第十三話 思惑
俺自信が開催した大会が閉幕して三日。少々気になった男の動向を調べさせ、その調査結果の報告書が届いた。それを見て、俺は今少々機嫌が悪い。
「ヴィンセント、か。ここしばらく目立った噂を聞かなかったから忘れていたな」
いつも通り、特注にデスクと専用の椅子。自分専用の執務室で手元の調査報告書を読んでいる。その報告書は一流の情報屋だけあって、最近の動向まで事細かく記されている。
「大会で活躍したスライムの売却が決定。得た移籍金と賞金で迷宮の内装を一部変更。功労者にはボーナスを支払い、残った額で雇用できる新たなモンスターを探していてすでにいくつか目星をつけている様子……か」
管理者としてはごくごくまともな選択であり、当然のことだ。それに関しては特筆すべきことは何もない。だが一つだけ気がかりなことがある。
「大会終了三日でここまでできるのか。遠縁とはいえ、やはり魔王様の血族というだけのことはあるな」
才能は血によって受け継がれるわけではない。優秀な者の血を受け継ぐということは、優秀な者を見ながら育つということだ。もしくは優秀な者が認めた者がそばにいる時間が他社よりも多いということかもしれない。つまりどういうことか、優秀な血を受け継ぐ者の多くは無意識のうちに良い育成環境にいることが多い。ヴィンセントもそうなのだろう。
「本来なら空白地にしておくべき公平性の欠片もない最悪な立地の迷宮。そこに閉じ込めて出世の道を完全に閉ざしたと思っていたが……これでもまだ侮っていたことになったということか」
普通なら管理権限を返上したくなるような厳しい土地にある迷宮だ。その迷宮で評価が悪くても管理権限を剥奪されることはおそらくない。それほど立地条件が悪いのだ。
ぎりぎりとはいえ赤字と黒字を行ったり来たりしているだけではマイナス評価にはなり得ない。それがまさか、そんな場所から伸びてこようとしている。気にならないわけがない。
「どうやら……本格的につぶしておく必要があるかもしれないな」
ヴィンセントが万一にでも好立地の迷宮を手に入れでもしたら、どれだけの出世を果たすかわからない。もしかしたらこの俺を追い越していくことだってあり得る。そうなる前にその可能性をそぎ落としておく必要がある。
ヴィンセントは永久に、最悪の立地条件の迷宮という檻の中に閉じ込めておかなければならない。伸びる可能性のあるやつだ。先手を打つ必要がある。
なぜそんなことをするのか。ただの小僧だ。だが、やつは魔王様の血族でもある。この俺の支配か地域に配属になった以上、この俺以上の存在になることは許されない。魔王様の側近や直轄の重臣や幹部の席の数は決まっているのだ。
「しかしやつは魔王様の血族。下手に動けばこちらにも害が及ぶな」
下手に実力行使を行えば魔王様への反逆と受け取られかねない。
今回開催した大会で配下のルドガーが躍進を遂げれば俺の評価も上がったことは間違いない。そうなれば増そう様への聞こえも良かったはずだ。そのために魔王様直轄の重臣にも届くようにわざわざ噂まで流した。ケルーナほどのやつが出張ってきたのは予想外だったが、結果としてルドガーが結果を出してくれれば問題なかったのだ。
「ルドガーの馬鹿が。重要なところでしくじるからこういう面倒なことになる」
今回の大会でルドガーが注目されていた。その注目されていたルドガーが敗れた。この程度で出世の道が閉ざされるわけではないが、相手が悪かった。よりによってヴィンセントに敗れるなどあってはならない。
「これで重臣の注目がルドガーからヴィンセントに移ってしまうことも考えられる。そうなるとヴィンセントの待遇改善を言い渡される危険性があるな」
最悪の立地条件の場所に置いておくのはもったいない。重臣達がそう判断してしまうともう俺の手ではどうしようもなくなってしまう。
迷宮の管理者としてはほぼ最高位に近い広域統括責任者にまで出世できたのだ。魔王直轄の重臣達と階級としては同等だ。だが俺の野心はこの程度ではない。魔王直轄の重臣のさらに上の階級である魔王率いる直轄軍の将の地位こそが俺の目指す到達点。そのためには障害になる可能性のあるものは少しでも早くつぶしておかなければ後々面倒なことになる。
「しかたあるまい。いつもの手を使うか。だが……」
デスクの上に報告書を放り投げる。その中の一枚に契約していない女がいることも書かれている。ヴィンセントをつぶすだけならいつもの手段で事足りる。しかしヴィンセントの手の内を全て明らかにした上で、その全てを奪い取っておけばまだこの先も安泰だ。
「少し、策を練るとするか」
いつもの手だけでは不十分。よって策を講じて確実に全てを奪い取り、最悪の立地条件下という檻の中に改めて閉じ込める。
頭の中では着々とヴィンセント潰しの策が順調に構築されていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます