10 第2話終わり
一夜明け、また現場に警察が乗り込んだことを、あたしたちは主任に文句を言われた。
「君が来てから、警察が二度も入っている。異常な事態です」
それをあたしに言われてもなあ。だって、原因はあのふたりだ。あたしはむしろ被害者なのに、所長たちから見れば彼らの一味らしい。
「あいつは事務所に盗聴器を仕掛けていたんですよ。それを暴いたんですから、むしろ感謝してほしいくらいです」
これは鬼村さんの弁。まあ、一理ある。しかし主任はおもしろくないらしい。
「しかし、南野さんが危険な目にあっている」
「まあ、それは……」
痛いところを突かれたのか、鬼村さんの弁が鈍る。
「まあ、仕方ねえだろ。非はあっちにある。居住者といえど、なんでも下手に出る必要はない。由美ちゃんも無事だったんだし、いいだろ?」
所長はあたしたちを弁護してくれた。
もっとも逮捕されたのは塗装職人の染谷だけで、シャンゼリーゼは煙のようにいなくなっていた。もちろん、部屋の中はそのままで。
「説教中すみませんが、その三人をお借りしたい」
話に割り込んできたのは、前回同様、所轄署の刑事、細井巡査部長と大田原巡査だ。
「なんでも聞いてやってください」
所長は手であたしたちを追いやるそぶりをした。
事務所の外に出ると、細井さんが古河原さんに言った。
「染谷ってやつ、もともとあんたのストーカーだったらしぞ。で、それがシャンゼリーゼにばれ、脅され、手下になったらしい。もっともあんたの秘密を探る仕事だったから喜んで従ったようだが」
「キモっ」
古河原さんが吐き捨てた。
「つまり、あいつがあたしの家の鍵をすりとって、合い鍵を作ったのはシャンゼリーゼの命令じゃなくて、元々なわけ?」
「そういうことだ」
そうだったのか! じゃあ、古河原さんの部屋に盗聴器を仕掛けたのも、こいつの独断で、シャンゼリーゼはあとからそれを利用したってこと?
「あんた、わかってたんだろう?」
細井さんは鬼村さんを肘でつんつんする。
え、ちょっと待って。つまり鬼村さんは古河原さんの部屋が盗聴されていたことを知ってたってこと?
まさか、古河原さんの部屋にあいつが先回りして忍び込んでたことまで予期してたわけじゃないよね?
「まさか、鬼村さん。隠れていたあいつをおびき出すのに、わざとあたしをひとりにしたんじゃないですよね?」
「ははは、そんなわけないだろ?」
棒読みくせえ!
だとすると、あのとき、これ以上ないくらいのタイミングでふたりが戻ってきたのは不思議でもなんでもない。
あたしは餌?
「誤解するなよ。あいつがあらかじめ潜んでいる可能性に思い当たったのは、おまえをおいて外に出たあとだ。もちろん古河原の部屋が盗聴されてることだって、あのときはまだ気づいてない。俺だってなんでもわかってるわけじゃないぞ」
どうだか。
「むしろ感謝しろよ。俺が気づかなかったら、おまえは今ごろ死んでた」
よくわかってない風の大田原さんがあたしの肩をぽんぽんと叩く。
「いい先輩をもってよかったな」
どこがだっ!
「ところでシャンゼリーゼって、けっきょくなにものだったの?」
古河原さんが聞く。
「わからん。ただ、あいつの部屋からは盗聴器のレシーバーが発見されたから、盗聴をベースにして情報を探り、それをもとに相手をだます詐欺師というのはまちがいないところだろう。とりあえずは猟場をこの現場と近くの高校の二カ所に絞っていたようだがな」
いずれにしろ彼女は警察に追われる身になった。
「まあ、あんたたちのおかげでまたひとつ手柄を立たせてもらったぜ。この調子でよろしく頼むな」
この調子でなんだっつうの! あんたの手柄を立てるためにあたしは危ない目にあってるわけじゃない。鬼村さんが調子にのって、また危ないことに首を突っ込むじゃないか!
刑事ふたりを見送る鬼村さんはにやにやしている。
案外、探偵としての力を認められたのがうれしいのかもしれない。古河原さんもなんかうれしそうだ。
まあ、古河原さんは自分のストーカーを退治できてよかったかもしれないけど、あたしはべつになあ。
「まあ、元気出せ。ネタができただろ、ネタが。小説書けるだろうが」
「そうそう、印税ア~ップ間違いなしっ!」
「そろそろそのネタやめません?」
「やめない」
即答。
まだ当分いじられそうです。
第二話 終わり
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