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きょうは日曜日だというのに、現場の近くの喫茶店まで来ている。古河原さんの女子高生の友達に話を聞くためだ。
本音を言わせてもらえば、「なんであたしが?」だ。
もちろん、言い出しっぺは鬼村さん。古河原さんもノリノリ
今、あたしは鬼村さんと隣り合わせで座っている。テーブルを挟んで向かい側には古河原さん。空いてる席には、もうすぐ女子高生が来るはず。
からんとカウベルを鳴らし、女の子が入ってきた。
古河原さんが手を上げる。
「ああ、ピカちゃん、こっちこっち」
ピカちゃん?
あだ名か? まあ、あたしがインミンなんだから、ピカちゃんなんてかわいいもんだろう。
ショートカットの似合う活発そうな子で、日曜だというのに制服を着ていた。紺のブレザーにチェックのミニスカート姿。
「いえーい。アヤちゃん、いえーい」
ピカちゃん、奇声に近い声を上げ、古河原さんとハイタッチ。
「アヤちゃん?」
あたしが首をかしげると、ピカちゃんが不思議そうに言う。
「だって
「え、古河原さん、そんな可憐な名前だったんですか?」
子供みたいな悪戯しかけたり、男を蹴り飛ばしたりするくせに。
「どういう意味よ? これがあたしのマブダチ、ピカちゃん」
「ピカで~す」
あだ名で自己紹介? え、本名?
「光って書いて、ピカ」
「ドキュンネームかよ」
「ドキュンネームっていうな!」
ぱしーん!
まあ、たしかに初対面の子の名前をドキュン呼ばわりする鬼村さんも大概だ。せめてキラキラネームって言ってあげようね?
だけどこの子つっこみも厳しいぞ。なんせいきなり頭をはたいた。十歳以上年上の男の頭を。
古河原さんがあたしを指さす。
「で、こっちがインミン」
初対面の子に変な名前で紹介するな!
「いえーい。インミン、いえーい!」
ハイタッチ? ええ、しましたよ。しましたとも。
「こっちは鬼村君」
「ええ、言いづらいよ」
べつに言いづらくはないと思う。
「じゃあ、
「ええ? 鬼村さんってそんなかわいい名前だったんですか?」
「大きなお世話だっ!」
「いえーい。ヒロミ、いえーい!」
しぶしぶハイタッチに応じる鬼村さん。
「ヘーイ、お姉さ~ん」
席に着くなり、ウエイトレスを呼ぶピカちゃん。
「ウルトラデラックスパフェ」
なにやら恐ろしげなものを頼んでいる。いくらするんだろう? まあ、払うのはとうぜん鬼村さんだよね?
ちらっと鬼村さんを見ると、なんか渋い表情をしてた。まあ、あたしの知ったことじゃない。
「で、気はすんだか?」
「え、なにが?」
ピカちゃんは本気でわからない。なに言ってんだ、このおっさん? という顔をした。
「……いや、いい。なんでもない。ところで、シャンゼリーゼ神谷のことを話してくれると助かるんだがね」
「うん、いいよ。ってか、なに話せばいいの?」
「まず、どうやってその占い師のことを知った?」
「クラスで評判だったから。よく当たるって」
「じっさい当たってたのか?」
「うん。すっげえ当たる。性格とか、学校の成績とか、部活なにやってるとか、ずばずば当てまくり」
「で、いろいろ相談すると?」
「うん。あたしの親友のピューちゃんはね」
それはあだ名なのか、それともキラキラネーム?
「シャンゼリーゼのいう通りにしてたら、すっげえイケメンの空間デザイナーと恋人になった」
「空間デザイナー?」
「うん、よく知らないけど、空間とか色とか、いろいろ考えるんだって」
それって建築士とはちがうのか? たぶんちがうんだろうな。はっきりいってかなりうさんくさい。
「まあいいや。で、君も占ってもらったんだろ? なにを占ってもらったんだ?」
鬼村さんも、空間デザイナーがなんなのかは、どうでもいいらしい。そんなことより、聞きたいことはべつにあると、意気込んで質問したとき、ウエイトレスが例のウルトラなんとかを持ってきた。
「いえーい。ウルトラデラックスパフェ、いえーい!」
「……好きなだけ、食え」
鬼村さんは、ピカちゃんがそれを平らげるまで質問することをあきらめたようだ。
で、ピカちゃんはぱくぱくおいしそうに食べる。ほんとにおいしそうに。
鬼村さん、あたしもそれ頼んでいいですか?
