第6話 お店がレベルアップしました!


 とりあえずメンバーを集めた。そしてお店のレベルアップについて告げる。


「ほう、見事だ。ケイタ殿の手腕だろう」


「すばらしいですわあ!」


 レナさんがどっかの魔女っ子の友人のようだ。


「てんちょーぱねーっす、すげーーっす、だから俺の時給上げて下さ……ぐげっ!?」


「空気を読めこの痴れ者!」


 ルークはリンさんに沈められた。攻撃を受ける瞬間歓喜の表情が見えた気がしたが……見なかったことにしよう。知らない方が幸せな世界は確実にあるんだ。


「じゃあ、一つ確認です。そもそもレベルアップって何?」


 この世界の人ならわかるだろうと俺は質問してみた。


「お、おう……」


 微妙にルークが目をそらす。


「人間がレベルアップするのは理解できるんですよ。けどこれお店、もしくは商会ですよね? 人じゃないですし?」


「んー、理解しがたいかもしれぬがこういった店にもレベルが存在するのじゃ。それで、一定の条件を満たすとその主にお告げが下るとされておる」


「そういうものなんですか?」


 おい、ルーク、なんでお前が聞く?


「そうじゃ!」


 ドヤ顔のバルドさんに説明され、まあ、この世界ってこういうものなんだなと、いろんな疑問を棚上げする。


 そして俺はタブレットに表示されているメッセージの『Yes』をぽちっとタップした。


 閃光が走り、眩しさに目を閉じる。そして目を開けると店内は一変していた。フロアが拡張され棚が一列増えており、エンドのディスプレイスペースはさらに豪華になっていた。


 ちなみに“はがねのよろい”は“ミスリルアーマー”に変わっていた。ブルーに輝く鎧に、リンさんが一瞬視線を向け、すぐにそらした。その一連の動きをルークが目ざとく見つけメモを取っている。まめな奴だ。仕事に対しても、もっとまめになればいいのにな。


 拡張されたフロアにはイートインスペースもできている。レナさんからの提案で、彼女に回復魔法をかけてもらえるスペースを作ることにした。これでアホな野郎どもが列をなすに違いないとほくそ笑む。


 店の外もすごいことになっていた。自販機が拡張され、“マジックポーション”の上位品が増えていた。バルドさんとラズ君が商品を見てため息を漏らす。


 店の前は普通の街道だったが、店先にドーンと噴水ができていて涼し気な水音が聞こえてくる。アルファ波出てるなこれ。そして周囲にはベンチとテーブルが増設され、リア充カップルどもがすでに自分たちの世界を築き上げていた。


 リア充どもを爆破するためベンチの下に爆薬を仕掛けようと思ったが、ダイナマイトは備品にも商品にもなかった。無念。


 店の横には荷馬車を停めるスペースができており、行商人なども利用しやすくなっていた。ラズ君が商売の規模を大きくできる可能性があるので、日持ちする消耗品などの仕入れを増やすべきと進言してくれた。ありがたや。


 さらにバックヤードも拡張されていた。商品を保管するスペースが広くなっていて、たくさんの在庫を確保できる。壁に増えていたドアを開くと休憩室ができていた。畳敷きで足を延ばして座れる。冬場はこたつを置いてもいいななどと現実逃避気味に考える。バックヤード側入り口と反対側にもドアがあり、その先は廊下になっていた。そこにはドアが並んでおり各スタッフの名前が書かれた表札がある。外観は変わっていないのに不思議なことだと思う。


 あと、突き当りに地下への階段があって、その先はシャワールームだった。


 ひとまず新設された棚に商品を並べる。新商品のカタログも出たので、バックヤードのプリンタで印刷し、スタッフに回覧させた。


 売れ筋の“やくそう”シリーズをグレードごとに並べる。目につきやすい中段にはまとめ買いでお得なパックを中心に、安価な低グレード品は低めの位置に、目線よりやや上には大き目のディスプレイとともに高単価の商品を設置する。


 高い位置に置いて商品を遠目からでも目立つようにするとお客を引き込みやすいのだ。


 うん、これバルドさんと二人じゃとても管理しきれなかったわ。


 いろいろと計算して商品を並べているとレナさんが寄ってきた。


「店長、ご相談が……」


「うん、どうしたんだい?」


「この商品なんですけど……」


 彼女の手にはカタログがあり、そこには精緻な彫刻が施された短杖(ワンド)が載っている。


「王都の彫金ギルドの新作なんですよ。法力の底上げ効果もすごいらしくて」


 カタログ欄外には、口コミにて「いいね!」が1000オーバーと記載がある。ファンタジー世界でも見慣れた現実があることにめまいがするが、ここはこらえる。


「わかった。注文しておくよ。仕入れ値がこれだから……従業員割引でこんな値段でどう?」


「わああああああああ、いいんですか??」


「うん、これから頑張ってねって意味の先行投資ってことで」


「ありがとうございます!!」


 そう言ってレナさんが飛びついてくる。ジャンプした瞬間二つのふくらみがたゆんっと揺れた。だが俺はその感触を堪能することなく、バルドさんのハイキックを受け意識を飛ばした。


「この不埒もの……」


 俺なんかしましたか?


