第2話 男女三人逃避行

化身獣との合流から30分。

一行はあれから10㎞ほど進み、開けた草原に到着していた。


「ちょうどいい原っぱだな。見晴らしもいい。…おいワーシャ」


そう言いながらダースは草原を見渡しながら、ワーシャに声をかけた。


「なによ」

「こいつのこと少し持っててくれ」

「ん?いいわよ」


そういうとワーシャはどこからか透明な触手を発生させ、少女を受け取った。

その異様な光景を見てもそのまま少女を渡したダースはスタスタと歩き出し、軽い傾斜のついた場所に自分の上着を敷いた。

それを見たワーシャは意地の悪い顔を浮かべた。


「あら。優しいのね」

「…ここに寝かせといてやれ。連絡の邪魔になる」


そのダースの言葉でワーシャの意地の悪い顔はより悪いものになった。


「そうよねぇ。邪魔になっちゃうものねぇ」


悪い笑みを浮かべながらも、少女をダースの上着の上に優しく寝かせたワーシャは、何かを思い付いたのか、その少女が休む隣に巨大な水の玉を作り出し、そこに横になった。


「…フン。おい化身獣、フィーに通信を繋げてくれ」


ダースが白い化身獣にそう言うと、化身獣は体から淡い光を出し始めた。

そして数瞬後、白い化身獣は目を見開くと突然話し始めた。


『…所属を』

「異世界群治安維持特殊部隊【エヴォル】、名を『雷鳴』という」

『…ご無事でしたか。ダースさん』


機械的な女性の声がそう確認をすると、声色は柔らかいものに変化した。


「なんとかな。そっちは?」

『私とブラックは問題なく。それとビーさんたちからは楽しくやっていると報告が来てますのであちらも首尾良くかと』

「やっぱりあの戦闘バカにはちょうどいい配役だったか。無事なら何よりだ」

『それでそちらは何が起こったんですか?ダースさんの力を一瞬強く感じましたが…』

「あぁそれなんだが」


ダースは化身獣にこれまで起こったことを順に説明した。


『なるほど、そんなことが…それではこの後は情報精査と状況整理のために一度召集をかけますか?』

「あぁ、俺もそのつもりで連絡をした。俺たちはこのままの足で街に向かう。だからフィーは」

『ビーさんたちに連絡を取って、召集の音頭をとりましょう』


フィーと呼んだ通信相手は、何を言われるかわかっていたかのようにダースの言葉を遮り、指示の理解を示した。


「頼んだ。連絡用にこの化身獣を戻してくれ。ブラックには俺から言っておく」

『それは…そうですね。お願いします。私からもブラックには言っておきますので』

「それじゃあこっちはそっちの開門と同時に入れるように動く。また後でな」


そのダースの一言を最後に化身獣が跡形もなく消え去り、辺りはまた夜闇に包まれた。


「おい、ワーシャ。休憩は終わりだ…何やってんだ?」


ダースがそう言いながらワーシャと少女のほうを振り返ると、ダースの真後ろに移動したワーシャがフーフーと鳴いている黒い化身獣を抱き上げ、ダースに突き出していた。


「ブラックの化身獣、あんたがフィーの化身獣を消しちゃったと思ってめちゃくちゃ怒ってるわよ」

「お前…主人に似て、心配性なんだな。安心しろ。フィーのところに戻ってもらっただけだよ」


ダースがそう言うと、黒い化身獣は理解したのか、フーフーと鳴くのは止めた。


「それとお前にフィーのところまでの案内を頼みたい」


その言葉を聞いた黒い化身獣は耳をユサユサして分かりやすいやる気を表した。

ダースはそれを確認すると寝かせていた少女を上着ごと抱き上げた。


「さて…夜の散歩を再開するか」

「これが夜逃げじゃなければ、もう少しロマンチックなんだけど。それじゃよろしくね」


ワーシャが黒い化身獣を放すと、化身獣は一度ダースたちのほうに一度振り向き、二人を確認したのか、その後すぐさま前を向き走り出した。

ダースとワーシャは目配せすると、また夜の森に向かって走り出した。

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