第10話 助けてマリオ! 囚われの姫は塔のてっぺんにいるって言うけど、これ明らかに地下ですよね?


「あー…… ズキズキする。」


 2本中1本が切れかけた蛍光灯。

 何十秒かに一度、チカチカと、四面をコンクリートの壁で仕切られた、畳4枚分ほどの狭い部屋を照らす。

 俺は、鈍器で殴られデカいたんこぶが出来た頭を、後ろの冷たい壁にくっつけて冷やしていた。


 どうやらこの部屋は、部屋というよりは、何かの地下施設の床に掘られた窪みのような場所らしい。

 高さ3メートル程の壁が四方を囲んでいるが、天井はさらに高いところにあった。

 天井からは頼りない明かりをくれる蛍光灯と、いくつもの配管パイプがぶら下がっていた。


「おーい。」


 呼んでみても返事はない。

 声の反響音から察するに、この窪みのような縦穴の外は、一回りから二回りほど広い空間になっているようだった。

 んでこの窪みは何の用途だ?と、さらに周囲を観察してみる。

 目を凝らして足元を見ると、何かデカい物が置いてあったらしい跡が、汚れのせいで黒く残っている。

 機械か何かを設置するために掘り下げられた、土台のような場所らしかった。


 たぶん、どっかの地下だよねー……

 どこかの建物の地下施設らしいことは想像できた。

 映画とかドラマではよく観るし、こういうシチュエーション。


 どうやら、攫われて素敵な塔に閉じ込められるのは、綺麗で可愛いお姫様限定のようだ。

 薄汚れた固い地面でケツも痛い。


 頭を殴られて気絶したのは初めてだった。

 人間って、本当に気絶なんかするもんなんだなぁ。

 目が覚めた時に、まず心配したのはちゃんと服を着てるかどうかということ。

 ちゃんと着てたら良かったんだけど……


「ヘー……ックション!!」


 この通り。

 実はさっきからパンイチなのである。

 脱がす意味。

 そう考えると、想像したくもないあらゆる可能性が脳裏に浮かんだ。

 いやだー!と頭を抱える。

 やっぱり相手は変態さん?

 だっていきなり夜道でボコられて → 目が覚めると地下室の穴ぐらにいて → 下着姿。

 100%ひゃくぱーじゃん!! 「羊たちの○黙」じゃん!!

 俺狙ってる時点で、どう考えたって金銭目的じゃないのは明らかだし。

 こんなことするのは、まともな精神の奴じゃないはずだと思った。


「これでアンソニー・ホプキ○スが出て来たら確定だな……」


 レク○ー博士ばりのサイコ紳士が、今にも奥のドアから入ってきそうな気がしてゾッとする。

 カニバリサイコ野郎に切り刻まれて発見されたら……

 桃さん泣くだろうなー……

 そんなどうしようもないことばかりが、頭をよぎった。

 まぁとりあえず、アレは確定だな。


「誘拐ってやつ……」


 どうオマケして考えても、友達のサプライズパーティにご招待されたわけではなかろう。

 わかりやすく誘拐。

 あ、金目当てじゃないなら、拉致監禁かな。

 前者なら『鬼の湯』に身代金要求の連絡が入って、次郎やヒナも俺を探し出すチャンスくらい見つけてくれるかもしれないけど、後者なら絶望的。

 どうしたもんか。と俺は不思議と募る恐怖心より先に、途方にくれていた。


 カシャン…


 身動きする度に鎖が擦れる音がする。

 ため息をつきながら、刺すような冷たさの鎖を見下ろす。

 何もないコンクリートの地面に、無造作に打ち込まれた四角く分厚い鉄板。

 パンケーキくらいありそうな厚みの真新しい鉄の板には、同じ素材の輪っかが付いている。

 輪からは太い鎖が1.5メートル程の長さで延びていて、その先は俺の首に繋がっていた。

 ズシリと重い鉄の首輪。

 両手は結束バンドで前身に縛られてる。

 足は自由だった。

 立ち上がるのには不自由しないけど、首に繋がれた鎖はこの縦穴から出るには短い。


 鉄の首輪て、悪趣味過ぎんだろ。


「俺が金属アレルギーだったらどうするんだ。今頃、首ただれまくってんぞ。」


 誰もいない地下に、虚しいツッコミが響く。


「もう、気づいたかな。俺がいないこと……」


 スマホは取り上げられたか、どこかに捨てられてしまったらしい。

 時間の経過もわからなかった。

 数時間なのか、ひょっとしたら何日も過ぎてしまってるのか。

 もう俺の行方の手がかりは、掴めているんだろうか……


「次郎……」


 たまらず漏れた声が、コンクリートの壁に反響する。

 思いのほかはっきりと聴こえた自分の声にびっくりして、じわりと顔が熱くなった。


 なにあいつの名前呼んじゃってんだ恥ずかしっ


「あーーっ もーーっ」


 くっそ!!

 ってかもう絶対助けに来いよ!! お前!!


 普段働かない分今働け!! と叫んだ後、俺は雄叫びを上げながら激しく手を動かし始めた。

 床に打ち付けられた鉄板の角に、プラスチックの結束バンドを擦り付ける。


「だいたいヴァンパイアだってんなら、証明すんのは今だろ今! チュッチュ、チュッチュと人の唇ばっか奪いやがって! そのくせ簡単に変態なんかに攫わせてんじゃねぇってんだ!」


 ぜってー逃げ出してやる……!!


「自力で逃げ切ったら、あの余裕づら見下ろして鼻で笑ってやるからな!」


 きっと今頃ヒナも一緒になって探してくれてる。

 手がかりがなかったとしても、絶対見つけてくれる。



「それが嫌なら助けに来いよ! 馬鹿ヴァンパイア!!」





 ―― 信じてるからな!






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