第5話「囮捜査」
もう辺りは暗くなり始め、夜へと近づく。
3人が乗る軽自動車は物静かに暗夜を進む。
運転手は助手の玉木だ。
「ヒフミさん。やっぱ夜はまずくないっすか?だってグールってもしかしなくても夜行性でしょ。」
「うん。」
「あなた、死にに行くんですか?」
「タマちゃん。僕らは決して戦争に行くわけじゃないんだよ。美樹ちゃんさえ奪還できればそれでいい。」
「…………その割にはちゃんと武器は持ってきてるじゃないすか。」
「まぁ正当防衛用よ。」
「俺、痛いのやなんすけど。」
「戦闘にならないように努めるよ。」
「いやいや、話が通じるわけないでしょー。あっち側にしてみればせっかく得た餌を取りに来たと思われるんですから。どう足掻いても交渉決裂でしょーよ。」
「はー?タマちゃーん。僕は交渉しようなんて一言も言ってませんけどー?隠密行動に決まっているでしょー?君、MGSシリーズやったことないのー?」
「あぁ?そんなもん知らねーし!」
「だっせーwwwwあの名作を知らないとはwwwwwwww情弱乙wwwwwwwww」
「おい、いちにさんぶっ殺すぞ。」
「いち に さんじゃありませーん。一二三と書いてヒフミですー。」
車内では探偵と助手の稚拙な口喧嘩が止まらない。
「あ、あの、お二人共。仲良くしてくださいよ……。」
車内の空気に耐えきれなくなった梨沙が口を開く。
「あ、気にしなくてもいいよ梨沙ちゃん。この玉木 銀という男はね、僕にいじられたいがためにわざと何かしら突っかかってくるんだから。」
「あぁ!?」
「な、タマちゃーん^~^」
「なわけねーだろポンコツ探偵。」
「む、ポンコツとは失敬な。じっちゃんの名にかけて怒るぞー?」
「あんたのじいさんただの一般人でしょーが。」
「じゃあ……、僕の名前は新畑一二三、探偵さ。見た目はイケメン。頭脳は」
「クソガキ。」
「その名は……ってコラーヽ(`Д´)ノ
誰がクソガキじゃー!」
「で、ポンコツ探偵。どうすんだ?どうやって潜入、美樹さんの奪還まで持っていく?そもそもグールの巣窟のマップとか頭に入ってんのか?」
「全然知りましぇーん。(*´ ー`)」
「は?じゃ、どうやって……。」
「手探りでーす。」
「頭おかしいんじゃねーの?もっと下調べしてから……。」
「じゃ、逆にさ。下調べすれば美樹ちゃんが捕えられてる位置が分かるもんなの?分からないでしょ?」
「…………。」
「でぇーじょーぶだ。僕には数々の事件を今までこなしてきた経験と鋭い勘があるからよー。」
「はぁ……。言っときますけど夜行性ってことは昼よりグールは戦闘能力高いですからね。五感も敏感だろうし。」
「何のために3人いるのよー。所詮は日陰でぼそぼそと暮らすグールの巣窟。そこまで広いわけじゃあない。マンホール下の下水道に勝手に住んでるだけ。手分けして探せば簡単に見つかるはずさ。」
「3人で……って、梨沙さんにも単独行動させる気っすか?死にますよ?」
「武器は持たせてあげるさ。それに自分が危険な目にあってでも助けると自らの意思と口で言ったんだ。それぐらいのリスクは持ってもらうよ。」
「探偵の端くれなのにどうしてこう頭脳プレーができないかなー。」
「早く行かないと美樹ちゃんが食べられちゃかもしれないうだろー?」
「じゃ、こうしましょ。ヒフミさんが囮になってわざと捕まってください。そしたら必然的にヒフミさんは美樹さんと同じ場所に行けます。そしてそこから俺らに連絡。そこへ行って美樹さんを連れ出します。ただそうすると獲物が一人減ってグールたちが怒るので、ヒフミさんに美樹さんと入れ替わってもらぃます。そうして今回の任務は完了です。」
「なるほどなるほど。それなら美樹さんの居場所も分かるし、確実に連れ出せる……ってコラーヽ(`Д´)ノ僕を置いて言ってるでしょーが!!」
「何か問題でも?」
「あるに決まってるだろー!なに素でキョトンとしてんだ!」
「はいはい。この作戦は無しにしてあげますよ。」
「いや、その作戦は採用する。しかし、ちゃんと僕も救出してね。」
「さいですか。じゃヒフミさん囮になって、美樹さんと合流したら連絡ください。」
「あいよ。」
「えっと……ヒフミさん……。いいんですか?そんな危険な作戦……。」
梨沙がヒフミを心配する。
「うん。けっこういいアイデアだと思うよ?」
ヒフミは一時的にとはいえ、自分が最も危険な目にさらされるのに厭わない様子だ。
「…………。」
そのまま車は目的地へと進む。
・
・
・
「ここら辺ですね……。この地下におそらく。」
玉木が車を停める。そこは住宅地から外れた全く人気のない墓地の付近だ。何も物音は聞こえないが、若干腐臭を感じる。
「おーおーおー。何とも雰囲気ただよう墓地ですこと。これだけ人気がなけりゃいくら人間を連れ込んでもバレにくいってか。」
「近くにマンホールとか地下に繋がるものないですか?……つってもこの暗さじゃ探しようがないし、かといって懐中電灯はアウトだし。」
「そうだなぁ……。散策しようにも車が……。」
「あまり車を放ったらかしにはできませんからね。いつでも逃げれるようにしないと。」
「あの……。」
