた。


「こんにちは。」


「え?」


男性の顔を確認して思わず驚く。どこかで聞いたことのある声だと思ったら聖さんの声だった。


「聖?」


柊さんが嬉しそうに聖さんに駆け寄る。


「柊さん!」


「え?」


さらに驚くことに、どうやら2人は知り合いのようだった。聖さんがレジに立ったいる私に気がついたようだった。


「あれ?すみれちゃんじゃん。ケーキ屋さんじゃなくて、花屋さんでも働いてるの?」


聖さんは驚いた顔をしてこちらを見る。


「聖?すみれちゃんと知り合いなの?」


柊さんも驚いて私たちを見る。


「まぁね。最近知り合ったんだよ。」


「今日から働くことになったんだよ。っていうか、帰って来てるなら声かけてくれればいいのに!葵呼んでくるよ。」


柊さんは嬉しそうに2階へ上がって行った。


「今度は花屋さんで会うなんて…。」


私は驚いて聖さんを見つめる。


「ねっ。また会えるって言ったでしょ?うちの会社、ここにプリザーブドフラワーを仕入れてるんだ。最近まで僕はパリへ仕事で行っていてね。帰ってきたばかりなんだ。」


聖さんは悪戯っぽく笑う。


「パリ?」


「パリはプリザーブドフラワーの本場の地だからね。早く葵さん降りてこないかなぁ。」


聖さんは持っていた手提げ袋の中を除くと嬉しそうに笑った。


「それ、アルブルの袋…。」


「そうそう。君の働いてる店に寄って買ってきたんだ。この前は全種類買ったけど、今回はその中でも選りすぐりの葵さんが好きそうなケーキを厳選して買ってきたよ。」


「あっ。だからこの前は全種類買っていっったんですね。」


「そうそう。スイーツマニアの師匠のために厳選してたのさ。まだアルブルに行ったことがないって言ってたからね。」


聖さんは得意げに言った。


「でも、アルブルのケーキはこの前私が…。」


「あ、葵さん!」


私の話を聞き終わらないうちに、聖さんは葵さんの元へ走って行ってしまった。


「聖!久しぶりだな。帰ってきてたなら声かけろよ。てっきりまだパリにいるのかと思ってたぞ。」


葵さんは嬉しそうに聖さんの肩を叩いた。


「すみません。2人を驚かせたくて。あのこれアルブルのケーキです。前に葵さん食べたいって言ってましたよね?」


聖さんは満面の笑みで袋を葵さんに渡す。


「おっ!もしかしてアルブルロールか?あれが1番うまいんだよな。」


葵さんは嬉しそうにケーキの箱を開ける。


「え?葵さんアルブルロール食べたことあるんですか?僕も全種類食べた中でこれが1番美味しいと思って、今日買ってきたんですけど…。食べたことあったんですね…。」


聖さんは残念そうに肩を落とす。


「前にこいつが持ってきてくれたんだよ。でもこれが1番好きだから俺は嬉しいよ。冷蔵庫に入れてくるな。」


葵さんはケーキの箱を持って軽やかな足取りで店を出て行ってしまった。


「へー。すみれちゃんが既に差し入れていたんですね。アルブルでも働いていて、ここでも働いてるなら当たり前か…。」


聖さんは恨めしそうな目で私を見る。


「ま、まさか葵さんのために全種類食べてるなんて思わないじゃないですか!でも葵さん喜んでたし、ねっ柊さん!」


私は慌てて柊さんにフォローをお願いする。


「あはは。聖そんな顔するなよ。まぁ喜んでたし、良いじゃないか。」


柊さんは笑いながら聖さんの頭を軽くポンポンと叩く。


「そうですけど…。葵さんを驚かせようと思ったのに。」


聖さんは不服そうだった。


「俺ちょっと奥で作業したいことあるから、聖ゆっくりしていけよ。」


柊さんはそういうと作業場へ行ってしまった。


「てっきりケーキ屋さんで働いてるかと思ったよ。ここで、レッスンしてるっていうから、また会うことになるとは、思ってたけど、まさかここで働いてるとは思わなかったな。」


聖さんは肩をすくめて言った。


「あのケーキ屋は実家で、たまに手伝っていたんです。」


「なるほどね。それで?どっちが好きなの?」


聖さんはカウンターに肘をついて私をにっこりと笑った。


「え?どっちって?」


「柊さんか葵さんどっちが好きかってことだよ。」


「べ、別にどっちが好きとかじゃないですから。」


急に変なことを言われて、顔が熱くなってくるのを感じる。


「へー。あんなにイケメンな2人がいるのにどっちも好きじゃないんだ。じゃあ、僕にもチャンスがあるんだ。」


聖さんは嬉しそうにクスリと笑う。


「え?どういう意味?」


「そのうち分かるから。」


聖さんは意味ありげに言うとショーケースの方へ歩いて行ってしまった。しばらくすると柊さんが作業場から戻ってきた。何やら小さなカゴを持ってきた。


「すみれちゃん。これどうぞ。」


柊さんは持っていたカゴを私に差し出す。カゴの中には生花のアレンジメントが入っていた。


「え?私に?綺麗!」


「そう。お誕生日おめでとう。」


柊さんは優しく微笑んだ。その表情に思わず胸がドキンと音を立てた。


「ありがとうございます。この花は何ですか?とっても可愛い。」


鮮やかなピンクや紫の花を指差した。


「これはトルコキキョウっていう花なんだよ。すみれちゃんのイメージにぴったりだったからさ。トルコキキョウはすみれちゃんで、この小さな花は、ケーキをイメージしてアレンジしたんだ。」


「わぁ。すごく嬉しい。」


「ん?なんかおめでとうって言葉が聞こえたんだけど?」


聖さんが不思議そうな顔をしてこちらにやってくる。


「今日は、すみれちゃんの誕生日なんだよ。」


「そうだったんだ。Happy Birthday!へぇ。トルコキキョウか。すみれちゃんトルコキキョウの花言葉は知ってる?」


聖さんはトルコキキョウを見ながら微笑んだ。


「え?知らないです。」


「すがすがしい美しさだよ。すみれちゃんにぴったりだね。」


「え?」


聖さんは驚いている私に爽やかに微笑んだ。葵さんが2階から降りてくる足音が聞こえてきた。


「さっき不在だったところに配達に行ってくるよ。お前もくるか?」


葵さんは階段を降りながら私たちに声をかける。


「はい。配達行ってきます。」


「うん。いろいろ経験しないとね。アレンジメントは花の冷蔵庫に入れとくから。」


柊さんはカゴを私からそっと取り上げると作業場に持って行った。


「じゃあ、僕もそろそろ行かないと。また顔だしますね。」


聖さんは爽やかに微笑むと店を出て行った。


「ほら、俺たちも行くぞ。」


スタスタと店の奥へ歩いく葵さんに遅れを取らないよう、私は急いで追いかけた。





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