9#風船~エピローグ
あれから何ヶ月経った。
イノシシのブッピは、森の動物達と一緒に作った“山の主”の墓のそばで、街を見下ろしていた。
「ねえ、“山の主”さん。
いや“ブーさん”でいいよね。
結局、あのクマのブーウはこの森を出て行ったよ・・・。
ここにいると“ブーさん”のこと思い出して嫌なんだって。
僕も止めたけど、
何もかも忘れたくて、
振り払って出て行ったよ。
クマのブーウだけでなく、
他の動物達が出て行くようになったんだ。
人間の開発がここまで押し寄せて来たんだ。
人間が森を切り開くようになったんだ・・・
僕達の住む場所なくなっちゃうよ・・・
これだけはゴム風船をみんなで膨らまし割りしても防げないよ・・・
どうしよう・・・
どうすればいいの?
教えてよ・・・
“山の主”なんでしょ?
最悪僕も離れることになるかも・・・
そしたらごめんね・・・
あなたを蹴り飛ばしたシカのフラコって居たでしょ?
あいつ、人間に殺されちゃったよ・・・
キャベツ畑でキャベツ食べたら、
ハンターに射殺されたんだ・・・
人間は僕達を軽蔑する。
人間は僕達を忌み嫌う。
人里に出れば、
僕達は人間に殺される位に憎まれ
る・・・
かつてあなたがみんなに忌み嫌われたように・・・
結局誰も守れなかったよ・・・
結局何も守れなかったよ・・・
みんな僕を“ポスト山の主”とか言ってたけど、
僕は“山の主”じゃないよ・・・
僕はただのイノシシだよ・・・
こんなことになったらどうしたらいい?
教えてよ・・・
“山の主”なんでしよ?
ねえ教えてよ・・・!!」
イノシシのブッピは、あの時のまだ膨らませてないゴム風船の最後の残りの1個を膨らまそうと、深い深い息を吸い込んでいた。
そしてゆっくりと、ゆっくりと、ゴム風船に息を吹き込んだ。
ふぅーっ
ふぅーっ
ふぅーっ
“ブーさん”のそばにあったゴム風船と、僕の息・・・
“ブーさん”と僕はこの風船で一つになり、永遠の証になる・・・
たとえ僕がここに離れても・・・
いつまでも
いつまでも
ふたりでひとつだよ・・・
イノシシのブッピは、“山の主”こと“ブーさん”への思いを込めて大きく膨らませてた風船の吹き口をしっかり結わえて、“豚鼻”でゴムの匂いを嗅ぎ、ぽーん、ぽーん、と前脚で突いていた。
突然、強い風が吹いた。
ぽーんと突いていた、イノシシのブッピの吐息の入っているはちきれる位膨らんだ風船は、突風に吹かれ、ヘリウム入りの風船のように空高く舞い上がった。
その風船は、天国の“山の主”こと大イノシシの元へ飛んで行った。
大イノシシの“ブーさん”とイノシシのブッピの風船は雲間に吸い込まれていって視界から見えなくなるまで、ブッピは目に涙を浮かべて見守っていた。
~第二章 fin~
~風船の好きな大イノシシの涙 fin~
風船が好きな大イノシシの涙 アほリ @ahori1970
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