梨沙が2人に小さな声で声をかける。空気を読んでヒフミも小さな声で答える。
「どうしたの?」
「何か…………います。」
「「!?」」
ヒフミと玉木は驚いたが、それを表面に出さないように振る舞う。ヒフミは梨沙の顔を掴み、こちらに向かせる。
「な、何を……!」
「梨沙ちゃん。相手の方ばかり見てはだめだ。梨沙ちゃんが気づいたことがバレてしまう。あくまで気づいてないよう、平静を装うんだ。」
「は、はい……。」
ヒフミは手を離し、車に戻りエンジンをかける。
「それで、どこに……?」
「南東の木の影です……。じっと何かが私たちを見ています。」
「南東……あ、いましたヒフミさん。確かに見てます。」
玉木はそっち側は向かず靴紐を結びながら言う。
「おっけ。じゃ、別れるとしよう。僕はここに残るから君たちは車で一旦身を隠してくれ。僕が肝試しで取り残されたという設定にしよう。」
「分かりました。」
「よーし!ジャンケンで負けた方が肝試しな!!!」
急に声を大きくしてテンションが上がっているように見せるヒフミ。
「いいぜ!ちゃんと回ってこいよ!」
玉木もそれに乗ってまるでバカなやつらの集まりのように振る舞う。
「じゃーんけーん、ポン!!うわぁ、負けたああああああ!!!!マジかああああああああああああ!!!」
実際はあいこだったが、ヒフミが負けたことになる。
「じゃ、暫くしたら戻ってくるからそれまでにちゃんと墓地を回ってこいよ!ギャハハハハハハハ!!!」
玉木はそう言い残し、梨沙と共に車に乗り込み何処かへ行ってしまった。
「…………さて。」ヒュウウウウウ
木枯らしが通り抜ける。ヒフミは、一人、墓地へと歩き出す。
「(まだ見てるな……。完全に入らないと襲ってこないか……?グールは、1人……だな。)」
ヒフミは視界の端っこにグールの姿を入れたまま、それでも決してグールの方は向かず、歩いてゆく。
…………。
「(動いた!後ろから回り込もうとしてるな……。)」
「ん?」
ヒフミはわざと振り返る。しかし、当然グールは姿を隠している。
「(近いな……。そろそろか……。)」
そしてヒフミが前へ向き直した瞬間。
「!!!」
・
・
・
玉木と梨沙は車の置き場所を探していた。
「大丈夫でしょうか……。ヒフミさん……。」
「大丈夫ですよ。あいつなら。」
「………………。」
「梨沙さん。よく見えましたね。俺とヒフミさんでも気が付かなかったのに。」
「着いた瞬間、何か視線を感じたんです……。」
「視線……。そうか、若い女性の方がそりゃ狙われやすいよな。それでも気づいたのは凄いですよ。」
「あの、今思ったんですけど。ヒフミさんが囮になって捕まったら、連絡手段のスマホは没収されてしまうんじゃないですか?」
「あぁ、それなら大丈夫。あの人、髪の毛の中に小型の通話装置持ってるから。いくら何でも髪の毛の中は調べられないでしょ。」
「髪の毛の中……!すごい装置ですね……!」
「あの人は探偵七つ道具の1つだ!とかほざいてるけど、実際七つもないんですよね。」
「へ、へぇ……。」
「ところで……梨沙さん。分かりますか?」
「……はい。ちょくちょく居ますね。」
「流石。あなた才能ありますよ。将来こういうお仕事どうですか?」
「そ、それはちょっと……。2、3人が木の影から見てましたね……。」
「ですね……。って、梨沙さんは怖くないんですか?普通の人なら得体のしれない生物が自分たちを監視してるって状況に置かれたら恐怖で動けなくなるのに。」
「確かに……怖いですけど……。私にとっては美樹を失う方が怖いですから……。」
「…………そうですか。友達思いですね……。」
玉木は墓地の周りを大きく周回して、ヒフミから連絡がくるまで時間を潰していた。停車するとグールに襲われる恐れがあるからだ。
「うーん。どうしようかな。これじゃガソリンが減ってく一方だ。かと言って止められないし……。あの野郎、早く連絡寄越せし…。あ、梨沙さん。後ろの荷物を置くスペースにヒフミさんがあなた用の武器を置いてると思うので取っておいてください」
「は、はい!後ろですね!」ゴソゴソ
「どうですかー?何がありました?」
「あっと、スタンガンと……拳銃!?」
「へー。何色ですか?」
「く、黒です。」
「コルトパイソンか。女子高生なら自動拳銃の方がいいとは思うけど……。まぁ、いいでしょう。」
「いやいや、日本で拳銃はアウトじゃないですか!?」
「グールには驚かないのに、拳銃で驚かないでくださいよ。危ない仕事をしてるんですから持ってて当然ですよ。」
「そういうことじゃなくて法律が……………いや、もういいです。」
ピピピピピピピッ
「お、ヒフミさんから来ましたね。」
「え、本当ですか!」
「はい、今出ますよーっと。」
ピッ
玉木は腕時計のスイッチを押す。玉木の通話装置は腕時計型のようだ。
「ヒフミさん。どんな感じっすか。」
「…………タマちゃん。それに梨沙ちゃん。」
「ん?」
「美樹ちゃんは……もう……諦めた方がいい……。」
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