第2話
そんなミス・コリンズを見かけられたのは、正直かなりラッキーだった。
というのも、ミス・コリンズの姿を見かけたらミス・コリンズにバレないように追いかけ回す、という遊びをするのが、最近の僕の趣味のひとつであったからだ。
ミス・コリンズはまだ改札で定員と揉めていた。
切符がどうもなにかおかしかったらしい。
(ミス・コリンズはよくそういったことで引き留められる)
改札口の駅員がなにやら頭をガリガリと掻きながら、ミス・コリンズとなにかを話しているのが見える。
僕は、さも目の前のフルーツ・パーラーのガラスショーケースの中に展示されたスイーツたちに興味津々な無邪気な少年、という風を演じて、ミス・コリンズと駅員が話し込んでいるところにこっそりと忍び寄った。
「ケビン・ペンバートン!」
僕は思わず身をすくめた。
「ケビン・ペンバートン。こんな所で会うとはまったく驚きだな!」
彼はそう言って、ひとつ大きなくしゃみをした。
「ベンジャミン先生....」
僕は自分がひどく嫌そうな顔をしているのを隠さず先生の方へ顔を向けた。
「ケビン・ペンバートン!どうしたのかね。そのような元気のない顔をして。何かあったのかね。フルーツ・パーラーに用かい?君には、君のママが作ったおいしいアベックトーストがあるはずだがね、ペンバートン。いったい、どういう訳で今君はここにいるんだね」
ベンジャミン先生はそういって、またひとつ大きなくしゃみをした。彼の口からよだれが飛び散るのが見えて、僕は心底ゾッとした。
「ベンジャミン先生、あのトーストは、今奥歯に大きな虫歯のある僕には、とてもじゃないけど食べれないんです。詰めてあるものが、全部取れちゃいそうになるんです。先生こそなぜここに?」
虫歯、という単語でベンジャミン先生はひどく嫌な顔をした。
(彼は潔癖症で、1日に10回は歯磨きをするし、授業が終わる度に1分以上かけて手を洗う)
「なるほど。ペンバートン。虫歯には気をつけたまえ。確かに、あのトーストは歯に悪いだろうね。あぁケビン・ペンバートン!私かね?私はこのフルーツ・パーラーに用があって来たんだよ。知っての通り、今日はスクールが早く終わったんでね」
自分から話しかけておいて、ベンジャミン先生は、すでに今すぐにでも目の前のフルーツ・パーラーに駆け込みたくてしょうがない、といった様子だったので、僕はできるだけ無邪気な子供に見えそうな笑顔を顔に張り付けて、にこやかに彼に別れを告げた。
ベンジャミン先生に学校外で会うなんて。
僕は自分の運の悪さを少しばかり憎らしく思った。
ミス・コリンズの姿はすでに改札にはなかった。
僕はしょんぼりとして、セントラル・パーク行きの切符を買った。
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