1-3. 友達部部長ですが何か?

 ______数日後。


 小鳥が空を舞い、教室には暖かな陽が入り、規則的に並んでいる机や椅子を優しく包んでいる。

 これは絶好の読書日和だ。

 夏を知らせる風はじゃれ合うように俺の頬を撫でる。


「よう! 小鳥遊! 僕と友達になってよ!」


 某魔法少女アニメに出てくる白い狸のセリフでこちらの緊張をほぐそうとしてくれるのはクラスメイトの飯島悟いいじまさとる君だ。

 彼は耳にピアスを開け、髪を茶色に染めているオシャレボーイ。

 彼はニタニタしながら僕の目を見る。

 一見、不良っぽい外見をしているが笑顔が絶えない気さくな奴さ。

 そして、僕はそんな彼にこう言うのが日課だ。


「... ...ははは。うん。そうだ______」


「やっぱり、無理ー! ガハハハッ!」


 飯島君の取り巻きは彼が馬鹿笑いするのに同調。

 そう。

 友達部の部長として全校生徒に知れ渡った時から飯島君とはこの遊びをして遊んでいる。

 というか、この遊びしかしていない。

 この遊びが楽しいとは思わないけど、彼が楽しんでくれるならいいじゃないか。

 でも、何故だろう。

 休み時間、いつも通り、寝たふりをするのだけれど、起き上がると袖の所が濡れているんだ。


 

 □ □ □



「うおおおおい! お前のせいで不良に悪質な絡み方されるようになっちまったじゃないか!」


「アハハ! いいじゃん! 話しかけられるようになって!」


 ______放課後。

 

 俺とポプラはきまってあの空き教室に集合している。

 それは未だに出来ない友達が勇気を出して来てくれるのを期待しているからだ。(ポプラだけ)


 最初のころは飯島君のようなオシャレ番長がよく遊びに来たり、ポプラの友達が「アハハ! 本当に双子なのに似てないね!」とパンダを見に来る感覚で見物に来たが今は来訪者は少ない。

 顧問の先生だという曽根先生がひょっこり顔を出す程度でこの部活は開店休業を余儀なくされている。


「でもさ! 人と話した方が楽しいでしょ?」


 ポプラは一点の曇りもない瞳で俺に問う。

 普通の人間はこの屈託ない笑顔を向けられるとこいつのファンになってしまうのだが俺はこいつと血のつながった兄妹。

 心も下半身も反応しない。


「楽しくない! 薄々感じていたがこの一件でハッキリした! 俺は一人が好きなんだ!」


「最近、学校でも家でもかえでは明るくなった気がする!」


 こいつ!

 徹底的に人の話を聞かないつもりだな!

 最近、片割れという呼び方に飽きたのか、今は普通に楓と呼ぶようになった。

 本当に自由な妹を持ったのを後悔している。


 ______コンコン!


「ん? はい!」


 珍しく教室のドアが叩かれる。

 というか、初めてな気がする。

 不良やポプラの友達はノックもせずにガラッとドアを開けるし、曽根先生はさっき来たばかりだし... ...。


「あ、あの... ...。入ってもいいでしょうか??」


 まるで弱っている犬のようなか細い声が聞こえた。

 教室の扉には小さな小窓が160cmほどの高さに設けられているのだが、声の主はそこから見えない。

 つまり、160cmよりも小さな身長の持ち主ということが視覚的知見から伺える。


 ポプラは口角を上げながら俺を見て。


「友達候補だ!」


「まだ、決まった訳じゃないだろ」


 ウチの妹は超が付くほどのプラス思考だ。

 大抵の事象をプラスと捉える。

 そして、俺は超が付くほどではないがマイナス思考だ。

 大抵の事象は面倒な事だと結論付ける。


「はいはいはーい! どうぞー!」


 招き声と共にガラリと扉が開き、現れたのは身長が120cmほどの栗毛の幼子だった。


「あ... ...。あの... ...。友達部ってここですか?」


 栗毛の少女は高価な宝石のような潤んだ瞳でこちらを見て、緊張しているのか飴細工のような細い手足を震わせる。

 プルンとした唇は未だ誰にも奪われていないのか薄いピンク色で、何故か背中には赤いランドセルを背負っていた。


「うひゃあああ!!! 可愛い!!!」


 ポプラは両の目をハートにして、目の前の可愛い生き物を抱きかかえる。


「うぎゃあああ!!! 何ですか!!! ひいい!」


 抱きかかえられた幼子は急に抱きかかえられた事に驚いたのか、狼に襲われる赤ずきんのような悲鳴を上げた。


「声も可愛い! 足も可愛い! 手も! 目も!」


 こんなにポプラが興奮するのは小さい頃に行った動物園でカピバラを見た時以来だ... ...。

 そういえば、あの時、進入禁止の柵を乗り越えて、カピバラを抱きかかえて高い高いしていたような... ...。


「離せ! 離せ! うぎゃあああ!!! お姉ちゃん!!!」


「可愛い! ほら! お姉ちゃんが高い高いしてあげるよ! げへへ!」


「止めて!! 止めて!! 高い高いやだああああ!!」


 幼子は足をばたつかせて必死に抵抗。

 ポプラはお構いなしに高い高いの姿勢を取ったので俺は声を荒げ。


「ポプラ! 今、高い高いをやったら______!」


「せーの! 高いたか______いっ!?」


 ______ゴン!


「あひゃあ~」


 だから言わんこっちゃない......。


「うわあ! ごめん! そんなつもりじゃあ!」


 場所も考えずに高い高いを強行したので幼子は入口のドア枠に頭を打ち付け、目を回してしまった。

 好きが乗じて相手を傷付けてしまうテンプレパターンを見た気がした。


「ど、どうしよう!」


 慌てるポプラに俺は何の捻りもない答えを提示。


「とりあえず、保健室だな」


 そして、俺とポプラは正体不明の幼子を保健室まで連れていった。




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