博士の危機なのです!
はぁ...
最近体が重くて飛ぶのが疲れるのです...
「博士、少し見てもらいたいものがあるのですが」
「あ、あぁ助手、今行くのです」
立ち上がるのも...疲れるのです...
「...博士?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫なのです!」
なんだか気持ちまで重くなってきたのです...
一体何が起きているのですか...
「博士、少し顔色が悪いような気がしますが」
「そんなことないのです!さっさと案内するのです!」
あぁ、頭まで回らなくなってきたのです...
これは重症なので...
パタン
「...博士?」
───────────────────────
「もうすぐ図書館だね!」
「そうだね、久しぶりだから博士さん達も驚くんじゃないかな?」
「たのしそー!」
ボクはかばん。
つい最近このキョウシュウエリアまで帰ってきたところ。
久々に会うみんなの顔は、どれも明るく、素敵だった。
博士さん達も、普段見せないような顔をするのかな。
「あ、見えてきたよ!」
サーバルちゃんが指さす方には、大きなりんごをかじったような、懐かしい建物が見えてきた。
あそこにはこの島の長を名乗る2人が住んでいた。
初めて来た時はカレーをご馳走したっけ。
やっぱり昔のことを思い出すなぁ。
「あれ、博士さん達が見当たらないね」
「ほんとだ〜」
確かあの二人はよく図書館の陽の当たるところで本を読んでいた。
特に昼間は必ずと言っていいほどあそこにいたはずなのに...
「何か...嫌な予感する...」
まさかね。
他のフレンズはみんな居たんだ。
大丈夫だよね...
「図書館にツイタヨ」
「わたし探してくる!」
バスが停車した途端、サーバルちゃんはそう言うと、バスを飛び降りて図書館の中に入っていった。
そしてしばらくすると、暗い面持ちで帰ってきた。
「あの...かばんちゃん...」
「どうしたの?」
ボクは寒気を覚えた。
どうしようもなく嫌な予感がする。
「助手がかばんちゃんを呼んできてって...」
ほら、大丈夫。
助手さんが居るってことは博士もいるってことだ。
心配しなくていい。
誰もいなくならない...
「うん、わかった、行こう」
ボクはバスを降り、サーバルちゃんの後に続いてに図書館に入っていった。
やはり寒い。
こんなに晴れているのに。
「こっちだよ」
前に来た時は入らなかった重そうな木の扉。
サーバルちゃんはそれを開け、中から手招きしている。
恐る恐る中に入る。
するとそこには、助手さんと、透き通るような真っ白い翼を持った小さなフクロウが居たがいた。
「え...?」
理解が追いつかない。
「かばん...」
助手さんは目の輝きがなくなり、サーバルちゃんよりなお暗い空気を醸し出している。
その空気は周りを暗く、冷たくさせてゆく。
「あの...博士さんはどこにいるんですか...?」
信じたくない。
きっと出かけているだけのはず。
そう、きっとカフェに用事があったりするんだ。
そうに決まっている。
「...」
助手さんは静かに、そしてゆっくりと首を振った。
それが何を示しているのか。
ボクはすぐに分かった。
ボクの嫌な予感が当たった。
でも信じたくなかった。
「うそ...ですよね...?」
あれほど元気だった博士。
手に余る駄々っ子。
そんな彼女が。
「かばんちゃん...」
サーバルちゃんはボクの手を握った。
優しく、諭すかの如く握った。
もう博士はいないんだよ。
もうあのわがままは聞けないんだよ。
そんな声が聞こえてきた気がした。
信じたくない。
信じていいはずがない。
ボクは考えに考え、助手さんに尋ねた。
「戻す方法は...あるんですよね...?」
あらためて助手さんを見る。
厚いコートを羽織っているにも関わらず、痩せてしまっているのが分かるほど痩せている。
きっと博士さんが動物になってから何も食べていないのだろう。
「あれば...苦労しませんよ...」
その声には様々な感情が込められていた。
悔しさ、悲しさ、苦しさ。
あらゆる負の感情が詰まっているように聞こえた。
「そう...ですか...」
その時ボクは気づいた。
自分の愚かさを嘆いた。
助手さんは涙を流しながら、もう自我を失った1羽のフクロウを撫でている。
ボクなんかより何億倍も悲しいに決まっている。
なのにボクは...
