第6話二十三歳ー5
翌日より週五日懸命に働き、売れ残りの弁当で飢えを凌いだ。
後に正社員として就職し、安定した収入を手に、より人間らしい生活を営むことになる。
けれどそれまでの二年間、正美は月換算の入浴回数を抑え、他者に怯えながら徒歩にて通勤した。
帰宅し部屋の照明を点けると、キッチンのテーブルが十五度ほど傾いた状態で正美を出迎えた。
寝室に入ると、監視カメラを思わせる物体のない代わりに、シーツが冷たくなったベッドが正美を眠りへと誘う。
本当に、正美の部屋には何もなくなった。心にも、大事にするべき存在が激減した。
今や正美には友人が一人もいない。己の未熟さゆえに、皆が正美の元を去った。
学生時代の思い出話をする相手も、もはや過去の住人だ。
友人がいることが当たり前のことではないということを、正美は二十三歳で知った。
使い捨てカイロでシーツと自身の背中を温めても、高ぶる温度を感じることがない。空気に触れる面積を減らそうと、布団の中で膝を抱え、足の指先を丸める。
これが寂しさというものか。正美は現実世界で途切れた言葉を、夢の中で最後まで言った。
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