第4話 乙女さんとは発展途中『光海 明日斗(こうみ あすと)』

僕の名前は光海 明日斗(こうみ あすと)

私立あらら高校2年生です。


この学校では、生徒会は議した課題を自由に採択し

それを実行出来る自主権が与えられている。

それ故、生徒会役員は『清廉潔白』晴天白日の身となることを求められる。

前生徒会長『神代 託(かみしろ たくす)』先輩先導の元、色々な学校改革が行われたが、

そのうちの一つ『朝食は生き抜く源』をスローガンに、朝6時半から8時までの間、学校で自由に食事が出来るようになったことは嬉しい限りです。

先輩曰く、朝ご飯を食べると午前中の授業に集中することが出来るとのこと。

朝食を学校で食べることを楽しみにしている生徒が徐々に増えていく中、

今度は夕食も食べる事が出来るようにと画策しているみたいだった。

僕は今朝の朝食『麦飯と春の山菜彩り朝限定定食』を楽しみに7時には学校の門をくぐった。

この学校の校舎は旧校舎と新校舎(A~F棟)にわけられ、学生食堂はA棟の5階、C,F棟の1階にそれぞれあり、僕のクラスがあるA棟の方へと向かおうとしていると、今通ってきた正門の方から警備員さんが女の子に大きな声で叫びながら手を振っているところだった。

「あっ!あの娘は」

たまにA棟の学食で見かける三つ編みおさげで、眼鏡の女の子だ。目を輝かせながら、あれやこれやと、いろいろなメニューをテーブルに並べ、美味しそうに食事をするのがとても印象深くて覚えている。

「警備員さんと仲がよさそうだなー」、と二人を眺めていると、

女の子がクルッとこちらを向いて早歩きで近づいてくる。それが走り出し、やがて思いっ切り地面を踏み込んだ。

「たくすおにいちゃーん」

そう叫ぶと彼女の両足は地を離れ、凄い勢いで僕の方へ飛んで来る。

「だめだ、受け止めきれない」

このままだと二人とも怪我をしてしまう。


胸の奥の灯火は囁きはじめ、やがて胎動を始める。

(契約により我が枢要 そなたに示そう)

『ヴォン』と低い振動が身体を駆け抜けると、

妖精王オベロンの意識が明日斗を支配した。

「風よ我が名を憶え錬磨し 力を錬成せよ」 

そう言い終えると、風の渦が彼女との間に現れ勢いを弱め、浮いている足下を包み込みながら優しく地に下ろす。

それを見据えると、意識は明日斗に戻った。

「ふっー。ありがとう、ミルク」

今助けてくれたのが制服のポケットに収まっていて、美しい顔立ちと姿をしている妖精王オベロン。

普段の呼び名は『ミルク』。

契約で力を借りる代わりに『ミルクキャンディ−』をあげる事になっている。

そこからつけた、あざなだ。本人はとても気に入っているらしく、『見るクルミ…ふふぉふぉふぉ』とたいそうご満悦のご様子なので、安心した。


『ミルク』に感謝を述べると、僕の胸に抱かれて『ポカン』としている彼女に言葉をかけた。

「大丈夫。怪我は無いと思うけど…もうあんなに危ないことをしちゃだめだよ」

「あれ?おにいちゃんじゃ、ない?!」

声の違いに気づいた彼女は、視力が悪いのか目を細めながら顔を近づけてくる。その三つ編みの髪はいつの間にかほどけてしまい、長い髪が朝日に照らされ美しく輝きながら、そよそよとおよいでいた。

それはそれで彼女の美しさを間近に感じることが出来て心楽しいの、だが、しかし…


彼女の可愛らしいつぼみの唇が今、何かを言っているのだが、それを聴き取る事が出来ない。

なぜなら、

む、胸が、彼女の、胸が…

『むにゅ』っと、僕に押しつけられているのに気づいたからだ!

「あのーだれですか?」

屈託無い顔つきで質問してくる彼女と、焦りまくっている僕との差…それは、

すみませんでしたー。

彼女いない歴=実年齢です。

心に涙を流していると、更なる試練が襲う。

彼女の見た目以上の大きな二つの柔らかいそれがさらに押しつけられてきた。

恥ずかしさに耐えられなくなった僕は、

「あっ…、あの、す、すこし、離れてもらってもいいですか」、と頭から湯気でも出ているんじゃないかと思うぐらいの瀕死の状態でそう言うと、彼女の肩を優しく押し返した。

「ごめん、間違えちゃったね」と言いながら後ろに後ずさりしながらキョロキョロと、何かを探しているみたいだった。

「ぼ、僕の方こそごめんなさい」と別に謝る必要はないのだが、彼女につられて応えてしまった。

「あの、眼鏡がこの辺に落ちてないかな」

こんなに僕がドキドキしてるのに、何事も無かったように眼鏡を探している彼女の頭の上にはそれが乗っている。

まるで、アニメみたいなこの状況がいつもの僕を取り戻させた。

「ふっ…っ。こっ、こにありますよ」

笑い出しそうになるのを押さえながら、頭の上に乗っているフレームが下部のみの『ハーフリム』の赤い眼鏡を、そっと彼女に掛けてあげた。

「ありがとうー」という彼女の満面の笑みがさっきとは違う鼓動の速さを加速させた。

「私は乙女、竜宮京 乙女(りゅうぐうきょう おとめ)だよ」

「あなたの名前は…」

「僕は、光海 明日斗(こうみ あすと)2年生です」

「あっ、じゃあ、お姉ちゃんと一緒だ!」

「名前は竜宮京 姫乃(りゅうぐうきょう ひめの)ここで副会長をしてるんだって。知ってるでしょう」

副会長の名前を聞いたとき「あれっ?」っておもったけれど、彼女が突然に手を握ってきたのでその事は、どこかへ吹っ飛んでしまった。

「あっ、あのあのの、どどど、どうしたしたんですか」

「ここの朝食、美味しんだよ。一緒に食べにいこう『あすとくん』 」

あすとくん あすとくん あすと………………

『ぷしゅーぅー』

今絶対に頭から湯気が出ていると思う。

女子に免疫の無い僕に名前を呼びかけるなんて、か、勘違いしても仕方の無いことですよね、ね。

「竜宮京 乙女(りゅうぐうきょう おとめ)さん、あ、あの、あなたのことを一目惚れして…」

「早く〜。今朝の朝食『麦飯と春の山菜彩り朝限定定食』は限定30食なんだから、急がないとなくなっちゃうよ〜急いで、あすとくん」

「…」

「…はい、分かりました。僕もそれを楽しみに早起きしたんです。絶対にいただきますよ。急ぎましょう…」

「お…乙女さん」

「うん!」


『今はこれでよし』、としておきます。

でも、いつか、きっと…


【次回予告】

入学式以来姿を見ていない新生徒会長 有栖川きなこが、学校内を暴れ回り破壊し自衛隊から攻撃される…僕の振りをして予告するのはやめて下さい。

前生徒会長『神代 託(かみしろ たくす)』先輩


次回は、

引きこもっていた生徒会長が登校してきたときの話です。

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