第5話有栖川 きなこ(生徒会長は登校中)

私の名前は有栖川きなこ。

私立あらら高校1年生にして生徒会長だ。

『入学試験でオール満点を取り入学した場合

否応なく生徒会長をやらなくてはならない』

入学式の当日初めてそのことを聞かされた私は、

前生徒会長から引き継ぐと同時に逃走し、

1週間ひきこもった後の、私の初登校日の朝をむかえている、のだが…


「今朝はなんだか外が騒がしいですね」

パトカーや救急車のサイレンが引っ切りなしに鳴り響き、ヘリコプターのプロペラ音で、かなりの低空を何十台と、飛んでいるのが分かる。

閑静な住宅が建ち並ぶこの一画に

日頃聞こえることのない、ご近所同士のおおきな

会話が響いている。


「ねえさま、テレビに飛龍が出ています」

玄関でブラウンのペニー・ローファー【甲にペニー硬貨を挟んでいた事が由来(諸説あり)】に足を通し、食パンをくわえていた私のブレザーの裾を握ってきたのは、

創立記念日で学校が休みの妹『ここあ・小学3年生』

「そうですか。ですが、今私は『伝説の食パン少女』を検証するために忙しく、アニメの話をしている暇はないのです。また今度でお願いしますね、ここあ」

「わかりました、ねえさま」

そう言うと、襟と裾にフリルの付いた寝間着のここあは、お気に入りのうさぎのぬいぐるみを引きずりながらリビングへ戻っていった。


さあ、今日は私の翼をなぶり、いたぶり、考えられるすべてのことで卑しめてきた【きなこの誇大妄想発生中】

生徒会副会長『阿佐ヶ谷きらら2年生』に対する雪辱を遂げる記念すべき日なのです。

「会長職を拒否し、引きこもり生活を送っていた同じ人とは思えない積極的かつ能動的な発言です」


副会長の屈服した姿を想像しニヤニヤしながら玄関のドアを開けると、目の前には特殊部隊SAT『Special Assault Team』が今にも突入しようかと回りに待機している者達に手で合図を送っている。


その最中に出くわしてしまい、私に気づくと「あっ」、と声をあげた。

気を許したわけでは無いであろうが、突如真っ正面に捕らえるべき対象者が現れたらさすがに屈強で訓練された者でさえ間が抜けた声を出すのだなと思いながらそーっとドアを閉めようとした、が…

『ガッツ』っと、黒くて分厚いタクティカルブーツとタクティカルグローブがドアの間にねじ込まれると同時に『バンッ』っと、ドアを開けられる。

プライマリーウェポンの機関拳銃H&K MP5

を構えながらSATが突入してきたが、それより早く妹のここあが私を抱え、姿を透明化し次元の壁に消し去った。


ここあは魔法が使える。生まれるとすぐに白き魔導師のサミエス・エルフォーネに預けられ彼女の元に7年の間身を寄せていたからだ。

敵対する黒き魔道者である父の力を受け継いだ私を

監視するために妹がこちらの世界へ戻って来たのは2ヶ月前。

だから余り妹の事がよく分かっていない。


「ここまで離れればもう大丈夫」

次元の壁を破り世界を行き来している者達の道を通り逃げることが出来た私たちは眼下に人を認識出来ないほどの空高い場所にいた。

「ふーっ、何で日本の特殊部隊のSATが私の家に来るのでしょうか。まさか人に正体がばれたとは思えませんが…、

しかし、この国の軍事力を調査するように命じられている私には、良い物を見ることができました。オタクの私には嬉しい限りです。ねっ、ここあ」、と私を背中から抱えて飛んでいる妹のここあに肩越しに話しかけた。

「よかったです。ねえさまが無事で」

「ありがとう。後は自分で」、と私が言うとここあは、私を支えている腕を離した。

『ファサァ』


人の世界では体の中で時を刻むその両翼は

『白き魔女』の系譜で偉大な魔導師サミエス・エルフォーネの娘ミシュリア・エルフォーネの眩い銀白の翼と、

『黒き魔道者』の住まう国、闇は混沌を生み出し支配する黒き翼を持つ一族その長ゴルドラ・アルナトスの息子クタラク・アルナトスの純黒の翼

私はその父と母の片翼ずつを戴いた存在してはならなない者

[Must not be present『マスントプレゼ』]だ                  


「久しぶりの空は気持ちいいです」

先ほどの喧騒は恐ろしいほどの静かな蒼い空の中に飲み込まれている。

暖かい日差しを浴び寝そべりながらその暖かい太陽に手を伸ばすとあと少しで届きそう…


髪は軽く後ろで縛っていたのだがほどけてしまい、今では静かな春の風にそよいでいる。

気持ち良くて眠ってしまいそう。

しばらくこの誰もいない静かな空間を妹のここあと味わっていたかったのだが何やら、ここあがあたふたしながらこちらを見ている。

「ねえさま、あそこのビルのモニターにねえさまが映っています」

ここあが指さした方角を見てみたのだが私には遠すぎて街のビルが小さく見えているだけで何も見ることが出来ないでいた。

「少し降りてみましょう」そう言うと、私が映っていると言うビルに向かって一気に下降する。モニターに映し出されている私の姿が徐々に捕らえることが出来、ほとんどの肌が露出しているその妖艶な姿の私が何やら演説をしているのがはっきりと分かった。

「なっ、何ですか、これは」

『ぼんきゅんぼん』の私の顔をしたおねえさんが飛龍の体に突き刺さった大剣から伸びる鎖を握りしめながら甲高い声で笑っている。

「ねえさま、えっちです」

私をちらちらと見ながらここあは頬を赤らめ組まれている手をもじもじさせてモニター越しの私と見比べてくる。

「あ、あんなにいやらしくは無いです。私は」

と言いながら、自分の残念な胸をここあに誇張した。

実に残念な行動で自分を証明するために…


何度も切り裂かれたのだろう血まみれの飛龍が吠えている姿が大きく映し出されている姿とアナウンサーが大きな声で何かを叫んでいる姿が映し出され直ぐにそれは緊急放送に切り替わった。そして、いきなり大きな赤い文字が画面いっぱいに映し出された。


『米国原潜 SLBMを日本に向け発射!』



次回は、有栖川きなこ弁当を忘れる

です。

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職ですか?…人を、人になりたいです。 しろだん @sakuwa

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