最近、俺の妹が俺をラブコメの主人公にしようとするのが地味にツライ

おっぱな

1-1. 俺の青春がラブコメにされる

 双子の妹______小鳥遊たかなしポプラは容姿端麗、成績優秀、まるでラブコメに出てくるヒロインのようだ。

 外国人のような金髪に青い瞳。これは俺達の母親から授かった天からの恵み。

 それに加えてポプラは巨乳だ。

 町を歩けば芸能界からスカウトされ、他校の男子にもその名を轟かせる。

 まるで物語の世界に出てくるようなポプラは男子からも女子からも好かれており、控えめに言って、超人なのだ。

 さぁ、ポプラへのお膳立てはここまで。


 兄である俺は運動も勉強も中の下。

 更に友達もいなければ、彼女も出来たことがない。

 ポプラは母親から日本人らしからぬ髪色と瞳の色を授かったが、俺はここでもババを引いてしまい、父親の黒い髪と犯罪者のような鋭い眼光を譲り受けてしまった。

 この目のせいで俺は学校で厨二病扱いされたこともあり、それが嫌で目を隠す為に眼帯をして登校をすると厨二病扱いに拍車をかけてしまい、自分でも「俺って、本当にお茶目な人間だな」と納得してしまった。


 マイナス要素ばかりのこんな俺だが一つ長所がある。それは、他人に対する誹謗中傷が得意という点。

 先日、仮想通貨が暴落した事があった。

その際、某掲示板で1憶近くを損失した奴に執拗に突っかかり、そいつのtwotterも特定し、ダイレクトメールも送ってやり、失意の底の底まで落としてやった。

 ここまで綺麗な人生の急降下を見る事が出来たのは久しぶりで、仮想通貨はある意味で俺にバブルをもたらしてくれた。


 俺は、クラスの連中から「妹に全てを吸い取られた双子の兄」という何のヒネリもないアダ名を付けられ、「厨二病よりはマシかなぁ」と納得してしまっていた自分を何か可愛いと思う。


「ねぇ! 片割れ!」


 ポプラは、教室の隅で冬眠中のてんとう虫のように寝ているふりをしている俺を乱雑に起こす。

 正直、ポプラが来るのは予見していた。

 だって、ポプラが通ると「あ! ポプラちゃんだ!」って周りの連中がざわつくんだもん。

 俺が通るとクスクス笑うくせにさ。


「あんた、友達出来てないでしょ!?」


 目を擦りながら上体を起こすと開口一番に心というものを抉られた。

 誰か今の台詞、動画で撮ってないかな?

 YoTubeで最新のパワハラ動画として晒してやりたいのだが。


「それくらいいるよ」


「だから、あたしが友達作ってあげる!」


 ポプラは俺の発言を否定するよりも酷い無視という手段で話を続行する。


「え、いや、マジで勘弁して」


俺が抵抗しているにも関わらず、ポプラは俺の手を掴み、廊下へ飛び出した。



 □ □ □


 

 俺は今、ポプラに連れられ、自分の教室とは異なる教室の扉の前に立っている。

 確かここは空き教室だったはずじゃあ......。


「へいへいへい! 驚くなよ片割れ!」


 最近、ポプラは俺の事を片割れと呼び、それを俺も強制させられている。

 由来はあれだ。

 某映画の片割れ時とかいう言葉に感化されたらしい。

 その前は兄さん、兄様、あにぃ、にぃに。

 どうせ、この呼び名もすぐに飽きる。


「で、何だよ」


「刮目せよ!」


 ポプラは大風呂敷を広げ、教室のドアをガラッと空ける。


「... ...何もないけど」


 空き教室の奥には使っていない机と椅子が積み上げられ、卒業式の後のような景色が広がる。

 一体何がしたいのだろうか。

 いや、それが分かれば苦労はしない。


「ウフフ! テンション上がるね!」


 空き教室でどうしたらテンションが上がれるのか。

 いや、一見、空き教室に見えるがそういう現代アートの作品なのかもしれない。

 タイトルを付けるとすれば『孤高の城』というのはどうだろうか。


「友達も彼女もいない片割れに機会を作ってやろうと思ってね! 私はここに友達部を作ろうと思うよ!」


 ......まただよ。

 アニメや漫画が好きなポプラは自分の趣味ややりたい事に人を巻き込む。

 もう、今週で三度目。

 ちなみに今日は火曜だ。


「いや! もう、本当にいいから! 勘弁してつかぁさぁい!」


 泣き叫ぶ俺をポプラは抱きしめる。

 ふわっと香るバラの香り。

 こいつ......!

