第4話 栃木で最も美しい男vs熱線の魔導師
「おかしい……」
少女は可愛らしい顔面を斜めに方向けながら、困り顔でそう言った。
美しい男、もとい少女の兄となった彼は質問する。
「なんですか? 私としては先ほどから転がっている死体がとても
気になるのですが」
珍しく美しい男の口からド正論が飛び出す中、彼女は更に
左手で自らの顎を持つようにして悩み始めた。
「ううん、別に死体はいつも転がってるからどうでもいいんだけど」
「(いつも……)」
「おかしいの。もう入り口付近まで来てるのに、生きてる人の気配がまるで無い」
「なるほど、確かに私も感じませんね」
少女と男は、何か違和感を感じつつも硬いコンクリートの上を
慎重に歩いていった。
入り口の自動ドアが開かない……。
「なにっ!?」
受付担当であろう人間が無残な姿で横たわっていた。
少女は先ほどまで生があった者のそばまで駆け寄る。
左手の二本指で首あたりを触る。脈を確認し……、
「だめだ、死んでる」
その様子を見守りながら、美しい男はすでに周りの状況を
確認していた。
殺されたのは受付の者だけではない。あたりには無数の死体が。
「むごいですね……」
「お兄ちゃん、この傷、おかしいと思わない?」
「ふむ。おかしいですね。刃物の傷というより何か"燃やし斬られた"というべきか。
範囲が狭い熱線で断ち切られている」
ザウヨーギヤミノツウッ!!
何故かエコーがかった男のハイトーンボイスが館内に響き渡る。
そして、同時に熱線のようなビームが美しい男の肩めがけて飛んできた。
声の位置から判断し間一髪で回避した彼であったが、
ギャウッッ
「ぐっ……!」
熱線は後ろにいた少女の右腕を貫通した。おびただしい量の血が流れ出る。
「いちごさん!!」
「お、お兄ちゃん……」
そして妹は冷たい、タイルが敷き詰められた地面に頭から崩れ落ちた。
「ほう、よくボクの熱線魔導”ザウヨーギヤミノツウ”を避けたな。
女のほうは素人同然だが、美しいほうは中々やるではないか」
先ほどのハイトーンボイスの持ち主が、階段付近の暗闇から姿を表す。
ゆっくりと美しい男たちのほうへ歩み寄るその姿は、
まるで少年のような面影を残す男であった。
体には膝ほどまであるローブを纏い、青い長髪を風になびかせている。
「貴方、何者かは知りませんが殺しますよ」
「やってみたまえ。出来るかな? マグル(適当)のキミに」
カカロットvsベジータ戦の構えを取りながら対峙する二人に、
ムクッと起き上がった血だらけの少女が言い放った。
「かっこいい台詞言ってるけど声が高すぎて台無しだね」
「フッ、女性ボーカルの曲も楽々カバー可能だ。
えっ、その深手で何故普通に立ち上がれる!? 嘘だべ」
よく見ると右腕の傷が少しふさがっていた。
驚きの表情を見せ、額から汗をながす少年。
「♡お兄ちゃん愛で復活しました♡」
「なんだそれは……滅茶苦茶過ぎるだろ。
そんなわけがわからない理屈を無理やり通すなんて……」
少女の理不尽なる無茶理屈に圧倒され、完全に自分のペースを
見だしてしまった少年は、膝を突き手を地についてしまった。
そんな彼を見下しながら、美しい男は言った。
「まだわからないのですか。メイン・ヒロインが死んだらこの作品は
終わってしまうんですよ。なので私の妹は死なないのです。
あの程度の傷など、すぐに自己再生してしまいます」
「う、うるさい黙れッ!!
なら喰らうがいい。ボクの最大魔導……ガァァァァァァァ」
少年が深く息を吸い込むと、あたりにプラズマのようなものがバチバチと
飛び散る。そして、あたりの空間が乱れてゆく。
胸の前で合掌し、謎の呪文を叫んだ。
ジッレビク・パータンイッッ!!!
あたりが一気に爆発。超高層ビルであるウツノミヤ役所の一階部分は
全て粉々に消し飛び、二階から入らねばならない不便な建物へと
変わってしまった。
「ハァハァ……こ、この魔導はボクの魔力、生命力を限界まで酷使するものの、
喰らったものは跡形も残るまいて」
「これもボクの力なのか!? ハァーーッハッハッハァーーー」
少年がハイトーンボイスで高笑いをしていると、超低音のダンディボイスが
それを遮った。
「な ん じ ゃ 騒 々 し い」
するとその瞬間、巨大な手のひらのようなものが左から少年の体を
なぎ払い、彼の体はその衝撃力に耐え切れず……空中で四散した。
超低音の持ち主は、先ほどの爆発魔導によって出来た瓦礫に
向かって叫ぶ。
「お 主 も 生 き て い る な ら 出 て こ ん か ッ ! !」
「フッ、バレていましたか。このままやり過ごそうと思ったのですが」
低く積み上がった瓦礫から、美しい男が勢い良くイケメン顔面をつきだした。
そして遅れながら、彼の影に隠れてダメージを逃れていた妹が顔を出す。
「ふいー、お兄ちゃんが庇ってくれたおかげでなんとか生き残れたわ」
いまにも泣き出しそうな妹の頭を、美しい兄はほこりを払いつつ撫でてあげた。
さらに超低音の持ち主にむけて構えを取る。
「しかし、奴は死んだものの万事休すですね」
20メートルをゆうに超える巨大な人間(なのか?)が、そこには立っていた。
手のひらだけで妹はおろか美しい男の身長までも覆い隠せるほどの巨体であった。
巨大な男は、彼からみれば豆粒のような兄妹にむかって、優しげかつ
狂気に満ちた小声で語りかける。
「ワ シ が ウ ツ ノ ミ ヤ 総 帥 だ …… !」
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