第3話 栃木で最も美しい男 with 可愛い妹

美しい男は、いつものクールかつキザな表情を完全に崩し、

キャラ崩壊とも言うべき前傾姿勢で、両手を前方にだらりと

ぶらさげつつ驚いた。


目を見開きながら、少女へと言い放つ。


「えっ……すいません、私としたことが、貴女の言っていることが

ちょっとわからないのですが……」


「あたしをマッスル☆お兄ちゃんの妹にしt」


「いえ、聞き取れてはいます」


男は表情をいつものキザ&クール・スタイルへと戻し、

少女のほうへと数歩近づく。

そして彼は美ポーズを取りながら続けた。


「今の流れでいきなり妹にしてくださいはおかしいですよね?

いや、私は年頃の妹がずっと欲しかったので、それはそれで構わないのですが」


彼の言葉を聞くと、少女は目を輝かせ、とても嬉しそうに小さく飛び跳ねた。


「えっ、じゃあ妹にしてくれるんだね? 嬉しいっ」


「え、ええ。まあ、妹になること自体に問題はないんですが。

いちごさん、貴女、マトモそうに見えてかなり頭が沸いていますね」


「えへへー、よく天然っていわれる☆」


少女はそう言うと、自分が一番可愛く映る角度にて新兄(謎)に言った。

上目遣い気味で、いかにも"あざとい"という言葉通りであった。


美しい男は、可愛い妹がいきなり出来たという状況については不満など

なかったのだが、妹の内面に問題があることについては

何ら疑う余地もない。


「天然とかそういう問題なのでしょうか……(困惑)」


「よろしくね、マッスル☆お兄ちゃん!」


「これは受け入れざるを得ない状況ですね……。

深く考えるのをやめましょう……。よろしくお願いします」


妹は美しい男の返答に、にっこりと笑顔を振りまいた。

そして、何かを思い出したかのような表情で先ほど絶命した

イバラギークのほうへと駆け寄る。


冷たくなった獣の口から、吐血と共に光り輝くオーブを取り出した。

大きさにして卓球球くらいだろうか。獣の醜さと対比するに相当美しい。


「いちごさん、それは一体」


「これはね、ダッペヨっていう謎の宝石。イバラギークをぶっ殺すと

口からポロって出てくるの。何なのかは不明だけどこれをウツノミヤ役所へ

持って行くとお金に替えられるんだ」


「なんか今季のアニメでそんな設定ありましたね」


「こんきのあにめ?」


「いえ、なんでもありません。気にしないでください」


どうやら、こちらの異世界では今季のアニメは放送されていないらしい(当たり前だ)

今のところ、謎の魔物イバラギークとダッペヨという宝石意外は、何も異世界要素がない。


「はい、これはお兄ちゃんのね」


男は血だらけの宝石を妹から受け取った。

少女の柔らかくてしっとりした手の感触は中々に良いはずだが、

獣の血糊は悪臭を放ち、正直そんなものを味わう余裕はなかった。


「ありがとうございます。よし、それではこれを換金にいきましょう。

案内してください。役所とやらへ」


美しい男とその新しく出来た妹は、徒歩で15分ほどの所にあるという

ウツノミヤ役所へと向かった。


輝きを放つ肉体美と共に練り歩く彼と、その横に寄り添いながら歩く

黒髪で小柄、可憐な少女。

そのへんをあるっているモヒカンの通行人も、あまりに圧倒的なる美しさを

持つ二人に注目していた。


というか、何故かこの街の男たちはみなモヒカンorリーゼントであった。

流行りなのか? それとも法律でモヒカンとリーゼント以外が認められて

いないのかもしれない……。


美しい男は、顔だけを妹のほうへ向けキザ・スマイルでニヒルに尋ねた。


「時にいちごさん、貴女、年齢はいくつなのですか?」


「歳? 17だお♡」


「なっ、なにィ……!!」


「えっ、えっ、どしたの?」


いきなり不穏な表情へと変わる兄に、妹は焦り出す。

そして彼の前方へと回り込み、話を聞こうとする体勢だ。


「結構歳いってるんですね……貴女、幼くみえるのでもっと下かと……」


「歳いってる!? あたしまだ17だよ!? ピチピチだよ?(古)

もしかして37と聞き間違えてない?」


青ざめていく男の表情と対比して、必死になっていく妹の表情。


「いえ、聞き間違ってはいません。私にとって14を過ぎればみな

年増……」


妹の真っ黒な瞳が曇る。そして涙をいっぱいに溜めながら、


「ひどぉい……」


今にも泣き出しそうな様子で、力なくそう言った。


「まあ、幼くみえるし問題はないですね。ギリギリ認めましょう。

それに私ほどではないにせよ中々美しくもある……」


泣き出しそうな妹に、彼は無理やりかつ下手くそなお世辞を言ってのけた。

その言葉をきき、彼女の表情は一気に明るくなる。


「ほんと? お兄ちゃんみたいな高貴なる美麗人間に美しさを認めて

もらえるなんてうれしいっ♡」


「(妹が単純で助かりましたね。やれやれ)」


「ギリギリというのをお忘れなく」


「そうだ、お兄ちゃんの歳は?」


「私は35ですが」


「兄こそ結構行ってるな!! 35にもなってその若々しさ、美しさとか

体の仕組みどうなってんの……(ドン引き)。20前半くらいかと思ってた」


妹は古臭いリアクション、ポーズと共に大げさに驚いた。

現に彼の肉体はいささか衰えなどなく、常に20歳くらいの全盛期ボディを保って

いるのだから。もしかすると還暦を超えてもこのままかもしれない。


よくTVにて美魔女だのなんだのと騒いでいるが、彼の場合は細胞レベルで

劣化していないのだと思われる。選ばれし人間だ。


「あっ、みえたみえた。あれがウツノミヤ役所だよー」


「なんですかあれは……」


遠くのほうに仰々しい、そして禍々しいオーラを放つ高層ビルが見えた。

そう、あれこそがウツノミヤ役所である。


近くまで二人であるって行くと、入り口のほうにある横断歩道と

役所まで続く歩道の横にある芝生に沢山の死体が転がっていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る