 また、俺のシャンプー勝手に使いやがったな!


「片割れ。私は心配しているんだよ。高校生活が始まって、もう、二ヶ月経つのに君は彼女どころか友達も作ろうとしない。それは何故だい?」


「何故って......」


 俺は中学の時にも友達は作らなかった。

 それは何故か、この美し過ぎる妹が原因である。

 友達になろうと声を掛けてくる奴の殆どがポプラ目当てだ。

 遊ぶと称して、家に来て、ポプラの部屋に勝手に入ったり、酷いやつは下着を盗もうという強者もいた。

 別にポプラが可愛いとかそんなシスコン感情はない。

 俺が、彼らに利用されているという事実が気に食わんのだ。


「そ、そんなの俺の勝手だろ......」


「カラスの勝手でしょー! あははは!」


 もう......。

 良い雰囲気台無し......。


「いいから離せよ! こんな所誰かに見られたら______!?」


 教室のドアの脇で一人の女生徒がこちらをジッと見ている。

 俺は心の中でそいつが幽霊であることを祈ったが、黒いロングヘアの前髪ぱっつんの女子は瞳を煌かせながら。


「き、近親相姦だー!」


 あぁ。

 なんだ、お化けじゃないのか。

 いや、まだ、希望を捨ててはいけない。

 近親相姦だー!

 って叫ぶお化けかもしれない。


「きし、きし、きし......」


 近親相姦の霊は鼻息をフンフンし、新種の虫のような奇声を発する。


「ん!? あ! ひまりちゃん! おつー!」


 ポプラは振り返り、近親相姦の霊に声を掛ける。

 いや、まだ、ポプラが霊能力者という可能性もある。

 希望は捨てちゃいかん。


「あ、ポプラちゃん! その、え、ごめん! まさか、お兄さんとそんな関係だったなんて」


「え? あぁ、これ? そうなのー! 私達、幼少の頃に離れ離れになって、つい最近から暮らすように______いて!」


 ポプラの頭にゲンコツをお見舞い。


「俺をエロゲの主人公みたいにするんじゃない」


 危うく、初対面の人に玄関でセックスする奴だと思われる所だった。


「これはこいつが勝手に抱きついて来ただけだ。そういう言葉で表現するな」


「うわー、尚更、怪しい。近親相姦する奴はみんなそう言うのよねー」


 そうなの?

 それって、近親相姦界隈で有名な話?


「片割れ! 紹介するね! 田井中ひまりちゃん! 趣味で際どい同人誌書いてるから部活の人間以外はあたししか友達いないんだよ!」


 そうか。

 目の前の女生徒の事は理解した。

 だが、ポプラよ。

 その自己紹介の仕方は棘があるからやめてあげて。


「で、その同人誌バカは何の用だ?」


「同人誌バカって何なのよ! このシスコン!」


 シスコンじゃないもんー。

 だから、それを言われても悔しくない。

 ......ごめん。うそ。

 めっちゃ腹立つ。


「まぁまぁ! 仲良くしてよ! 片割れの友達候補なんだから!」


 耳を疑った。

 こいつが友達候補?

 いや、無理でしょ。

 丁重にお断りします。


「ポプラちゃん。ごめんね。あたし、シスコンの人って生理的に無理なの。あ、ブラコンはオーケーよ」


 なにその自分勝手な考え。

 イラっ。

 イライラし過ぎて、効果音を脳内再生しちまうわ。

 どうせ、こいつもBL描いてるんだろ?

 こういう根暗そうな奴と短髪の女子は大抵BL好きだ。


 あと、こいつ、俺の事をゴミのように見てくるんだけど。

 こんな、第一印象最悪な人間に初めて会ったの中学二年の時に告白したイノリちゃん以来だわ。


「ふふふ。いいね! これはラブコメの予感が......」


「するか!」

「あり得ない!」


顔を真っ赤にして田井中ひまりは帰ってしまう。

怒って帰ったというよりも、恥ずかしくて居づらくなったと表現した場合がこのシーンでは適当だろう。


「えー! そんなー!」


 俺の妹は容姿端麗、才色兼備なスーパー女子高生だ。

 兄である俺も恥ずかしながら妹に生まれてくれば良かったと思う程に完璧である。

 1/2を逃した俺は本当に運が悪い。


 ......いや、まだ良い方か。

 ラブコメの主人公になった時が本当の終わりである。

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