第80話 最悪の末路
「明かりを消して」
雨夜の指示に慌てて旅子はカンテラの灯りを遮った。
同時に雨夜は痣丸を一振りして、男を焼き尽くす炎を消し飛ばした。
辺りは完全に暗闇と化した。
そうか、弓矢での狙い撃ちを防ぐために、光源を絶ったのか、と旅子は理解した。
「ふふふ、暗がりでも見える術だってあるのに、わざわざ炎を消すなんて。随分甘いねぇ。でも、その男はもう助からないよ」
闇の何処からか、青杖の可笑しそうな声が聞こえる。
「おまえがその男をたぶらかしたのか?」
墓場の暗闇に雨夜は問うた。
「はっ、こいつは根っからの泥棒で、人殺しさ。私がどうこうするまでもなくね。あとはちょっと耳寄りな話をしてあげただけ。いい刀を作る鍛冶屋がいるって」
「鍛冶屋・・・」
「まぁあんたがどこまで知ってるのか知らんけど、面倒だから一つ教えてといてあげるよ。私は不幸ってものが見えるんだ。人の一番悲惨な人生の成り行きが視える。私がちょいと思う方向に背中を押してやれば、そいつは人生を転がり落ちていくって寸法さ」
なにをいっているんだ、あの女は。
旅子は、にわかには信じられなかった。
そんな異能が存在するのか?
「・・・それは、あなた自身が一番不幸せではないのか?」
雨夜の問いに、青杖はしばらく沈黙で答えた。
もう既に、闇に紛れてここから離れたのかもしれない、と思い始めた頃、突然青杖はいった。
「あんたの不幸も視てやりたいが、この暗闇じゃね。ま、私が視るまでもなく、あんたの前途多難は目に見えてる。この騒ぎでも、国も軍もまったく動かないのを心配するんだね。後始末がどうつけられるか、楽しみだ」
それを最後に、青杖の声は途絶えた。
「どうやら、行ってしまったらしい」
雨夜は呟いた。
「明かりを点けてもいいですよ」
旅子は再びカンテラに火を灯した。
「いった通り、この男はもう絶命しているようですね。一応訊きたいことがあったのですが」
雨夜は地面に横たわる男の体に顔を向けていた。
青い炎は、思いの外威力が凄まじかったようで、男の体はあの短い間で黒焦げになっていた。
「呪われた刀も、持っていかれたか」
「この男と刀と青杖、それに神社の一件、いったいどういう繋がりだったんですか?」
「人の最悪の未来が視える。青杖の能力、それがきっとすべてのきっかけであり、中心だったんだろうね」
黒焦げになり、肉の焼ける臭いを立ち昇らせる焼死体となった男の亡骸を見つめるようにして、雨夜はいった。
「確かに、最悪の末路だったのでしょう」
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