「かばんちゃん...探そうよ...」
涙があふれる。
友達を失った悲しみ。
それはボクや助手さんだけじゃない。
サーバルちゃんも、泣いていた。
「うん...」
ボクはサーバルちゃんの手を握り返した。
そして、もう片方の手で博士を撫でた。
ふわふわとしていて、とても可愛らしかった。
「博士が...」
不意に助手さんは口を開いた。
「博士が獣の姿に戻ってしまったのは...他ならぬ私のせいなのです...何も出来なかったのです...」
涙を拭いては零す。
また拭いては零す。
それでも拭われないこの悲しみ。
「助手さんのせいじゃありませんよ...」
これは仕方の無いこと。
そう割り切ることが出来たらどれほど楽か。
ボクは決心した。
必ずまた長2人を笑顔にさせてみせると。
「いこ、サーバルちゃん...」
ボクはサーバルちゃんの手を引き、元来た道を引き返して行く。
バスに乗り、出発しようとした。
すると...
「パーク内ノサンドスター濃度ガ急上昇。サンドスター山噴火寸前」
「ラ、ラッキーさん?」
突然警報音とともにラッキーさんが喋った。
「直チニ屋内ヘ避難シテクダサイ」
これではバスは発車できないので、仕方なしに助手さんのところに戻った。
暖かいそよ風が吹き込むその部屋で、1人と1匹は居た。
助手さんは泣き疲れて寝てしまったみたいだ。
博士はそのすぐ側に寄り添っている。
「ねぇかばんちゃん」
「ん?」
「博士、覚えてるんじゃないかな?」
言われてみればそうだ。
博士さんはフクロウ。
そして助手さんはミミズク。
食う食われるの関係。
普通なら逃げるだろう。
でも博士は逃げないし、むしろ寄り添っている。
そうやって考えていると、不意に博士は飛び去った。
「博士!!」
サーバルちゃんが叫ぶが、窓から外へ飛んでいってしまった。
あっという間の出来事に、放心するボクとサーバルちゃん。
「博士が...」
噴火が始まったようだ。
その揺れで、助手さんは飛び起きた。
「なんですかこの揺れは。それより博士...」
助手さんは部屋の中を見回す。
だがあの美しいフクロウは見つからない。
「博士...」
「なんですか?」
不意に声がした。
部屋の外から。
窓の外。
見るとそこには、美しく輝く白い翼を携えた、あのわがままを言い、ボク達を困らせた博士さんが飛んでいた。
「博士!?何故記憶を失っていないのですか!?」
助手さんはサンドスターの噴火から、アフリカオオコノハズクのフレンズ化が起こるだろうと予測していた。
しかし記憶は戻らない。
そう思っていた。
「単純明快なのです!我々フレンズは体内のサンドスターが一定数を下回ると動物に戻ってしまうのです。ただ、かなり低い数値にならなければフレンズのままなのです」
博士さんは説明しているが、頭に入ってこない。
とにかく戻った。
それでいい。
「はかせー!!!」
サーバルちゃんは嬉しさのあまり、窓の外に身を放り投げた。
博士さんはそれを避け、サーバルちゃんは2階の高さから落っこちて行った。
「説明の途中なのです!」
「サーバルちゃん!?」
「サーバルなら大丈夫なのですよ」
助手さんは嬉し涙を流しながら飛びたち、博士さんに抱きついた。
博士さんはサーバルちゃんの時のように避ける...わけもなく、助手さんに抱きつかれた。
「よかったですね、戻れて」
「えぇ、全くその通りなのです」
博士さんは助手さんに頬ずりされながらも、笑顔で応えた。
「ただ、私の獣化の原因はかばん、お前なのです!」
「ぼ、ボクですか!?」
───────────────────────
噴火がおさまり、天気も快晴のまま。
もう夕暮れ時だから、このままここで夜ご飯を作ろう。
前のようにカレーを作り、サーバルちゃんと一緒に外のテーブルまで運んだ。
2人もまた前のように、服を汚しながらたらふく食べた。
博士さんが動物に戻ってしまったのは、単なる栄養失調だったらしい。
助手さんの話によると、カレーを食べた次の日から、一切じゃぱりまんに手をつけなかったという。
博士はこのことにしばらく気づかなかったが、動物になった時、誰かの声でそう言われたと言っている。
「あなたは何も食べなかったから今ここにいるのよ...」
そんな声が聞こえたらしい。
嘘か本当かは分からないけれど、ボクは別にどちらでもいい。
博士が無事で、本当によかったと心から思える。
そんなこんなで次の日、図書館を後にしたボクらは、次のちほーに向かった。
大変だったけれど、これも思い出。
次のちほーではどんな思い出ができるかな。
心を弾ませながら、サーバルちゃんと語らい、バスに揺られる。
この幸せが続けばいい。
心よりそう願う。
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