第8話二十五歳ー1

 二十五歳の誕生日を迎えて一週間、正美は転職活動に焦りを感じていた。

 コンビニアルバイトを始めて一年、職場環境や人間関係、従業員の仕事に対する姿勢を熟知したからだ。

 月収七万円とはいえ、正美はかろうじて人間らしい毎日を送っている。それゆえに、人間特有の負の感情――憎しみ、怠惰、嫉妬、諦め――で己の心が染まるのではないかと、正美は危惧している。

 店長、マネージャー、先輩。どの立場に身を置いていても、彼らの声色、口調が明るくなることは、正美の記憶の中では一度もない。

 店長は自らの上司であるオーナーと意見が合わず、毎日出勤の度に部下が愚痴を聞く習慣がある。

マネージャーは店長の意見に賛同しながらも、職務をまっとうする姿勢が見られず、顔を合わせる度にオーナーから叱責される。そして部下である一般店員に愚痴をこぼす。

 正美の先輩にあたる一般店員は、低所得と上司間の意見のすれ違いを理由に、言われた業務のみを遂行し、顧客のニーズに応えようとしない。品切れが発生しても、取り寄せの案内をすることはまずない。勤務時間が過ぎれば帰宅の準備をする。己の頭で考えることもない。

 せっかく人間に生まれてきたのに。これでは野生の肉食動物の脳に劣るではないか。

 出勤の度に、正美は残念に思う。

 また、己の希望に適合した求人が見付からないと、深いため息をつく。

 このままでは店長やマネージャー、先輩店員のようにならなければならないのか。

 人間なのに、と。

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