第24節「我ら、街アカリの復興部!」

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「俺は、姉ちゃんと一緒にいたい」


 焔ははっきりと答えた。


 灯理は、焔の選択をしっかりと受け止めると。


「ナユちゃん。鍵を出して」

「あいよい」


 凛として告げた灯理の言葉を受け取ると、奈由歌がチェーンの部分をネックレスのように首にかけていた「輪」を服の下から取り出した。チェーンの先には、鍵がついている。


「隣の部屋に行くぞ」


 悠未が告げた。


 そう言えば、隣の部屋を使う時は「ある条件が整った時」だと以前悠未が言っていた。今が、その時だということなのだろうか。


 五人は隣の部屋の前まで移動すると、扉の前に各々の姿勢で佇んだ。


 同型の部屋が並んでいる仮設部室棟である。この部屋も、基本的な作りは他の部屋と同じはずだが。


 奈由歌がゆっくりと鍵を差し込み、ドアを開く。部屋の中の様子が、焔の視界にも入ってくる。


 かくして、復興部の部室から、壁一枚にだけ隔てられたその隣の部屋の中には。



――ブティックのショーウィンドウにディスプレイされているがごとく、中央に五着の「正装」が並んでいた。



 部屋の奥は、試着室のように薄いカーテンで仕切られている。窓からは月光が優しく射しこんでいて、「礼装」とでも呼称できそうな五着を照らしていた。


「俺たち『街アカリ』の『制服』だ」


 悠未が伝える。


「『街アカリ』として全員がマジで動く時だけ着るんだよねぇ」


 祈が説明を付け加える。


「焔君の分も、あるよ」


 いつの間に採寸をと思ったが、灯理の「右眼」はそんなことも可能らしい。


 悠未が自分の制服に手をかける。


 よく見ると、制服とはいっても五人でバラバラな部分もある。各々の制服は独立していて、でも一定の様式モードで繋がってもいる。


 女子二人もそれぞれの制服を手に取ってカーテンの向こうに入っていくと、悠未達は制服を装着し始めた。


 悠未はグレーのワイシャツに黒のスーツ。シングルの三つボタン。袖を一気に通すと、胸元を調整する。ノーネクタイで、彼の内側の野生が既にはみ出さんとしている感じ。ワイシャツも上のボタンを外してはだけさせている。


 祈は基本的に悠未と同じものだが、こちらはジャケットは二つボタンで、几帳面にネクタイをつけてびしっと決める。長身も相成って、「タイトさ」と「重量感」が揃った英国紳士の佇まい。肩から袖にかけて、吸いつくがごとき細身のシルエットが浮かび上がる。


 カーテンの向こうからは、女子達の絹と肌が擦れ合う音が聴こえてくる。


 女子の制服はジャケットの形と色は同じだが、スカートはプリーツだけど灯理がクラシック、奈由歌がパンクでミニだ。


 灯理は豊満な胸が自らちょっとキツいなって主張してるのを、覆う感じでワイシャツを身に着けると、キリッと慣れた手つきで黒いネクタイをしめる。優美に。それでいて艶めかしい感じでジャケットに袖を通して。そして一連の動作のまとめに、ジャケットのポケットから藤色のリボンを取り出すと、セミロングに流していた黒髪をポニーテールにくくり上げた。


 一方、奈由歌は胸元は真紅のリボンだ。奈由歌は上半身を決めると、スカートの下に何も付けていない状態から、黒のガーターベルト、二―ハイソックスの順に装着し。最後にエロティックな動作で紺のショーツを履いた。


 最後に焔は、基本的には悠未と祈と同じ様式の制服であったが。


(俺は、蝶ネクタイかよ)


 祈が英国紳士なら、焔は放浪ほうろう紳士って感じだ。一つ一つを丁寧に身につけながら。


(イイね、この滑稽な感じ。俺に、うってつけだぜ)


 あえて形容するなら、チャールズ・チャップリンの映画に出てくるみたいな。


 何なら、山高帽くらいかぶってもイイぜ。


 いっちょ笑かしてやるさ。なにしろオレは、スマイルを取り戻しに行くんだからな。


 制服を装着し終えると、「街アカリ」五人は仮設部室棟の外へと出てきた。


 星明りの下、学校という思春期の若者達が過ごす場所の中では、彼・彼女達の精神性は、一般の学生達とは少し「ズレ」ていた。


 彼・彼女らの纏う制服には、何ら受け継がれてきた類の正統性はなく、その点で、彼・彼女ら自身が、「アカリ」と言っても原初の光から模造された「偽物」めいている。


 それでも、照らされる側だけの安寧から半分だけ、自分達が照らす側でもあるのだとはみ出した彼・彼女らは、自分達を『街アカリ』と名乗るのだ。


 月光に照らし出された五人。共有している大事な気持ちは一つだった。


 我ら、街アカリの復興部!


 「一人目」の悠未が、全員の気持ちと言葉を引き受けて、宣言した。


「さあ、行こうか。この瞳に映る大事な人一人の日常を守れたなら、俺たちにはあの日から生き残った意味があるはずだからな」


 彼・彼女達は自分達なりの戦場に向かい始めた。


 戻り始めた消費に興じる街の中を、縫うように。


 街に溢れる光を大事なものだと慈しみながら。未だ戻らない小さな光を気にかけて、大事な一人の人間の心のともしびを取り戻さんと歩いて行く。


 誰に気づかれなくても、認められなくてもイイのだ。


 何故なら。


――彼・彼女達は、気づかれず人々を照らす「街アカリ」の側だから。

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