セブンス・セブンデイズ

なぽれおんEX

第1話 物語は突然に。

「あーもう!どうすんのよこれ!!」


満点の星が瞬く頃。

女の怒声が二つの駆け足とともに静かな夜の森に響いた。


「んなこと言っても仕方ねえだろ!こいつ見殺しにしろってのかよ!」


それに負けじと大声を張る男。

その男の腕の中では一人の女性が抱かれていた。

ぐったりとしてこそいないが、気を失っているのか、男に身を委ねている。


「そうは言ってないけど!彼女を見かけるなり城の外壁ぶち壊して無理矢理拉致するなんて他にやり方があったでしょ!」

「ぐぬぅ…」

「それにあいつらにも顔見られてるかもしれないし!もう本当に…」


そこまで女が言いかけると、その男女はほぼ同時に何かを察知し、駆けていた足を止めた。

そしてすぐさま木陰に身を潜める。

その動きには全く無駄を感じられないほどに。


「…追っ手だと思う?」

「…あの連中なら追い付かれる可能性もあり得るが…下っ端程度じゃ流石にないだろ」

「…それあいつらなら不味いってことじゃない?」


その一言が会話を止ませた。


「……」

「…なんか言いなさいよ」

「…出てくるぞ」


男は答えを反らすように、気配のする方向へ目線を向けたまま答えた。

女は呆れたように横目でチラリと男を見てから、続いて目を向けた。

そしてガサリと草むらから気配の正体が姿を現した。


「…あら?」

「…あいつらは」


草むらから出てきたのは犬のような狐のような見た目にリスを二回り大きくしたような大きさの二体の獣だった。

それぞれ白と黒を基調とした毛並みは夜闇に埋もれることなく、艶を感じるほど美しいものだった。

そしてその獣は男女のよく知る二体でもあった。


「フィーとブラックの化身獣だったな。俺達の異常に感ずいて送り出した感じか」


そう言いながら男女は隠れていた木陰から出て、化身獣たちと対峙した。


「そうね。流石にあの子達は仕事早いわ」

「…これなら一度開けた場所まで行って連絡を取ってみるか」


男女がこれからのことを話していると化身獣の二体が顔を見合わせ、突然男の腕の中に飛び込んだ。

とっさの出来事に男は静かに慌てた。


「なんだ急に!?じゃれるなら後にしろ!」

「?…ダース、ちょっと待って」


その言葉を物ともせずに二体は男の腕の中で気を失っている少女をじっと見つめた。

その二体の異変に気づいた女がダースと呼んだ男を制止する。

二体の化身獣は一度目配せすると、自らの鼻を少女のそれぞれの頬に押し当てた。


「こいつら…勝手に力を使ってる…?」

「そうみたい。こんなこと今まであったかしら」


力の流れを察知した男女がその光景を不思議がった。

数秒ほどするとその力の流れは収まり、異変が起こった。


「うぅ…あれ…?」

「気がついたか」

「この子達が気付けしてくれたみたいね。それにしても…」

「このことはあいつらに報告だな」


少女はまだ頭が追い付いていないのか、頭に疑問符を浮かべつつ理解しようとしていた。

パニックになり暴れなかったのは彼女の胸の上に可愛らしい小動物が鎮座していたからであろうか。


「とりあえずこいつに説明するのも後回しだな。ワーシャ、もう一回寝かせてくれ」

「今話しても理解しなさそうだし、それもそうね。お嬢ちゃん、ちょっとごめんなさい」

「え…え?」


ワーシャと呼ばれた女が少女の目を覆うように手のひらをかざした。

すると少女から力が抜け、寝息を立て始めた。


「…さすが毒婦。素晴らしい仕事ぶりだ」

「…溶かされたいの?」

「やれるもんなら」


嫌味な笑顔でそう言うダースに対して、凄味を感じる笑顔で返すワーシャだった。


「それはそうと開けた場所だが…化身獣、ここまで来るのに該当する場所はあったか?」


そうダースが聞くと化身獣の二体は少女から飛び降り、先導するように走り出した。


「さすがはあの二人の化身ってところか。用意がいい」

「他の子達は脳筋だからねぇ。追いましょ」


どちらともなく二匹を追いかけるように走り出した二人。

そして四つに増えた駆ける音が夜闇に溶け込み始めたのであった。

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