第12話二十八歳ー2
他部署に属していたときは分からなかったが、未沙は友人、恋人との時間を何よりも大事にする女性だ。
ともに出かける際は、己の労力を惜しまず正美が行きたいところへ車を運転する。
人の喜びを己の喜びとし、毎日を充実させている。
もちろん、未沙も一人の人間なので、誰にも言えない過去を持つかもしれない。正美には見えない欠点があるかもしれない。
それでも、正美にとって、彼女は憧れの一人だ。
決定打は、繋がりのある友人の多さ。彼女に魅力がある証拠だ。
内面に魅力のない人間と、誰が交流を深めたい、関わりたいと思うだろうか。ネズミ時代の正美のように。誰かに動かされている家畜ならば、なおさらのことだ。
正美は人間の心理に従い、己にないものを求める。そして未沙にないものを知られることをひどく恐れている。
下層のネズミ、ドブネズミであった過去を、地獄から這い上がった努力をも罵倒されるのではないか。
友人で会ったことを過去にし、それさえも掻き消そうとされるのではないか。
未沙の魅力を知るほど、正美は不安になった。
正美が思うほどの心配事ではないこと、不安はある程度残しておき必要以上に抱えるものではないことを、本人は二年かけて知ることになる。
それまで、未沙は正美にとって最も恐れる人間の一人だった。
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