第7話 栃木で最も美しい男、絶望の果てに
「フッ、何を言い出すかと思えば。少しくらいは拳法の心得が
あるようだが、所詮魔導師であるオレの敵ではないようだ」
ローブの男は少女の構えを見ると嘲笑し、
自信もローブを脱ぎ構えた。
「小娘ごときに魔導は不要。オレも体術でお相手しよう」
少し小太りな男の構えを見た彼女は、少しムッとした表情で
言い放つ。
「バカにしないでよ! 貴方たち魔導師は肉体の強さだけなら
普通の人間と大して変わらないってクロコダインのおっさんが言ってたもん!」
「ダ○の大冒険読みすぎだろ……」
少女は小太りな男に乱闘をしかけた。
勢い良く放った中段突きが彼の腹部に命中!しかし
「軽い……そんな突きで殺せるのは小さな子供くらいだな」
男は微動だにせず突きを受けきり、目を瞑りにやけながら
少女の両肩に手をやった。
「話にならん。さあ、どきなさい。お前の兄に絶魔導にて
引導をわたしてやろう」
少女の額から冷や汗が流れだす。小太りな男と目があった瞬間、
彼女の首より下は凍りついてしまったかのように動かなくなった。
感覚こそあれど、命令しても全く動く気配がない。
「こ、これは……」
「縛魔導ザウ・ドオシアだ。しばらくは体を自由に動かすことはできん。
そこで兄の最後を見届けろ」
小太りな男はゆっくりと、倒れこんでいる美しい男の前に歩いて行く。
不敵な笑みを浮かべ、彼を見下しながら言った。
「今こそ死ね、美しい男。オレはリア充には容赦せん。
特別に呪文を要する絶魔導で葬ってやろう。ゆくぞ!!」
チイヨノースナッッ!!!
美しい男がいた太○の達人前は、小太りな男が両手から放つ魔導エネルギー
により爆発。ゲーム機一帯は粉々になり、壁には大穴が空いていた。
「お兄ちゃんーーーー」
「フッフッフ、死したか。お前も所詮オレの敵ではなかったな……ん!?」
その時、静かに笑う男の腹部に鋭い衝撃が走った。
死んだと思われていた美しい男の右拳が彼の腹を貫通していた。
男はそのまま地面へ前かがみに倒れこむ。
「な、なんだと……オレの最大魔導をどうやって防いだ……」
「フッ、実はもうイワシタの効力で私の体は半分以上まで体力が
回復していたのですよ。あえて動けないフリをしていただけのこと。
ただゆっくり避けただけです」
「な、なかなか悪どいな貴様……これでは確かに致命傷……。
し、しかし」
男が流れ出る血液を両腕で抑えながら、ぶつぶつと小さく呪文を唱え始めると
美しい男の足元にいつのまにやら書かれた魔法陣が光りだす。
「縛魔導の応用系だ。直接触れていないので、こ、効果は小さいが、
それでも貴様の足は動かないだろう……」
美しい男は必死に足を動かそうとするが、足首よりしたは超重量の重石を
着けられたごとく地面より剥がれない。
「お兄ちゃん!!」
妹は、縛魔導よりようやく逃れた体を美しい男の方向へやろうとする。
しかし、まだ痺れが残り速い速度では歩けない。
小太りな男はそれを確認し不気味に微笑んだ後、
両手を使って魔導エネルギーを練り始めた。
「オレはもうじき死ぬだろう。し、しかし貴様もこの魔導によって
相打ちとなる!!」
チイヨノースナッッ!!!
美しい男めがけて碧い光弾が勢い良く放たれる。
彼はとっさに両腕をクロスし防御を固めるが、そんなもので防げる
攻撃でないことはわかりきっていた。
「ナムサン……」
爆炎が室内を暴れまわる。
粉塵の中より現れた姿は……。
両腕を前方へ突き出し、兄を守る妹だった……。
その衣服は威力でボロボロになり、美しい黒髪も燃え焦げてしまっていた。
光弾をモロに受け止めた両腕は原型をとどめていない。
額からはおびただしい量の血が。そして……。
美しい男の命を救った妹は床に崩れ落ちた。
「い、いちごさんーーーー!!!」
兄はボロボロになった妹に抱きつく。
しかし、何度呼びかけても返答はない。
-もはや彼女は既に息絶えていた-
「バ、バカな、何故私を庇って……形式だけの、偽りの兄妹だったはずだ。
貴女には私を救い死す理由などなかったはずだ……」
人間、本当に悲しい、辛いことがあった時は涙など出ないものだ。
彼は、力を使い果たし息絶えた魔導師リュウオウを横目に、
妹の亡骸を背負い、持ち帰った……。
-数日後-
美しい男は、日を跨いだのち、悲しみと絶望が一気にディレイして
襲ってくるのに耐えていた。
自分のせいで妹は死んだのだ……。
自分を庇い、死んだのだ。
自分の詰めが甘くなければあんな罠には掛からなかった。
自分がもっと強ければ……。
後悔と失意の年に、彼の瞳は以前の美しさを失っていた。
さらに容姿も、以前の彼とは別人のようなボサボサの髪、筋肉質ではあるものの
輝きと自信を全くもって失った陰気なる肉体と化していた。
彼は喪失感から来る無気力になっていた。
ウツノミヤ総帥の条件をのんだのも、彼ひとりならまだしもいちごを
守りながら総帥を避けるのは困難と読んだからであった。
その理由を彼は無くしてしまった。
もう魔導師との戦いも、どうだってよいことだ。
彼はいつのまにか、ハチマンヤマパークと呼ばれる公園の
高台の崖へと足を運んでいた。
「ここなら下はアスファルト、頭から飛び降りれば死ねますね……」
などと、無気力顔で自殺願望を呟いていると、突然後ろから
何者かに羽交い締めにされた。
自分よりだいぶ小さな体格であった。子供なのか……?
「マッスル☆君さん、自ら死すくらいならサクラにその力を
貸してください」
謎の人物は高めの、しかし感情がないような声でそう言った。
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