エピローグ

 ピピピ……。と目覚ましの音が鳴るのを止める。

「有栖ー。早く起きなさーい。あなたの新妻のご飯ができたてホヤホヤですよーっと」

 何かにつけて新妻新妻言うんじゃねえ。

 大体、俺は宣言したものの、まだ婚姻届にハンコついたわけでも何でもない。

 というかそもそも精霊相手にそんな書類は存在しない。

「そりゃまあ……感謝はしてるが」

 呟きながら起きて制服に着替える。

 髪がちょっとはねてるな。後で直そう。

「ねぼすけ有栖ー。ご飯冷めちゃうよー」

「はいはい、すぐ行くよ」

 階段を下りながら返事する。

 そしてリビングにたどり着くと、そこには十六夜の分と俺の分の朝食が並んでいる。

 栄養バランスを考えないとってことで、朝はパンではなく、ちゃんとご飯を炊いてくれるのが十六夜のいいところだ。

 ──とまあ、ここまでは普通なのだ。なのだが。

「おはようございます、有栖様。今日もいいお天気ですわね」

「おはよう、有栖くん。あ、寝癖ついてるよ?」

「おはよう、木寺くん。良い朝ね。せっかくのこんな天気のいい朝だもの、もっと広いお屋敷で過ごしたいとは思わない?」

 やっぱりいた。三人とも。

「ちょ、ちょっと待ちなさいあなた! 先週抜け駆けはしないと約束したばかりではないですか!」

「あら。私はただ質問しただけですよー。ねえ、木寺くん」

「いやぁ、十六夜ちゃんの作るご飯は美味しいなぁ」

 お嬢様達二人がちゃっかりリビングの椅子に座り、それぞれ自分で持って来た朝食を食べていた。また、純先輩は十六夜の作るご飯の味に魅了されてしまい、ご飯目当てで毎朝うちに来ている。

 ……頼むから自分の家で食べてくれ。

「今日からまた一週間が始まるのか……」

 精霊王とのバトルから一ヶ月。

 冬休みが終わってから平日毎朝この三人は俺の家で朝食を摂っている。

 それだけではなく、学校でも逐一争い合って俺に絡んでくるから困ったものだ。

 先週はテストの答案用紙に名前を書き忘れていると言われて書いたらそれが婚姻届だったり、家に結婚式場から頼んだ覚えのない式の内容について確認の電話がかかってきたりと散々だった。

「まあまあ。二人も悪気はないんだし。いいんじゃない? モテモテ有栖くん」

 不思議と十六夜はご機嫌である。

 いいのかよ。蘭の方はともかく、早帆ちゃんの方は何か間違いがあっても知らねえぞ、俺。

「さすがは正妻。小娘とは懐の深さが違いますわね」

「いやぁ、もうこのお味噌汁の味が最っ高で」

「でも木寺くんは絶対私の方が好き。だって体型でハッキリ序列がついてるもの」

「だ、誰がぺったんこおねえさんか!!」

 お前実は気に入ってるだろそのフレーズ。

「ああもう……憂鬱だ」

 俺の名前は木寺有栖。ごく普通の男子高校生は、ごく普通の生活をし、ごく普通に学校に通っていました。でも、ただひとつ──ではなく、三つも四つも違ってきてしまってそろそろ収拾がつかなくなってきましたね、はい。

 何はともあれ、実は俺、今も元気に魔導士やってます。愉快でちょっとはた迷惑。だけど何よりも大事な仲間達と一緒に。

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月曜日の憂鬱1 矢島好喜 @kaito_blackcat

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