第4章
絞られる水音のあとに、ヒタヒタとフローリングを歩く足音がひとつ、そして、苦しそうな寝息が静かに部屋の中で溶けていた。質素な部屋に置かれたベッドの上では、幼い顔の少年が横になっている。
ヒタヒタヒタ……
足音はベッドの、ちょうど少年の頭の方で止まった。絞ったタオルを持った足音の主は、膝の骨を鳴らしながら少年のそばにかがみ込む。
青年は、少年を起こさないように優しくその顔を拭いていたが
「……あ。起こしちゃった?」
少年が目を開いたのだ。だが、何も喋らない。
ふと、なにか思いついたように青年が毛布をめくる。
少年の手が現れた。きつく握りしめられているようだ。青年は、一瞬苦い顔をし、爪のくい込んでいる手のひらから、指を一本一本剥がしていった。
爪の中には手のひらの肉が。手のひらからは血が。
少年の瞳がゆっくり自らの手の方へ向けられる。青年は自らの手で少年の目を隠し、それを防いだ。
「お前は、今は何も考えなくていい。もう少し、寝てな」
低い、耳に心地の良い声だった。
少年はまた、寝息を立て始めた。さっきのような苦しげな様子はなく、幾分か穏やかだ。
少年の手を開かせた青年は、さてどうしたものか、と、辺りを見渡している。
誰かに電話をかけ始めた。
「…もしもし。…あぁ、大丈夫だよ。それより、今暇かな。……そうかい。じゃあ帰りにうちに寄ってくれないか」
青年は、電話を切るなり台所へ行き、何やら準備をし始めた。玉葱に鶏肉、グリーンピースと………。
…なるほど。今夜の夕飯はオムライスらしい。
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