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「十万円ください」
朝礼後、現場事務所であたしは鬼村さんに言った。
「なんで?」
「だって鬼村さんに無償で奉仕したおかげで降りかかる災難を防ぐための出費ですから。とうぜんの要求です」
「そんなもの払う必要ねえよ」
「だめですよ。あたしはすでに幸せのブレスレットをもらってるんですから。返品不可。払わないと災難倍返しですよ。倍返し」
「意味がわかんねえ。倍返しって、おまえあいつに災難を与えたのか?」
言われてみればそうだ。
「だけど、理屈が通じる相手じゃなさそうじゃないですか!」
「たしかにそれはそうだ。だからこそ屈するべきじゃないい。どうせ、あいつは事故かなんかに見せかけて、俺たちを危険にさらしてくるはずだ」
だからそれを避けるための十万円ですよ。
「インミン。鬼村君の言うことなんか気にすることはないよ。御利益あるよ、きっと。だってシャンゼリーゼはぜったい本物だって」
横で聞いていた古河原さんが口を挟む。
「だいたい、スパイみたいなまねをインミンにさせることがまちがってるのよ。そんなことをするから災難が降りかかってくるんだって」
「人ごとのように言ってるけど、古河原さんだってあたしたちの一派だって見破られてますよ、きっと」
「あたしこの件に関しては、一派じゃないもん。むしろシャンゼリーゼの味方」
え? 敵宣言?
だけど、ぜったいあっちはそう考えてないと思うけど。
「だから気持ちよく十万円くらいぽーんと払っちゃいなよ。印税あんだし」
あたしの電子書籍の印税、トータルで数千円しかないんだけど。
「まったく、古河原さんは買った株が上がったからいいようなものの。っていうか、まだ上がってるんですか?」
「そう。ちゃんときょうも上がってるの」と、にっこにこ。
暴落すればいいのに。
「あたしは古河原さんとちがって、シャンゼリーゼの恩恵を一ミリも被ってません。災難が降りかかると予言されただけです。十万円払えないなら、守ってください」
「いいぜ」
「ひゅーひゅー。守ってください。いいぜ。だって。ある意味すげえ会話」
古河原さんがなんか勝手に盛り上がってる。
「ふん。要はきょう中にあいつの悪事を暴いて、観念させりゃいいんだろ?」
「できるんですか、そんなこと?」
「もうある程度あたりは付いてる」
ほんとかよ?
「おーい、君たち、いつまで油を売ってる気だ?」
主任がぱんぱんと手を叩いた。
さあ、働け、すぐに働け、死ぬまで働けモード。
「すいません」
古河原さんはパソコンでなにやらやり出し、あたしと鬼村さんは現場に出た。
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