第12話

 城の外に出た啓太達はリーアに案内されるがまま島の外を巡り歩いていた。


その中で啓太が驚いたのがやはり野を耕す亜人たちの姿であった。姿形はイノシシやリザードマン等々現代ではRPGや創作物の中で架空の生き物として描かれている異形の者の姿に啓太も誠も驚き、少しばかり畏怖の念を持っていた。


そんな二人の姿を微笑ましそうに眺めるリーア。




「ふふっそんな恐がらなくても大丈夫ですよ。皆良い人達です。おーいッ!!」




手を大きく上げ、農作業に精を出している亜人に手を振る。リーアの声に亜人達が顔を上げる。




「おぉ、これはこれはリーアさん。外界に行かれたと聞いて心配してましたぞ」




「久しぶり、リーア姉ちゃんッ!」




「リーアさんっ!今日取れたての野菜だ。良かったら持っててくれ」




「リーアさん。すこすこのすこ」




 リーアの一声で亜人達が一斉に集まってきた。その光景に誠と啓太は唖然としていた。誠にいたっては「啓太くん……」と呟きながら啓太の手を握って震えている。


 啓太自身も恐かった。実際啓太は玉座に座った際多くの亜人を見ていたが実際にここまで接近したのは初めてであった。だからこそ畏怖していたが誠の前でかっこ悪い姿は見せられないという意地が自らの振るえを止めた。もっとも震えないで居るのが精一杯だったが。




「リーアさん?この子達は?まさかリーアさんの……」


「そんなっ!?リーアさんもうこんな大きなお子さんがっ!」


「うわぁぁぁああぁぁっ!俺はそんな報告聞きたくないぞっ!」




と啓太達の姿を見て勘違いした一部の亜人連中が騒ぎ出す。その様子にリーアが慌てふためく。




「ちっ……ちがいますよっ!全く。コホン。このお方は新たな我らが王、啓太様とその友人誠様でございますよっ!ご無礼の無いように」




 その瞬間亜人達の様子が変わった。一斉に啓太に視線が集まる。その目つきは様々であったが一同に込められている意思は疑問であった。


『こんな子供が王?』という意図が含まれている事は七歳の啓太にも理解できた。広間の時にも同じ視線は感じていた。ただ考える余裕があの時は無かった。正直今も余裕があるかといえば嘘になる。しかし誠の言葉で少しは気が楽になり今こうしてこの場にいる。


(……恐い。こんな視線が何百も僕を取り巻いていたのか。それもそうだよね、僕が王様なんていわれても皆納得なんてしてくれないよね)




「こんなのが新たな王様?笑えるね」




 皆が抱いているであろう疑問を吐露した者が居た。その言葉の主は取り巻きを押し退き、啓太の前に現れた。




「……シロエ。口を慎みなさい」




 リーアが静かにシロエと呼ばれた女性に警告する。その言葉には静かながらに確かな怒りが篭っていた。


シロエは「ハッ」と鼻で笑い白銀の腰まで伸びる髪をかき上げた。そして啓太の前に立つ。背丈的にはリーアと同じくらいだろうか。長い耳が特徴で恐らくエルフなのだろう。ただ女性らしさはあまり感じない。長い髪とその大きく盛り上がった胸元以外は薄手の下着の上から革のベストを羽織り、印象としては男性のような格好に身を包んでいる様に啓太は感じた。


シロエはリーアの言葉など無視し、啓太の頭に触れようとした時、シロエの手が止まった。




「それ以上王を侮辱するのなら、私が許さない」




 雷がリーアの周りを這っていた。片手には短剣が握られていた。空気を電気が伝うごとに鳴動し、うねりを上げる。その様子にシロエが笑う。




「いいねぇ……同じ女ながら惚れ惚れする忠臣ぶりだぁ……だがな、皆思ってるぜ。なぁ?こんなちびっ子が亜王かよってなぁ。しかも見る限り人間にしか見えん。ま、もっとも所詮半端者のハーフエルフ風情が選ぶにゃぁお似合いの王様だがな」




 瞬間けたたましい稲妻が走る。啓太の脇を一瞬閃光が駆け抜けた。


ガギンッ!!


金属の衝突音が辺りに響く。遅れて地面が加速によって抉れた。


 啓太が後ろに振り返るとリーアとシロエが剣を交えていた。リーアの顔は怒りに歪んでいた。相対するシロエの表情はひどく昂揚し、意地の悪い笑みをうかべていた。




「取り消せッ!」




「いいや、取り消さないね。紛れも無い真実を述べただけだ。こんな王では炎帝は愚か、聖剣持ちに殺されるのがオチだ。ならこの場で俺が裁いてやろうっていってんだよ」




「そんなこと無いッ!彼はこの『カシカ』の王として確かに選ばれたッ!この目で〝王の資質〟を見たッ!間違いなどない」




 剣を交えながら二人の言葉は熱を上げていく。そしてその熱にシンクロするかのように熱い火花を何度も何度も散らす。


その様子に周囲の亜人達は圧巻され動けずにいた。




「ど、どうしよ、啓太くん。リーアさん恐いよ。あの女の人も。だれか、誰か助けを呼ばないと」




しどろもどろになっている誠を背後に啓太はというと震えていた。なぜならこの不毛な戦いを止めるのは本来であれば王なのだから。しかし啓太にこの戦いを止められる力は無い。


 正確にはあるがそれがどの条件で発動できるのかが啓太は分からなかった。だからこそ周りの亜人達の視線が痛い。周囲の落胆の声が耳に伝う。




「どうすればいいんだよ」




啓太は酷く無力だった。拳を握り締めその場に立ち尽くす事しか今の啓太には出来なかった。


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