第二十話 きっかけ
時は数年、遡ります。魔王様の直轄地域で日々の仕事をこなしていた私の元に、とある幹部の補佐官が訪ねてきました。彼は意見を求めにやってきたのです。
「この地域の管理者なのですが……有望株とみられた新人管理者が廃業する率と、担当している広域統括責任者が見出した生え抜きの管理者の定着率、その両方が他の地域よりも少し抜け出ているように感じます。特別監査官であるケルーナ様のご意見を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
管理者は優秀な者や魔王様への忠節に厚い者、代々魔王様のために身を尽くしてきた一族などが優先して選ばれます。この審査は私を含め複数人の幹部が行います。
しかしそれ以外に現地の指揮を執る広域統括責任者が見出した新人も申請があれば優先して選ばれます。こちらの審査は現地の責任者に一任されています。
魔王様のためにも優秀で才のある者、魔王様のために尽力する忠義の厚い者を世界各地の迷宮へと送ります。各地の責任者にとって不公平にならないように送り出す先は慎重に精査されます。そのため世界各地の地域ごとでデータを出すと、様々な数値に大きな差は見られません。
ですがとある一つの地域ではその数字に違和感がありました。もちろん目立つというほどのものではありませんが、誤差の範囲として放っておけるかどうか微妙なところでした。よって私はその地域を調査することにしました。
調査をしましたが目立って何か異常があるというわけではありません。廃業に追い込まれた者達も自らの失態と言っていました。責任者は自らが見出した者達に感情移入して多少優遇するものですから、致し方ないのかもしれないというのが当時の結論です。
しかしその後も数字の違和感は残ったままでしたので再度廃業に追い込まれた者達を聴取することにしました。その結果、全員に共通点が見つかりました。その共通点は状況が良くなった途端に不運が立て続けに起こり出す、というものです。当人達のいいわけにも聞こえましたが、共通点となることが異様だと思い、私は一つの策を弄することにしました。
もし責任者が意図的に管理者を狙って廃業に追い込んでいたとした場合、そうしたいと思う者をあえてその責任者の管轄に送り込む。そしてその者を徹底的に監視することで何かしらの原因究明が可能なのではないか。原因究明と仮説立証のために選ばれた管理者が魔王様の血縁であり遠縁であるヴィンセントでした。
私は彼の情報を事細かく受け取り、同時に上司である広域統括責任者のカッサバルド殿の情報も精査し続けました。そして最近、状況が良くなった途端に不運が重なるという聴取の内容と同じ事態の発生が確認できました。よって私は自ら現地に赴くことにしたのです。
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