第7話 店名が変わりました


 さて、今日も今日とて我が【コンビニハヤシ】は大盛況です。


「店の名前がコンビニだけだとケイタ殿の存在が見えてこない」とバルドさんに言われ、店名変更しました。タブレットで設定いじるだけで看板が変わったのを見ていろいろと頭痛がしたんですが、もう慣れました。ハハッ。


「ダルトン様ですね。こちらご注文の“黒鉄(こくてつ)のバスタードソード”です」


「念願のスレッジ工房のバスタードソードを手に入れたぞ!!」


 ダルトンさん、それフラグ……って思ったけども、さすがに彼を殺してでも奪い取ろうとする人はいなかった。というかこの人、この辺じゃ有名な剣士らしい。リンさんが手合わせしてもらえないかなあとか乙女チックに悩んでいた。悩みの内容が乙女じゃないけども。


「店主よ。それにしても素晴らしい伝手をお持ちだな。さぞかし名のある商人なのだろう?」


「いえ、私はしがないコンビニ店長です」


「そうか、まあそういうことにしておこう。また寄らせてもらうぞ!」


 頬にバッテン傷で笑顔を作られてもぶっちゃけ怖いです。まあ、それでも笑顔で見送るあたり、俺も訓練されたコンビニ店員なのだろう。



 先日、店内のヒーリングコーナーで魔力切れを起こしたレナさんも、新しいワンドのおかげか今日は順調に回復魔法をかけ続けている。なんかコンビニの聖女とか意味不明な二つ名が付いているのはもうスルーでいいと思うんだ。うん。


「あ、てんちょー! このワンドすごくイイです! とてもスムーズに(魔法が)出せるんですよ。(魔力を)たくさん出しても疲れないし。最高に快感です!」


 レナさんが穢れなき微笑みできわどいセリフを言う。さらにワンドの根元から先端に向け手をすっと滑らせた。前かがみになった連中がいたのは仕方ないと思う。カッコの中の言葉もきちんと言わないとですね。


 彼女がうふっと首をかしげると、綺麗なブロンドの髪が躍る。そして体を少し傾けたことでたゆーんと揺れる幸せの象徴。うん、俺って幸せ者だなあ。とどうも鼻の下が伸びていたようだ。バルドさんの必殺技、体を一回転させて放つハリセンスピンスラッシュを後頭部に受け、俺の意識は闇に沈んだ。


「不埒もの」


 毎度の事なんですが、バルドさんに攻撃されるのはなんでだろう? 



 さて、先日レナさんが魔力切れになるまで回復魔法をかけ続けたのには理由があった。ラグラン砦の先にある平原で、グレイシアとゴルドニア両国の軍が衝突したらしい。大規模な戦闘が今も続いており、負傷者が大量に出ているようだ。


 在庫一掃処分で“ポーション”と“やくそう”を並べてしまおう。

 そういえば、バルドさんは何とか伯爵家とか名乗ってたけど、どっちの陣営なんだろうか?


「うむ、我がヴァラキア家は、魔王陛下に忠誠を誓っている。って言わなんだか?」


「そういえば聞いたような……って、ここにいていいんですか?」


「まあ、問題はない。今回の戦いでは当家は前線に出ておらぬし」


「ならいいんですが……」


「うむ、ケイタ殿。わが身を案じてくれるとは恐悦至極」


「そりゃあ、大事な人ですからねえ」


「ん? なななななななななななあああああああああ??」


 バルドさんが顔を真っ赤にして後ずさる。


「キャー、店長さん大胆ですー!」


 レナさんが手で顔を覆って黄色い悲鳴を上げる。けど指を開いて目は覆っていないあたりあれだ。うん。


「そりゃ、バルドさんは右も左もわからない自分を助けてくれた恩人ですし。大事にしますよ」


「あ、……ああ、そうだな。ケイタ殿は義理堅いなあ……」


「いえいえ、当たり前のことです」


 なんでバルドさん拗ねてるんだろう? ちょっと重い空気が漂い出したところにルークが駆け込んできた。


「店長、行き倒れです!」


「はい!?」


 店の外に出ると、全身黒っぽい色の装束を纏った……たぶん小・中学生くらいの少女が店先の噴水の中に浮かんでいた。たぶんというのは頭を頭巾で覆っていたため顔が見えなかったからだ。まあ、背丈に似合わぬ胸部装甲のボリュームが彼女の性別を示していた。


 とりあえず噴水の中から引っ張り出す。頭巾を取り、口元に手をかざす……うん、呼吸はしている。ひとまずリンさんに頼んで、着替えさせてもらった。下着は仕方ないので在庫で、服もとりあえず同じく在庫のジャージを着せる。年端もいかない少女を引ん剝くことは私にはできません。そう、できませんでした(血涙)。


 ひとまず休憩室に寝かせた。座布団を折りたたんで枕にして、毛布を掛ける。一応枕元にミネラルウォーターと、おにぎりを置いておく。目が覚めたらお腹が空いているかもしれないしね。


 そうそう、レベル2になったら備品の項目に“制服”が出たので、シャツとスラックスを発注した。まあ、基本のドレスコードを守ってもらえばいいのである。


 ふと思いついてみんなにおそろいのエプロンを発注した。紺色の生地でど真ん中に漢字で『林』の一文字を白丸で染め抜いてある。


 ポケットもつけてあるのでツール入れにも使える。機能性も重視した逸品だ。おそろいの服装を着ることでスタッフの一体感を高めるのです!

 

 そして来客も一段落ついたとき、休憩室からぐぎゅるるるるるるるるるると、ものすごい腹の虫の音が鳴り響いた。

 

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