 俺が目覚めるとコンビニ店内は戦場だった(あくまで比喩的表現)。


「店長、すみません! こっち替わってもらえますか?」


「わかった、ラズ君、引き継ぐよ」


「すみません、レナが魔力切れ起こしたらしくて」


 店内の「回復魔法かけますサービス」に予想をはるかに超えて人が殺到したらしい。


「それはいかん。この“マジックポーション”は経費で落とすから持って行ってあげて」


「ありがとうございます!」


 俺たちはレジ前の行列を捌いていく。


「はい、“やくそう”五個と“どくけしそう”三個ですね。860ゴールドです。ちょうどいただきまーす。ありがとうございましたー!」


「申し訳ありません、俺はお持ち帰りできないんです」


「誰もそんなこと聞いてない!」


 女性客に対するルークの世迷言にリンさんが素早くツッコミを入れ、沈める。フライングニールキックって生では初めて見たな。すげー。


「いらっしゃいませ、お客様、失礼いたしました」


 にっこりと微笑むリンさんだったが、お客様の顔は若干引きつっていた。たぶん気のせい。そう、気のせい。頬っぺたに返り血なんて飛んでませんよ?


 先ほどレナさんが見ていたカタログがイートインスペースに置きっぱなしになっていたようだ。カタログを見たお客様から質問を受ける。


「あの、これって注文できますか?」


「はい、少々お待ちください。えーっと、“ラピスラズリのミスリルワンド”ですね。1万3000ゴールドです。三日ほどで入荷の予定ですね」


 タブレットを操作して納期を確認する。ちなみにここは王都から行商人のペースでひと月ほどかかる場所らしい。王都の彫金ギルドの新作が三日で入手できると聞き、場がざわめいた。


「兄ちゃん、この“黒鉄(こくてつ)のバスタードソード”はどれくらいで届く?」


「はい、少しお待ちくださいね。明日納品可能ですね」


「なんだって!? スレッジ工房がある街はここから三か月はかかるんだぞ?」


「こちらの端末ではそうなってまして。もし納期が遅れたら違約金をお支払いしますよ」


「おっしゃ! わかった。3万ゴールドある。前金だ!」


「毎度ありがとうございます。お名前を……はい、ダルトン様ですね。確かに承りました。こちらご注文控えです」


「楽しみにしてるぞ!」


 このやり取りのあと武具の予約注文が殺到したのだった。バルドさんが打ち込みを手伝ってくれなかったら朝までかかりそうでした。


店舗ステータス

レベル:2

資金:112万ゴールド

売上:326万ゴールド

販売点数:5298点

来客数:2792人

QSCスコア:89 若干店内外の汚れあり、清掃を実施のこと

来店状況:冒険者中心の来客状況。リザードマン、コボルト族の来客が伸びています。


店長コメント:来客も増え、営業も軌道に乗ってきた感があります。お客様に合わせた品ぞろえを心掛け、より便利な店舗にするよう努力します。


――閑話 バルドさんの気持ち2


 私はバルド。コンビニで副店長を拝命した。


 改めて、このコンビニという店はすごい。商品は転送魔法で、かなりの遠隔地からも届いているようだ。


 ケイタ殿自身は自覚していないが、“やくそう”や“せいすい”などは王都の一流の商家の取り扱い品に引けを取らぬ。


 それと武具の修復について。まるで時間を巻き戻しているかのように新品同然となって戻ってくる。原理はわからぬが、ケイタ殿は考えたら負けだと意味不明なことを言っていた。


 しかし、あれだ。お客と接しているときの彼の笑顔に癒されている自分がいる。そして殿方というものはなんだ、女性の胸とかにすぐ目がいくものなのか?


 私も男っぽい格好をしているが、一応女には違いない。


 そのわりに私のことはそういう目で見てこない。これはどういうことか? ふと雑談になった折に女性客と話してみると、大切にされているのではないか? とのことだった。


 そういうぶしつけな視線を向けると嫌われるかもしれない。彼はそう考えているのかもしれない、との助言を受けた。そう考えると……いかん、顔が熱い。なんだろう、胸がきゅんとする。私は初めての感情を持て余しつつあった。


 以前、ちょっと高いところにある商品を補充しているとき、私はバランスを崩してしまった。するとたまたま隣にいたケイタ殿が身を挺して私をかばってくれたのだ。


「ケイタ殿、無様な姿を見せたが、仮にここから落ちたとしても私はかすり傷一つ負わぬぞ?」


「いや、そういう問題じゃないですよね? 万が一があったらどうするんですか!」


「う、うむ、助けてくれてありがとうなのじゃ……」


 その言葉を聞いて私に衝撃が走った。この人は私を本気で心配してくれている。そして本気で叱ってくれた。感謝の言葉を返したとき私はどんな表情をしていたのだろう?


 なぜかケイタ殿が顔を赤くして目をそらしてしまった。このことがきっかけで彼と少し距離が縮まったような気がした。


 そしてある日、ビキニアーマーの女戦士をいやらしい目で見ているところを目にした私は、思わず嫌みっぽい態度を取ってしまった。こんなことでは彼に嫌われてしまう。そう考えると身震いがするほどの恐れを感じる。


 いけない、感情の抑制が甘くなっている。しかし、彼はどうして私の心を揺さぶるのか?


 そういえば、店がレベルアップしていた。すごいことだ。ケイタ殿の商才は本物なのだと感じた。なぜかそのことが誇らしかった。

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