第6話 栃木で最も美しい男vs三魔導師
「さて、先ほどの女性から頂いた書類の情報を元に、
魔導師の主力"三魔導師"を倒しに出向いたわけですが……」
「お兄ちゃん、ここって」
美しい男に寄り添う妹。たどり着いた場所は、
二人共いかにも見覚えがある場所であった。
そびえ立つ高いビル。
萌えキャラが堂々と描写してある大きな看板。
少女が最初に口を開いた。
「ここ、オリオン通りのオタクビルじゃん」
「ええ。そのようですね(というか私、異世界に転生したんですよね?
普通に宇都宮なんですが……)」
あまりに見覚えがある建物に、美しい男は自分が本当に異世界へ
転生したのか疑問すら出てきた。
-この異世界は、細部の違いはあれど元いた場所に瓜二つなのだ-
いや、魔物やら20メートルを超える総帥やら、魔導やら、異世界テイストを
嫌というほど味わってあとに言うのもなんなのだが……。
三魔導師がひとりは、ここに毎日立ち寄っているらしい。
出入口はひとつしかないため、とりあえず兄妹は入り口の横にある
太鼓の達人をプレイしながら待ちぶせすることにした。
こうすればただのドンだーにしか見えず、怪しまれまいて。
少女は少し叩くと飽きて上の階にあるア○メイトまで行ってしまった。
美しい男がしばらく待つと、真っ黒なローブを羽織ったいかにも魔導師風の男が
にやけ顔で地下エレベーターから上がってきた。
「ふんふんふーん♪ 今日は超レアな魔導○語ARS版ルルーの薄い本が
手に入ったぞ! 今どきこんなん書いてるサークルさんいるんだな……」
すかさず、その怪しげなローブの男に美しい男が近寄る。
目の前にたち、その筋肉質な上半身をアピールするように話しかけた。
「貴方、もしや魔導師では?」
「なんだお前は!? いきなり美しい筋肉を見せつけやがって……。
確かにオレは三魔導師がひとり"リュウオウ"だ。
オレの顔を知っているとは、お前も魔導師の仲間か?」
薄い本を大事そうにかかえながら、男はガラガラ声でそう質問した。
美しい男は、更に男へと近づき、ワンインチくらいの距離まで顔面を
近づけて囁いた。
「貴方を殺りにきました」
ローブの男は少し驚いた様子で美しい男を突き飛ばし、
一定の間合いを確保した、そして、前傾姿勢になりながら
右腕を広げ、前に突き出しあきれ顔で話す。
「おいおい、またか。最近多いんだよな……。オレを殺して名をあげよう
っていうハンターがさ。やめとけ。無駄に人を殺したくない」
「フッ、貴方はただの殺戮魔ではないようですね」
その時、エレベーターのほうから美しい男を呼ぶ声が聞こえる。
「お兄ちゃーーん♡」
長い黒髪にパッツリ揃えられた前髪。まさに全オタク男性、いや、むしろ
ノーマルガイたちにも至極ウケそうな清純派美少女の姿がそこにはあった。
そう、マッスル☆君、彼の妹である。
いい感じに脂肪が乗った、それでいて的確なサイズのソレを揺らしながら
美しい男に駆け寄ってくる。満面の笑顔であった。
「ねえねえ!! "私立グッド・ルッキング・ガイ ~校門を開けたらそこは
美少年ワールドでした~"のラバストがたくさん売ってたの!
すごくない?」
「沢山売っていたんですね。やれやれ、乙女ゲー好きもいいですがこの兄の
美しさもお忘れなく」
その仲睦まじい様子をみていたローブの男。
彼の表情は曇り、ツカツカと美しい男に近づく。
そして、ワンインチほどの面と面がくっつきそうな距離で言った。
「おい、お前。やはりお前は殺すぞ……。
こんなに可愛い妹がいたとは。早く言えばもっと楽に殺してやったのになぁ……。
美しいのは認めざるを得ないが、オレはリア充が」
「嫌いなんだッ!!」
「フッ、リア充ではありませんよ。ただの美しすぎるニートです」
互いに数歩後退し、構え合う二人。
先に動いたのは美しい男のほうであった。
持ち前のスピードで一気に距離を詰め、左手で音速の突きを放つ。
彼は、自分の拳が無残にも空を切るのがわかった。
ローブの男の姿がない。
「驚いたな。生身の人間でここまでのスピードが出せるものなのか」
冷や汗を垂らしながら、入り口のほうにあるプ○クラ機のほうまで
彼は一瞬にして移動していた。
美しい男は目を瞑りながら、体勢を立て直しつぶやく。
「なるほど。瞬間移動(テレポーテーション)……ってやつですか」
「よくわかったな。大当たりだ。オレは魔導師の中でも超能力寄りの
魔導を得意としている」
ローブの男はそう語ったあと、少し腰を落とし両腕を胸の前に組んだ。
その両手を右の方向に振り払った。
「そしてこんなことも可能だ!」
瞬間! 美しい男のパーフェクトボディに鈍痛が走る。
どうやら腹部? 骨をやられたようだ……体が宙を舞い、太○の達人の前あたりまで
吹き飛ばされた。冷たいタイルの床に崩れ落ちる。
「(奴の魔導は呪文が要らないのですね……迂闊でした……。
遠当ての一種……)」
一部始終を呆然と眺めていた妹は、吹っ飛んだ美しい男の元へと
走っていった。
「お兄ちゃん!」
「くっ、これではしばらくの間動けまい……いちごさん、に、逃げてください」
それを聞くと妹は、いきなりパンツの中に手を入れた。
苦しそうに話す兄の口めがけて、そこから取り出した豆粒大のモノを突っ込む。
「これ食べて寝ててね。イワシタって言って、食べてから数分すると徐々に
傷が治ってくる魔導アイテムなの」
「(さすがに取り出す位置がちょっと……まあいいでしょう)」
妹はついていた膝をバッと上げ跳躍、空中で一回転したあと、ローブの男のほうを
向いて着地した。
何か拳法のような構えをして、一喝した。
「あいつはあたしが倒します」
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