ほんとに聞いたら、叩かれそうな気がしたので我慢した。
「……で、なんだっけ?」
「なにを占ってもらった?」
「友達に暴走族からいじめを受けてる子がいて、どうしたらいい? って」
うわっ、いきなり深刻な話に飛ぶなぁ。
「どうしたらいいって言われたんだ?」
「ここの現場のおじさんに相談しなさいって」
現場のおじさん?
「だから現場のおじさんたちがいる休憩所に飛び込みでいった」
すげえ度胸だな!
「誰に頼んだんだ?」
「鴻上っていう顔の怖いペンキ屋さん。最初、やくざかと思ったよ」
なおさらすげえ度胸だなっ!
「それで?」
「そのおじさん、夜、手下つれて乗り込んでくれた。それで一発解決、いえ~い!」
あの親父はぁああ! つうか、手下ってやくざじゃないんだから。職人でしょう?
「初耳だな」
鬼村さんも呆れてる。
「鴻上さんは占い師の指名か?」
「そうじゃないけど。……だって、一番強そうだったし」
たしかに一番強いかもしれない。戦ってるところ見たわけじゃないけど……。
「断られるとか思わなかったの?」
思わず口を挟む。
「だいじょうぶだよ。だってシャンゼリーゼの占いだから。断られるとかあり得ない。それにあのおじさん、顔は怖いけど女の子にはやさしいよ」
あのスケベ親父がぁああ!
でもまあ、あたしにも優しいし、女の子に甘いのはたぶん本当だ。
「で、アヤちゃんもそのときいっしょに行ってくれたんだよね」
「はあっ?」
仰天したのはあたしだけじゃない。鬼村さんも目をむいてる。
「ヤンキーどもを蹴り飛ばしてくれたんだ。ね、アヤちゃん」
「いえーい!」
いえーい、じゃねえっ!
「なにやってんだ、おまえ?」
鬼村さんが呆れた声で言う。
「だって、たまたまあたしもそこにいたんだもん。参加するでしょ、普通?」
そんな普通はねえっ!
「思い切りぶちのめしたんですか?」
「当たり前じゃない。だってあいつら、バイクで走るより悪さする方が忙しいタイプの暴走族だし。やるなら徹底的にやらなくっちゃね」
なんか簡単に想像できる。古河原さんと鴻上さんのツートップが暴れまくっている姿が。
「え、まさか友達になったって、それがきっかけ?」
「そうだよ。しかも同じマンションに住んでるんだし」
なにを今さらという感じの古河原さん。
あんた、シャンゼリーゼのことを人ごとのように言ってたけど、思いっきり当事者じゃないか!
「だけど、それがシャンゼリーゼの占いのお告げだったとは、今はじめて知ったわ」
「え、言ってなかったっけ?」
ピカちゃんがぺろっと舌を出す。
「やっぱりシャンゼリーゼはすごいよね。いえーい」
「アヤちゃん、いえーい」
ふたたびハイタッチ。古河原さん、よくそのハイテンションにノリノリでついていけますね?
それはそれとして、う~ん。だんだんあたしもシャンゼリーゼが本物の気がしてきた。
ほんとに予知能力だか、霊能力だかがあるんじゃないの?
だって暴走族からのいじめ……というか、たぶんタカリを、アドバイスひとつで一発解決だよ? どうやりゃそんなことが可能なわけ?
「ふーん? いよいよ興味深いな」
鬼村さんがうなる。
「で、君の学校の生徒は、どれくらい占ってもらってるんだ?」
「さあ? だけどあたしのクラスだけでも十人くらいは占ってもらってると思うよ」
商売繁盛しすぎだな。
「で、なんか買わされた? ラッキーアイテムとか」
「買わされたわけじゃないよ。自主的に買ったの。これ」
ピカちゃんは胸を指さす。金物で作った安そうなバッチ。
「いくらした?」
「五千円だよ」
まあ、高校生からはあまりボるつもりもないらしい。じっさい、それでいじめが解決するんなら安すぎるともいえる。
「わかった。いろいろ教えてくれてありがとう」
鬼村さんが珍しく年下の女の子に礼を言った。
「じゃあ、帰る前、お礼にこれも食べていい?」
ピカちゃんがメニューを指さす。
『ウルトラスーパーX麺』
正義のヒーローかなんかですか、それ?
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