1-2. 友達部ってなーに?

「コラ! 片割れのせいだぞ!」


「いてえ! 抓るな! 地味に痛い!」


 ポプラはさっきの腐女子が逃げたのを俺のせいにし、ギョーザの皮を摘むように手の甲の皮を抓る。


「もうー。後で謝りに行かなきゃ......」


 後でじゃなくていい!

 今! ここで! 俺に謝れ!

 と言ったらアホなこいつと会話をしなくてはいけなくなる。

 なので、音もなくフェードアウトしようとしたのだが襟足を強引に掴まれ、呼び止められる。


「いてぇ! 襟足を掴むな!」


 先程からポプラは特殊な方法で攻撃してくる。

 そろそろ、カポエラーとか繰り出してくる勢いだ。


「友達部の説明をしよう! 文字通りここは友達を作るために結成された超健全な友愛団体。最終目標は友達と一つになり、世界を統一することだ」


 なにその危ない団体......。

 部活という枠を飛び越えて宗教団体になっているよ。


「あのポプラさん? 俺は入部したくないのだけれど」


「世界統一というのは最終目標だ! 高校生の君が僅か三年でそこまで自身を昇華出来るとは思えない。だから、君は将来の目標のあしがけで先ずは友達5人と恋人1人を作るのを目標にしなさい」


 うん。

 だから、無視するのはいかんぞ。

 せめて、否定しなさい。


 っうか、この友愛団体の活動が俺の人生目標みたいになってるんですけど。

 こわっ。

 鳥肌立ってきた。


「分かった! ここに所属する! 所属するから! とりあえず、今日は帰ろう! な!」


 ポプラは自分がやりたいと思った事は是が非でも押し切る。

 抵抗した所で時間の無駄だ。

 一応、部活動に参加するという体を装い、実質的に活動をしなければいい。

 どうせ、この遊びもじきに飽きる。


「いや、所属というか。片割れが部長だから」


 サラリととんでもないことを言いだす妹。


「ちょっと待て! 何で俺が自分の友達を募集する部活みたいにしてんだよ! せめて、巻き込まれ型にしてくれ! いいのかお前!? 自分の兄がとんでもなく痛い奴だと思われても!」


 冗談じゃない。

 俺は”妹に全て奪われた男””厨二病”などと友達の数よりも異名の数の方が多いという特殊人間だぞ。

 いいか!?

 二つ目までは受け入れよう!

 だが、三つ目の異名は御免こうむる!


「もう、手遅れだから。それで申請しといたから」


 ポプラは一枚の紙をニヤニヤしながら見せつける。

 部活名:友達部

 活動内容:友達のいない人に友達を作り、修学旅行の組決めで気まずい雰囲気を作らないようにするのが目標

 部長名:小鳥遊楓(たかなしかえで)

 部員名:小鳥遊楓(たかなしかえで)


「ひゃあああ!!!!」


 埴輪の中を通り抜ける風音のような擦れた声を上げた。


「何だよ! ポプラ! お前、入ってないじゃねえか!」


「え? うん。だって、あたし、友達いるし」


「おまっ......! 親の顔......! ちくしょう!」


 親の顔みてやりたいと言ってやりたくなったが、そういや、朝出る時に見たのを思い出して言葉を引っ込めた。


「そういう所! そういう所だよ! 本当......! え!?」


 久しぶりに悶絶した。

 だって、これ、職員室に持って行ったってことでしょ?

 先生見たってことでしょ?

 それを見た先生は職員室で話すでしょ?

 友達いないの?

 先生相談乗るよ?

 って言われるでしょ?

 気まずいでしょ?

 嫌でしょ?

 それ分かんない?

 分かんないんですよ......。

 ウチの妹はそれが判らないんですよ......。


 ポプラは人の気持ちに鈍感だ。

 強引に誰かを巻き込む事を良かれとさえ考えている節もある。

 ただ、ポプラは誰からも嫌われない。

 何故なら、その強引な巻き込みがその人の人生を好転させるのだから。

 そりゃ、誰からも好かれる。

 ただ一人、俺を除いては......。


「まあまあ! 落ち着いて! 部員にはなってないけど協力はするから!」


 お前が部員ではない事がショックで泣いているのではない。

 お前、感情を読み取る下手アルカ?

 もっと、俺みたいに本を読め。

 そうすれば人の気持ちが分かるようになるぞ。

 まあ、人の気持ち分かっても活用する機会ないけどさ。


「協力??」


「うん! ジャジャジャジャーン!」


 昭和のコメディアンのような効果音と共にポプラはどこからか丸い円形の卒業証書等の紙を丸めて入れるような筒を取り出す。


「なんだそれは?」


「フフフ。何だと思う?」


「そういうのいいから」


「あーん。片割れのイケズ!」


「貸せ!」


 ポプラから筒を奪い中身を確認すると一枚の画用紙が入っており、それを広げると『部員募集!』とでかでかとした丸文字で書かれたポスターが現れた。


「ああああああ! お前、これって!?」


「泣くほど嬉しいか。片割れ。もう、あたしが部員募集しておいて______あれ?」


 俺はダッシュした。

 足がちぎれてもいい。

 もう、走れなくなってもいい。

 ただ、願った。

 ポスターが人目に触れないことを。


「うおおおおい!」


 愕然とした。

 廊下にビッシリと先程のポスターが貼られ、好奇の目で生徒達に見られていた。

 そりゃ、そうだ。

『友達部』とかいうへんてこりんな部活名だし、入梅の時期に部員募集の紙が貼られるなんて可笑しな光景だ。


「あ! 部長!」

「友達部長だ!」

「友達がいないのに友達部部長だ!」


 あかん。

 人生積んだ......。


「みんなー! 遊びに来てね!」


 廊下の隅っこでポプラの声が校内に響き渡り、俺は膝と両の掌を地面に着け、猫のポーズのような姿勢で人生の終焉を迎えた。

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