第11話
「ごめん…なさい」
啓太が誠に一番最初に放った言葉は謝罪であった。虐められている彼女を見てみぬふりをしたこと。危険な目にあわせ大怪我を負わせてしまった事。旧校舎で誠を置いて一度は逃げたこと。そしてこちらの世界に連れてきてしまったこと。
この謝罪に込められた思いは啓太の精一杯の気持ちを込めた謝罪であった。
そんな啓太の気持ちとは裏腹に誠はきょとんとしていた。ただただ呆然と目の前で頭をさげる啓太を見つめている。
「なんの…こと?」
「…へっ?」
とっさに啓太は頭をあげる。誠は必死に頭に手をあて考えている。
「ごめん、やっぱりわかんなかったよ。私頭あんまりよくないから…へへ」
と誠は笑った。
「いや…だから…学校で、さ僕達酷い目にあったじゃん。あれってさ僕のせいなんだ。誠が怪物におそわれて大怪我して、僕は恐くて一度は君を置いて逃げたんだ。でも逃げられなくて左腕噛み千切られた。すっごいいたくていっぱい血がでた。怖かった、このまま死んじゃうって、でも当然なんだよな。誠…ちゃんのことおいて逃げたんだから。罰があたったんだ、きっと」
俯きながら啓太は続ける。
「それにさ…僕、誠ちゃん虐められてるときなにも出来なくて、そりゃ情けなくて、自分が虐められるかもしれないって、僕は歌那多みたいに飛び出す事はできなかった。誠ちゃんがあんな目で僕をみるのも当然だって…おもった。だからこのごめんなさいはいままでのすべてのことにたいしてのごめんなさいだ。ごめんなさい」
再度啓太は頭を下げた。
それに対して誠の反応は意外なものだった。
「…啓太くんごめんなさいばっかりだね。啓太くんはなんにも悪くないのに。私がいじめられてたのだって私が剛くんに悪いことしちゃったから…でも歌那多くんがあのとき飛び出してきてくれたときは嬉しかった。私にとって歌那多くんは英雄だよ。かっこよかった」
「…うん」
頭を上げずに啓太はうなずく。誠は続ける。
「でも啓太くんは…もっとかっこよかったよ。啓太くん、全然情けなくなんてないよ。だってあんなおっきい牛さんにおっかけられたら誰だってこわいよ。逃げちゃうよ。あれ?犬さんだったかも。ま、どっちでもいっか」
「…でもッ!」
と頭を上げ喋ろうとした啓太の口を誠の指がふさぐ。その手はとても柔らかくて、ほんのりしめっぽかった。
「でも私の事助けてくれたよ、啓太くんは。おてて痛かったよね。」
啓太の左手を触り、眺める。そして誠は一言、顔をあげて笑い、言った。
「ありがとう」
「……うん」
紡ごうとした言葉を忘れてしまうほどに誠の笑顔は今の啓太にとっては救いであった。母を、姉をすべて失って何もない彼を救ったのはまぎれもない彼女であった。
そんな二人の様子を安心するように眺めるリーアがこほんっと咳払いをする。自分もいるよという意思表明をしたかったのだろう。
「あぁ……コホンッ。ではお二人には私から途中になった説明をさせていただきます」
こうしてリーアのこの世界についての説明が始まる。
説明の内容はこうだ。かつてこの世界は、聖剣に選ばれた四人の英雄と、選定の巫女によって選ばれし亜人の王、すなわち亜王が四人、が種族間で争っていたようだ。
争いの理由は中央大陸の領土争いによるものであったらしい。しかし魔を断罪する聖剣と、その場に存在する全ての魔力を使役することの出来る亜王の力は拮抗していた。しかしある日天から一体の天使が舞い降りた。
天使は瞬く間にその白い翼を赤く染めあげると、互いの勢力を蹂躙した。その力は凄まじく、八人の英雄、亜王をも圧倒する者であった。
亜人と人間はこれでは互いの種族の終焉を覚悟しなくてはいけないと判断し、互いに力を合わせ天使を討ち取ったそうだ。皮肉にも共通の敵の出現により、一致団結した彼らは八人で同盟を立て、中央大陸は、亜人、人間関係なく共通の領土として存在しているのだが、その均衡はここ数年で変わってしまった。10年前一人の聖剣を持った男が、四人の天使を従え中央大陸を中心に魔族を蹂躙したのち外部にある島の一つ『エレガノ』の当時の亜王を殺害し、『エレガノ』には今も次期亜王はおろか選定の巫女すら現れる気配がないという。
話はそれたが中央大陸を中央に置き、周りをリーアが述べたように啓太がいた日本で絵本などで描かれるデフォルメの太陽のように周りを8つの島が囲んでいる。先程述べた『エレガノ』を中央大陸の北と置くと亜人の住む島『カシカ』『ルベリエ』『アネリア』、英雄の誕生地であり人間の住処である『エリス』『ヴォルキス』『アルバート』『アングル』の中央大陸、さらにその中央にある竜の住処である『霧の島』を含む十の大陸で構成されている。ちなみに島の名前はかつての亜王と英雄の八人の名前をそのまま島につけたものであるということだった。
現在啓太達がいる場所は『カシカ』であり、広大な自然と豊な土地を利用した農耕が盛んな島であった。
亜人も農耕などするのかと以外であった。なぜなら亜人といっても一括りにできない故にイノシシの様な姿はオークと酷似しているし、耳長な種族はエルフのような現代日本で育った啓太にはゲームの世界に出てくる様なモンスター、つまり魔物の類に見えてしまい、もっと野性的な生活を送っているのかと想像していたなんてことは口が裂けても言えない。
「っという感じですかね。ご理解いただけましたか?啓太様?誠様」
「ほえぇ……なるほど。って誠馬鹿だからわかんないよ。啓太君はわかった?」
「うん……なんとなくは……ってか顔ちかいよ、誠ちゃんッ」
「わかっていただけたのなら何よりです。それでは実際に島を案内しますね」
「わぁ……楽しみだね啓太くん」
「……うん、そうだね」
実際に島の外をあるくことに希望に夢を膨らませる誠を後目に、啓太は不安を隠しきれなかった。
そんな啓太の様子を見てリーアが啓太の肩に手を乗せ、笑った。
「大丈夫ですよ、啓太様。何かあっても私が命に変えても守りますから」
「うん……」
こうして三人は城を後にしたのだった。
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