第62話  巻き込まれ人生

 遅い朝餉を三人で済ませると、草平は厨で後片付けをしている犬八に声をかけた。


「片付けが終わったら、散歩にでも行こう」

「え、カネヒコとですか?」

「勿論」

「寒いですぜ?」

「だからといって家にずっと居るのも体に悪かろう。嫌かい?」


 草平は微笑んでみせた。


 カネヒコが一緒なのは煩わしいが、草平と二人にしてはなにがあるかわからない、と犬八も行くことにした。

 それに、榎木二郎からの警告も気になっていた。


 なにかに巻き込まれるおそれがあると。


 三人は外着に着替え、十分厚着をして家を出た。


「いやはや、さすが年の瀬も迫っているとあって、街は大変な賑わいだね」


 草平は懐手に歩きながら呟いた。

 隣のカネヒコは物珍しそうに首をキョロキョロさせ、明らかに興奮している様子。

 家々は正月の飾り付けや大掃除で忙しく、商店では歳末大売り出しに躍起で騒がしかった。


 なんだか最近先生と二人きりで出かけていないような。

 犬八は外の賑やかさとは逆に、急に寂しさに襲われた。

 先生は、文字通り師走で大学が忙しく、ようやく年末の休みに入ったと思ったら、今度はカネヒコが現れて・・・。


「どうしたんだい? 犬八。浮かない顔して」


 草平の声に、犬八はハッと我に返った。


「ななな、なんでもないです!」

「それならいいんだけど。カネヒコは元気そうだよ? 見るものすべてが面白いって感じだね。僕もあんな風にいられたら・・・」

「せ、先生は・・・。先生は」


 なに? と草平は無言で犬八を見つめた。


「先生もそんな風でいて下さい。嫌なものは、俺が全部引き受けますから」

「それじゃ犬八が大変だろ、不公平だ。僕だっていい大人だ。自分のことは自分でするよ」

「ですが」

「犬八、側に居てくれて、本当にありがとう」


 草平はそっと犬八の手を取った。


「え、あの、せんせぃ」

「これからも僕の・・・」

「二人、仲良し! おれもまぜて!」


 繋いだ手の間に、カネヒコが歓声を上げ大きな体で割って入ってきた。


「こここ、コラー! このクソガキ‼」


 犬八が憤慨してカネヒコを両手で抱き留めると同時に、人で賑わう通りに緊迫した声が響き渡った。


「大変だ! 人が死んでる。警察を呼んでくれ‼」

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